事故後初の遠出 その2
「ふふ、□□ちゃんこれはどう?」
「んー、じゃあこうで。」
遠出に行く道中の車内。
後ろを二人で広々と使いつつ、テーブルでボードゲームをする。
将棋やチェスに似たボードゲームで、なかなか奥が深い。
道中の運転は、
「崩したら降ろして私が運転する。そのときはあなたたちは徒歩だから。」
という紫杏さんの圧により非常に揺れなく走らされており、現状一度も盤面が崩れることはない。
お姉さまと龍斗さんを前に配置すると二人で揉め始めてなどと想像したのだが、非常に静かにつつがなく進行している。
「これ、とても面白いですね?」
「そうなのよ。大学でちょっと触ってからこういうのハマっちゃってね。」
ルールを理解するために最初は軽く相手してくれつつ、理解したところでしっかり本気で来てくれたので上手く引き込まれてしまった。
先ほどから何とか紫杏さんに勝とうと熱中しきりだ。
「□□。」
「はい?」
助手席からお姉さまが顔を出す。
その首には『私は謝罪より先に言い訳しました』とダンボールの板がかかっている。
それを見て笑いそうになるのをこらえる。
「しんどかったりはしないか?車、どこか停めて貰おうか?」
「えっ?」
「麗ちゃん、急にどうしたの?」
「いや、なんだか□□の声が少し調子悪そうだなと思ったから。気のせいなら良いんだ。」
もう。この人は。
いつだってこうしてすぐに気づいてくれるのだ。
「実はちょっと車に酔っちゃったみたいで。ごめんなさい、少し休憩入れて貰っても良いですか?」
「もちろん。龍斗、頼む。」
「ああ、あっこにコンビニあるしそこに停めるか。」
「ごめんなさい、気づかなくて。お水飲む?」
私が素直にそう告げるとみんなが掛け値なしにそう心配して動いてくれる。
ああ、別に我慢しなくて良かったんだ。
ありがたいことだと思いつつ、コンビニの駐車場に入り休憩を取る。
「降りれるか?」
「降りれますが、お姉さまの手をお借りしたい気分です。」
「ふふ、いくらでも。あそこで少し休もうか。」
「はい。」
なんだか少しお姉さまに甘えたくなった私は、率先して降りて後部のドアを開けてくれたお姉さまの手を借りる。
「ああいうとこあるのよねえ、麗ちゃん。さすがよね。声で気づくし。」
「元々優しい奴だしな。」
そんな紫杏さんと龍斗さんの会話を背に私はお姉さまに誘われ少し休む。
後で二人にも礼を言おうと思った。
◆ ◇ ◆ ◇
「麗香、上流に良い釣りポイントがあるんだ。行こうぜ?」
「本当か?」
到着し荷物を広げて早々。
首から『私は説教中話を聞いていませんでした』と『私は謝罪より先に言い訳しました』のダンボールを下げた二人組は釣り道具を取り出しきゃっきゃしている。
紫杏さんに良いんですか、あれと目線を送ると仕方ないわねといった顔で返される。
「大事なものは車に入れておくから、鍵だけ渡して。よし。じゃあいってらっしゃい。」
「「いってきます!」」
龍斗さんとお姉さまは釣り竿を持って上流へ向かって走ってゆく。
そんなに走って転ばない?大丈夫?
「龍ちゃんが危険と判断したらしっかり止めたり帰ってきたりしてくれるから。安心なさい?」
「…そうですね。」
心配といえば心配だが、ここは二人を信じて任せよう。
「私たちもちょっと歩こっか。」
「そうですね。」
今日来たのは、地域の自然公園。
綺麗な川の通る整備された山地で、良くピクニックやバーベキューなどに利用される。
かく言う私たちも今日はピクニックに来たというわけだ。
「じゃじゃん。実はアヒルちゃんの居る散歩コースがあるらしいのよ!一時間くらいで元に戻ってくるコースなんだけど、行ってみない?」
「おぉー、アヒルですか。良いですね。見に行きましょう。」
アヒルも可愛らしいものな。
野生なのでふれあえはしないみたいだが、かなり近くで見れるらしい。
私たちはアヒルを見るために意気揚々と歩き始めた。
◆ ◇ ◆ ◇
ぐわっぐわっ。
たくさんのアヒルが鳴きながら私の後ろをつきまとう。
追いつかれるとその黄色いくちばしで容赦なく私を啄んでくる。
「□□ちゃん!ああもう、アヒルちゃん止まって~!」
「ひぇっ、助けてお姉さまぁー!」
私はアヒルたちから逃げようと走り、紫杏さんはそんなアヒルを止めようと頑張るが、その甲斐なく私はアヒルから追い立てられる。
私が何をしたというのだ。
「…今、□□が私に助けを求めたような。」
「あん?気のせいだろ。そもそも紫杏がいんだから大丈夫じゃねえか?」
「気のせいだとは思うが…」
「おっ、五匹目。」
「なっ!?龍斗、負けんぞ!」
「…相変わらず一匹も釣れてねえのによく言うよ。」




