カツサンド
薄いサンドイッチ用のパンに、キャベツの千切りを乗せて、ソースをたっぷりと塗る。
そこに今揚がったばかりの衣から音がするようなトンカツを乗せ、辛子をちょろっと。 上にパンを重ねると包丁を入れていく。
ざくりざくりと耳触りのいい音が響く。
お姉さまはふんふんと嬉しそうに左右から覗き込む。
「はいはい、もう食べれますからね。」
「皿、持ってきたぞ。」
お姉さまが静かに皿を差し出す。
速いな、おい。
「そーですか。…はい、持って行って良いですよ。」
お姉さまの差し出した皿に今切った分を乗せてやる。
「ありがとう!美味しそうだ!」
「あっ、もう、走らないで!転けますよ!」
小走りで皿を持ってゆくお姉さまの背にそう声をかける。
転んで泣くことはなかろうが…
「お茶とコップも用意しておくからな!」
「あっ、転びますって!もう!」
戻ってきて後ろを駆け抜けて高速で冷蔵庫からお茶を取り出しコップを取ってテーブルに帰って行くお姉さまに更に声をかける。
というかもう居ないし。速いな。
私は更に揚がったトンカツを同じようにパンに乗せてカットしていく。
三斤のサンドイッチ用食パンをあらかた使い切ってしまった。
一人じゃ一週間は保ちそうな量だが、お姉さまがいるし。
「出来たか?」
「出来ましたよ。」
「はい、皿。」
「はいはい。」
用意の良さに苦笑しながらも私は残りを全て皿に盛る。
「じゃあ、いただこうか!」
「はい、今行きますから。」
私は軽く洗い物をシンクに集めて手を洗い、早足でテーブルへ向かう。
テーブルの上はしっかりと食べる準備がされていた。
「さぁ、座って。」
お姉さまが私のイス横に立ち、イスを引いてくれる。
所作が王子様のように様になっているなといつも思う。
「ありがとうございます。」
「ふふ、ではいただこう!」
「はい。」
「「いただきます。」」
私たちは手を合わせると、思い思いに皿からカツサンドを取り口にしてゆく。
「やはり…リシアの…カツサンドが……一番だ!」
「喉詰めますよ?」
勢いよく食べながら合間合間でそう話すお姉さまに落ち着いてツッコミを入れる。
「でも、そんな特別なことはしてないんですけどねぇ。」
「私にとってはこれが特別なんだ。」
幸せそうに口いっぱいにカツサンドを頬張るお姉さま。
その様子を見ていると、その言葉が嘘でないことはよくわかる。
「何が良いんですか?」
「リシアが私のことを想って作ってくれたのがいっぱい伝わってくるから。」
「何ですか、それ。」
思っていたのと違う方向の答えに苦笑する。
「最初も、私がカツサンドが好きなのかな?って考えて作ってくれたろ?それが本当に嬉しかったんだ。」
「…まぁ、そうですけど…」
「その気持ちを感じながら口にすると最高に美味い。」
「へぇ…」
「しかも、味付けもちょっと変えてるだろ?前よりソースが増えてる。私好みだ。」
そう。ソースは最初のころより格段に増やしている。
お姉さまは濃いめの味付けが好きだから、たぶんそっちのが良かろうと判断した。
「これはどの料理もだけど。私が好きと思う方へちょっとずつ変えて行ってくれてるのがとっても嬉しいよ。」
「そうですか。」
顔が熱くなるのを誤魔化すように私はカツサンドに口を付ける。
私には少し濃すぎるソースの量は、その発言を裏付けていて。
それはそう、なんだけど。
少し恥ずかしい。
「だから、私にはリシアのカツサンドが特別なんだ。これは、私の為のカツサンドだから。」
「…オーバーですねぇ。」
面と向かって話しているのについにやけそうになる。
褒め上手なんだから。
「そんなのでよければいつでもお作りしますけど。」
「うん。私は幸せ者だな?」
お姉さまは笑ってカツサンドを一気に頬張った。




