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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部五章 愛してる
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新しい友人

「では、午後からも頑張ってな?」

「はい。お姉さまこそ気をつけて帰ってくださいね。」

「ああ、家で帰りを待ってる。」


私はお姉さまを正門まで送り、ひらひら手を振って見送ろうとする。

お姉さまはそれを見てにこりと笑うと、私の腰を軽く引き寄せてキスをする。


「ふふ、名残惜しいな。」

「人前でやめてください!」

「いってらっしゃいのキスだ。仕方ないだろう?」

「馬鹿なんですか?」

「恋人のことになると馬鹿になると評判だ。」

「そうですけど、だから許されるわけではないですよね。」

「おお怖い。離れがたいがここらへんで退散しよう。」

「はぁ、気をつけてくださいね。」

「ああ。のんびり帰るさ。」


今度こそ本当にひらひら手を振りお姉さまを見送る。

本当に困った人だ。

溶けてしまいそうなくらい熱くなった頬を手で抑える。

今触れあったばかりというに、もうあの唇が恋しくなる。

そんなことは、口が裂けても言わないけれど。

さて、お姉さまから元気を貰ったところで午後からも頑張りましょうか。


「あの。ちょっと良いかな?」

「わ、わ、私ですか?」


学部棟へ戻ろうと踵を返した私の背に声がかかる。

大学で私に声をかける人など居ないのでいぶかしみながら後ろを向く。

知ってる顔だ。確か同じゼミの…


「こんにちは、西条さん。同じゼミの高原たかはらです。」

「こんにちは。な、何かご用ですか?」


そうだ。高原さん。

声を掛けてくれたのは良いが、普段特に絡みがあるわけでもない。

何の用だろうか?


「今の人、雑誌モデルの麗香さん、だよね…?」

「だとしたら何ですか。」


私はこの言葉が出て来た瞬間意識を切り替え警戒する。

お姉さまのファンだろうか。

ファンによっては交際を咎められたり、個人情報をせがまれたりしかねない。

最大限の警戒が必要だ。


「あ、ごめん。別に麗香さんがどうこうじゃないんだ。ただ知ってたから。それより聞きたいことがあって。」

「…何でしょう?」


そう言われてもまだ油断ならない。


「西条さんと麗香さん。二人はお付き合いしてるの…?」

「そうですが?」


負けまいとあえて自分を強く見せるために自信満々に言い切る。

こういう時開き直る方が良いのだとお姉さまが普段の行いで証明している。

とはいえ開き直ってよいとは言ってませんけどね。ねえお姉さま?


「すごいなぁ、はっきり言い切れちゃうんだ…」

「やましいことなど何もありませんし。」


お姉さまは確かに有名人かもしれないが、恋愛どうこうを禁じられる謂われは全くない。

もちろん雑誌の売れ行きや化粧品の販促などはお姉さまの人気に関わってくる面はあるだろうが…

アイドルみたいに擬似恋愛で売っているわけでもない。

何か文句がありますか。そんな目で相手を見る。


「いやー、あはは。あのね、ぶっちゃけちゃうんだけど。実は私も女の子が好きなの。で、今ちょうど好きな子が居てさ…」

「はぁ、そうですか。」


だから何だ?

話が見えてこない。


「でもほら、女と女ってけして一般的ではないし。その、色々あるじゃない?受け入れてもらえるかもわからないし。それでずっと悩んでたところに、正門のど真ん中でキスするあなたたちを見ちゃったものだから。」

「なるほど。」


少し言いたいことが伝わってきたかもしれない。

ただ、正門のど真ん中でキスと改めて表現されると大変こっぱずかしい。


「二人はどうやって好き合って、お付き合いして、周囲の目を気にせず活き活きと仲良くできるようになったんだろうって。聞いてみたくなって…」

「あの、周囲の目は気にしてますからね!?私は!気にしてないのは麗香さんの馬鹿一人ですからね!?」

「あはは、本当に二人とも仲が良いんだね。」

「どうして今の言葉かららそんな解釈に…?」


確かに私たちは愛し合ってはいるが、見ず知らずの他人の前で仲が良いと評されるようなことは私はしていないのだ。

勘違いしないでほしい。


「それでね。二人は悩まなかったのかな?…お付き合いするまでに、色々。よかったら聞かせてくれない?今まであまり絡みが無い中、不躾なのはわかってるんだけど…参考にしたくて。」


少し困った。

別にお姉さまと私のどうこうを話すのは構わないのだが…


「あの、断っておきますが、私、別に女の人が好きなわけではないですよ…?」

「そうなの!?」

「ええ。たまたま好きになった人が麗香さんって女の人だっただけで、取り立てて女性が好きというわけでは…麗香さんも恐らく…」

「はぁー、そうなんだ。」


高原さんは目を丸くして答える。

そりゃそうだ。

おそらく私たちみたいなのは異端の中の異端だろうから。


「上手く言えないんですけど…私はまだ性別で恋愛をしたことはないので、参考になるかどうか。」

「性別で…恋愛をする…」

「気づいたら麗香さんって人が好きだったものですから、その同性故の葛藤とか、性的少数派のどうこうとかはあまり…性的な目で相手を見れるのかということは少し思い悩みましたが、それだけですね。」

「そっか、そうなんだ…」


高原さんは静かにそう呟く。

同志と勘違いしていたのだ、がっかりさせたかもしれない。


「あの、やっぱり参考にならないですよね?ごめんなさい…」

「そんなことないよ。…本当に、参考になる。」


社交辞令でもそう言ってくれると助かる。

変な奴で申し訳ない。


「あのさ、良ければ二人の馴れ初めとかもっと聞かせてほしいんだ。良いかな?」

「構いませんが…次の必修のマクロ経済、出ますよね?どうせおじいちゃん話し込んでても何も言わないでしょうから、そこでどうですか?」

「あはは、良いね!」


私たちはマクロ経済の講堂へ歩き始める。


「それにしても、西条さんがこんなに面白い人だと思わなかった。もっと早くからお話していればよかったな。」

「そんな、面白いことは何も…それに大学では基本話しませんから。」

「そう、近寄るなーって雰囲気出しまくってて。でもこうして気さくに話してくれるのびっくりした。」

「何ですかね…まだちょっと初対面はどもるし引っ込み思案になるんですが…昔よりは結構鍛えられちゃって…」

「麗香さん、ザ強い女って感じだものね。苦労させられた?」

「そうなんですよ!もう!」


私が愚痴り始めると、それをニコニコと聞いてくれる。

なんだか楽しくて、講堂まではすぐだった。


◆ ◇ ◆ ◇


「ってことがあったんですよ。」

「へぇ…それで、連絡先は交換したのか?」

「ええ。定期的に一緒に授業受けることになりました。」

「へぇーー…」


私が家に帰ってお姉さまに今日のことのあらましを話す。

楽しかったことは是非お姉さまにも共有したい。


「正門前でキスなんてことしでかしてくれたのは肯定出来ませんが、お姉さまのおかげで出来た縁ではあります。ありがとうございます。」

「どーういたしまして…」


歯切れが悪いばかりではなく、妙にふて腐れたように言葉を伸ばすお姉さま。

なにやら今日は機嫌が悪そうだ。

大学まで歩いてきて疲れたか?


「さっきから何で微妙に機嫌悪いんですか?私、何かしました?」

「知らない。自分で考えたらどうだ?」

「こういう時きっぱり物言いするのがお姉さま唯一といっていい長所でしょう!」

「私に良いところなんて一つもないってことだな。」

「もう!何ですか面倒くさい!」

「面倒くさい女ですが?」


もう何なんだ本当に。

この後しばらく機嫌をとろうと試みるも、とりつく島もなく。

本格的に面倒くさくなった私は、お姉さまに口付けをすると一気に機嫌が戻り。

ああ、妬いてたのかとそこで自覚する。

どんな関係が増えても、恋人という関係になるのはあなただけなのに。

可愛い人だなと思った。






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