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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部五章 愛してる
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誘惑

「お姉さま、そろそろ寝ましょうか?」


私は肩にもたれ掛かりながらごしごしと眠そうに目をかくお姉さまに声をかける。

まだ終わってはいないが、お姉さまがこうして眠そうならば私もここらで切り上げるのが良いだろう。

お姉さまの存在が根を詰めずに済む良いストッパーになってくれる。


「ん?もう良いのか?」

「はい。後はまた明日に。」

「ふふ、わかった。じゃあ少し歯を磨いてくる。」

「あれ?お風呂上がりに磨いてませんでした?」

「あの後砂糖入ったコーヒーを飲んだからな。念のために寝る前にもう一度。」

「なるほど。では私も。」


ここらへんの私生活の感覚の違いは、二人が長く他人であったことを自覚させる。

だが、お互い理解し合いながらこうして吸収し合えば良いのだと思える。

うん、それはお姉さまだからだというのもあるだろうな。

二人並んでしゃこしゃこと歯を磨く。

今日何度目かな。幸せだな、と思った。


◆ ◇ ◆ ◇


そして昨日と同じく、二人同じベッドに横になる。

狭いシングルベッドだが、今まで二度共に寝て相手を不快に感じたことはない。

向こうはどうかは知らないが。

でも、いつかはベッド買わなきゃいけないのかな。

だとしても、ダブルベッドで一緒にが良いな。


お姉さまは割と遠慮なくベッドに入る。

昨日もだが、もう少しだけ照れて欲しかったな、なんて思う。

私がお姉さまに背を向けるように横になると、お姉さまは後ろからギュッと抱き締めてくれる。

足を絡め合い、頭のてっぺんにお姉さまの顎が当たる。

うん、この体勢が好きだ。

あなたに包まれて寝る夜のなんと安心出来ることか。


「なぁ。」

「何です?」

「…いや、何でもない。」

「何でもないことないでしょう。言い出したんですから最後までお願いします。」


途中で言いよどまれると気になって寝づらいじゃないか。


「…こう、なんだ。一緒に暮らして、リシアは楽しい?」

「何ですか藪から棒に。」

「なんだか、こうしているとああ、今一緒に暮らしているのだと感慨深くなって。楽しくなってしまって。それでリシアにも怒られたわけなんだが…」

「そのことなら、もう怒ってませんよ。」


いつまでも怒っていても仕方ないし。

これからも喧嘩したり怒ったりはするだろうが、別にそうして分かり合っていけばいいのだ。


「うん。でも…なんだか、私ばかり楽しくなっている気がして。ほら、リシアは割といつも通りだから…楽しくないんじゃないか、って…いだっ!」


私は思いっきり頭を上げてお姉さまの顎を攻撃する。

私も頭頂部が痛い。

まったく、要らぬ心配をするものだ。


「楽しいですし、幸せですよ。もちろん。」

「…本当に?」

「ええ、そうですね。帰って来た時に迎えていただいたのも待っている人が居るって良いなと思わされましたし、レポートにつきあっていただいたのも肩の重みが幸せだなって。歯磨きはちょっと私と感覚が違って面白いなと思いましたし、今こうしてお姉さまに包まれながら寝るのは良いなと思ってますけど。」

「…私と同じ様なことを思っているのだな?」

「そりゃそうでしょうよ。」


今までだっていつも同じことをして同じように思えるから楽しいって共にしてきたんじゃないか。

今更だろう。


「そうか。良かった。…愛しているよ、リシア。」


お姉さまは耳元でそう囁く。

それがとてもこそばゆいような、頭の痺れるような感じがして。


「…それ、こそばゆいのでやめてもらえます?」

「でも、愛を囁けて幸せだ。リシアは?」

「はぁ、すぐ調子に乗る…。」


私は照れくさくてため息を吐く。


「ふふ、じゃあリシアは私に何して欲しい?」

「そのまま寝ていてください。寝たいので。」

「本当は?」


耳元でさらにそうお姉さまは囁く。

ああ、とろくさい私でもわかる。

そういうお誘い、なのだろうけど。


「ダメですよ。ダメ。」

「どうして?嫌か?」

「…嫌では…ないですけど…」


むしろ玄関口でのキスからずっとそういう気分ではあるが。


「じゃあ、良くないか?」

「…お姉さまには手慣れたことで御座いましょうけど?私は初めてですので、もっとロマンチックな所で思い出深いようなのが良いんです。」

「私だって初めてだが?」

「へぇ。えらく手慣れてるなぁといつも思ってますけどね。」


いつも私よりよっぽど余裕があって。

それが悔しいのだ。


「本当だよ。私はリシアしか愛したことがない。紫杏にでも私の恋愛遍歴聞いてみろ?」

「ふぅん。それで出て来たら私拗ねてお姉さま叩き出しますからね。」

「それは怖い。紫杏に嘘を吐かないよう言っておかないとな。」


何でも初めてでないとダメ、とは言わないが。

初めてというのに手慣れた違和感が嫌なのだ。


「そうだな?昔々、前世で私はやっぱりリシアと恋人でいっぱい愛し合ったんだ。それを思い出したから、手慣れた感じなのかもしれない。」

「それ信じると思います?)

「信じないだろうな。でも本当なんだよ。」


誤魔化さず言って欲しいのだが、これ以上はらちもあかないだろう。

素直に折れておこう。


「…まぁ、そういうことなので。今はダメです。」

「じゃあ、いつ?」

「…そうですね。」


本当は初日の夜に、と思っていたのだけど。

二人とも疲れててベッドに入ったが最後すぐに寝息をたててそのまま朝だ。

でも、そういうメモリアルが良いのだ。

…お姉さまが事故らなかったら初キスの日にが良かったんですけどね。


「今度行く温泉旅行とかですかね。」

「…それまで私は生殺し?」

「そうですね。死んでてください。」

「キツいなあ、それは。」


お姉さまは嘆くようにそう呟く。

確かに私もちょっと思うところはあるんだけどね。


「我慢できたら、ご褒美あげますよ?」

「ご褒美?どんな?」

「ふふ、内緒でーす。」


私はちょっと頭の中にあった計画を実行に移そうと決意する。


「…まぁ、リシアが嫌だと言うなら仕方ない。」


律儀なものだ。

こうして一緒にベッドに入っている時点で多少仕方ないものではあるのに。

私のメモリアルが良いというわがままに付き合ってくれる。


「まぁ、私はリシアのものだから。持ち主の意向に従うまでさ。」

「良い心がけですね。」

「でも誘惑はしちゃおうかな?」


お姉さまはまた耳元で良い声でそう囁く。

また背筋がゾクリとする。


「やめてください、もう!」

「嫌だ。愛しているよ、リシア?」

「お姉さまの意地悪!」


明日そんなに早くないとはいえ、これは寝れるんだろうか。











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