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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部四章 君の全てを
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うぬぼれ

麗香視点です。

かつんかつんかつん。

今日もあの足音が聞こえてくる。

あれだけ心ない言葉を、態度をされても。

やはり今日も変わらずあの足音が聞こえてくる。


「おはようございます!お姉さま!」


今日も元気に。でも顔色は優れず。

リシアは病室に訪ねてくる。


「お姉さま、昨日テレビカードが残り少なかったので買っときましたよ!どうぞ!」

「…施しは受けない。要らない。」

「まぁまぁそう言わず。冷蔵庫にも使いますし、何よりずっとベッドだとテレビ見るくらいしか娯楽が無いじゃないですか!」


リシアはそう言ってふりほどけないのを良いことに右手にそれを握らせる。

ちらりと見ると、一枚1000円のカードの束が輪ゴムで留められている。


「…馬鹿じゃないのか。」

「ふふー、馬鹿ですとも。推しには貢ぐもの、です!要らないなら紫杏さんに頼んでお金に戻してもらって好きに使ってください。」

「先ほど言ったとおりだ。後で紫杏に西条さんに返すよう言っておくからな。」

「紫杏さんはお姉さまより話が通じるので別に構いませんもーん。」


リシアはふんふんと鼻歌を唄いながらカバンを漁る。

タオルを取り出し、ニコッと私を見る。


「お体、お拭きしますね!お湯お借りしてきます!」

「やめてくれ。人を呼ぶぞ?」

「どうぞどうぞ、毎日通ってる私がお姉さまの体を拭いていたところで何の問題にもなりませんから。」


湯を借りて戻ってきたリシアに抵抗しようともがくが、今の私はリシアにも勝てない。

あっという間に服を脱がされる。


「ふふ、大怪我をしてもお姉さまの体は相変わらず素敵ですねえ。今綺麗にして差し上げますからね。」

「やめろ…」

「意地悪お姉さまですから、やめて差し上げませーん。」


体の隅々まで、傷に障らないように優しく私の体をタオルで拭いてゆく。

リシアに触られているということが私の心をとにかく痺れさせる。

心を無にしようと試みるが、全く効果がない。


「どうですかー?さっぱりしますかー?」

「……」

「…えいっ!」

「ひゃん!?」


リシアが左のわき腹を指でつつく。

体中をぞくぞくしたものが駆け回り、私はついあられもない声を出す。


「左は麻痺してませんからね。仕返しです!」

「……」

「無視するなら、いっぱいつんつんしちゃいますよ…?」

「…不愉快だ。やめろ。」

「仕方ないですねぇ。勘弁してさしあげますよーだ。」


リシアはその後も本当に隅々まで綺麗に丁寧に拭いてくれる。

私は抵抗することを諦めた。


◆ ◇ ◆ ◇


「今日のお弁当は!手作り牛丼です!どうですかー?食べたくなりませんかー?」

「二度と持ってくるなと毎回言っているはずだが。」

「食べないなら今日も余りは龍斗さん呼び出して食べてもらうしかないですねえ。こんなにおいしいのになー。」


味気ない病院食の横で、美味しそうなにおいをさせながらリシアはパクパクと牛丼を食べてみせる。

メニューの問題でないと解っていて、毎日こうしてメニューを替え必ずお弁当を持ってくる。

手間もそうだが、いつ寝ているのか心配になる。

…ちなみに、龍斗はリシアから弁当をもらうのに妬いた紫杏の弁当も毎日食わされている。


「牛丼もダメかあ。何だったら食べてくれるんですかね?」

「何も要らない。だから持ってくるな。」

「明日は青椒肉絲とかどうですかね?食べたくなりません?」

「食べない。要らない。解らないか?」

「じゃあ明日も残りは龍斗さん行きってことで。」


これだけはっきり拒絶されても、毎日食べてもらえずとも。

明日もリシアはお弁当を持ってやってくるのだ。

それが私にとってどれほど辛いことか、見透かすように。


◆ ◇ ◆ ◇


「□□ちゃーん。有名なお店のシュークリーム買ってきたわよ。一緒に食べましょう?」


紫杏がシュークリーム片手に病室に入ってくる。

今日も□□が居るのが当たり前のように。


「…□□なら、そこで寝落ちてるよ。」


私は椅子に座って眠っているリシアの方に目をやる。


「あら、疲れてるのねぇ。じゃあ冷蔵庫にしまっときましょうか。」

「私の分は無いのか?」

「あるわけないでしょ。麗ちゃんがごめんなさいするまで差し入れはしません。」

「ごめんなさいも何も、私は本気だが…」

「いい加減無駄だって気づいたら?私は最初からそう思ってたけど。」


紫杏は今までにないくらい冷たい目でこちらを見る。


「…無駄だと?」

「ええ。無駄でしょう。□□ちゃんがあなたを捨てるはずがない。麗ちゃん、お付き合いしててそれにすら気づけないの?馬鹿もいい加減にしたら?」


紫杏は深いため息をつく。

その顔は、本当に怒っているときの顔で。


「こうして私が冷たくあしらっていれば、いつか愛想を尽かすだろう。…□□は、今だってもうギリギリだ。この小さい体に、私という重荷をこれ以上背負わせてはいけない。」

「…あなた、今この子を小さいって言った?」


麗ちゃん、ではなくあなた。

突如として現れた線引きに私はゾッとする。


「麗ちゃんが眠って目を覚まさないとき、私たちがどれほど□□ちゃんに救われたか。毎日、あなたが目覚めても良いように駆けつけて、体を綺麗にして、ひたすら祈って。□□ちゃんは誰より諦めなかった。長いつきあいの私たちより、出会って半年程度の年下の女の子が。何より強くあなたを信じてた。この子は私たちの中で一番、強くて大きい。」

「だからこそもう、□□を私から解放して…」


そうだ。私という呪縛からもう解放してやりたい。

背負ってしまう子だからこそ、この小さい両肩にこれ以上重荷を背負わせたくない。


「うぬぼれてる身内ほど醜いものはないわね。」


紫杏は鼻で笑ってみせる。


「どういう意味だ。」

「そのままの意味ですけど?□□ちゃんがあなたに囚われてるとかいうふざけた思考、捨てたらどうなの?」

「そうだろうが。今だって、無理してまで毎日こうやって…」

「私の為に来てくれている?麗ちゃん、体は起きても頭はまだ寝ているの?」

「何が違う。言って見ろ。」

「自分でお気づきになられたら?頭寝たままでは無理だと思いますけど。」

「はぁ、もういい。」


今の紫杏は頭に血が上りすぎている。

話にならない。

とはいえ、紫杏の言うとおり、今のままでは難しいのかもしれないな。

心を鬼にして、もっと厳しく突き放して行かないといけないのかもしれない。


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