もう一度
麗香視点です。
白い、何もない世界。
はて、見覚えがある気がするのだが。
一度見れば忘れなさそうな光景なのに思い出せない。
「わっ、すごいな君。□□なんて二度目来たときには完全に忘れてたのに。」
「…どちら様でしょう?」
捕らえ所のない人間?が目の前に現れる。
男性なのか女性なのか。
どんな顔をしていたか。
高身長か低身長か。
体格はどうだったか。
意識して視界に入れようとするがなぜか情報が頭に入ってこない。
「そーいうものだからねえ。諦めな?」
「そういうもの、ですか。」
というか、思考が読まれている?
さては、夢かもしくはそういった超常的存在か--あ。
「もしや、この世界に私を転生させた神様ですか?」
「察しがいいね!久しぶり!」
やはり。しかしなぜ今まで忘れていたのか。
「軽量化の為に毎回記憶を消してるからねえ。必要なことだけ残して。」
軽量化?軽量化とは。
「それは後でにしよっか。それより先にやらなきゃいけないことがあるからね。」
「…私は、死んでしまったのですか?」
ストレートに疑問をぶつけてみる。
苦笑いのような声が聞こえる。
「まぁ、そうなるね。このままだと。」
「含みがある言い方ですけど、つまりは助けていただけたりするのですか?」
「そうだね。このままじゃ□□がまた不幸になるから。今回だけ。」
「本当に感謝の念に堪えません。」
命を救っていただけるとは普通中々ないことだろう。
私は恵まれている。
「いやいや、僕も万能じゃないからね。向こうの世界の神様だし。今回も君たちの力を借りるのさ。」
「というと?」
「君がレベッカの溢れた生命力から作られたものというのは覚えているかい?」
「ええ。何とか。」
「今回もレベッカから生命力をいただこう。」
「しかし、前回私を作るのに完全に半分に分割したんですよね?そこからまた取って大丈夫なんですか?」
単純計算、前回と同じ量持って行けばレベッカの生命力は0だ。
「いやぁ、ほら。リシアの血に癒しの力があるわけだけど…毎日くっつきあうだけならともかく、君たち血液にほど近い色々な体液を毎日の様に交換しあうじゃない…?もうすでに結構余ってるんだよね…。」
「ああなるほど。」
どうやら向こうの私は相変わらずラブラブらしい。
まぁ私たちが今更仲違いするはずもない。
「ということで、今回もその余った分を活用しよう。ただ、そこで一つ問題が発生する。」
「何でしょう?」
「世界を跨いで何かを転送するとき、それに見合うだけのデータをエネルギーとして燃やさなければならない。」
「燃やすとどうなるんですか?」
「思い出せなくなる。靄がかかったように。」
「前回の私は何を?」
「聡かったねえ、前回の君は。向こうの世界の情報は何一つ燃やしたくない。ここで得た□□の情報を燃やすと。」
「ああ、通りで□□の為に転生してきたことは覚えてても、□□についての情報は何一つ覚えてないわけですね。」
それでも私は見つけだした。
自分なら出来ると信じていた。
「ついでに、どうせ忘れるならここでのやりとりも燃やせと。確かに可能だった。そうして、君はほとんど損失無く転生したわけだ。」
「…リシアは、もしかして名前を?」
「そうだね。名前というものはシンプルだが重たい情報だ。□□はどうやら自分の名前はそこまで好きではなかったようだね。まぁ、それに違和感を抱くのは向こうから来た君だけなのだけど。」
「つまり、私は□□の名を認知することは不可能ということですか。」
「そうなる。だが、違和感を払拭するのは不可能だが、それ以外に抜け道は少しある。もう君はその一端に触れているはずさ。」
抜け道?なんだろう。
私がもう触れている…
「さて、そんなことより。君は何を燃やす?大事なのは重要度だ。ちなみにここでのやりとりを燃やす手は使えない。前回の君が燃やすと指定した範囲に入っている。」
「なるほど…」
「ふふ、これが楽しみでねえ。君は次はなんと答えるのだろうと。」
私の答えを楽しんでいるらしい。
全部が全部善意ではないということだ。ごまかしは効かないだろう。
「ごまかしも何も転送するのにエネルギーが要るのは確かだから。楽しんではいるけどね。」
燃やして良い情報、記憶。
それなりに重要な情報が必要だ。
取捨選択、と言っても重要なものは捨てられないわけで…
何を捨てれば良い?
前回の私は生命力を転送するのに燃やしたのが…□□の情報だな。それくらいの…
しかし、ほぼ二人分の生命力を半分に分割したとはいえ、さらにそこから余らせるとは本当に仲が良いのだな、私たちは。
ん…分割?
「良いところに気づいたねえ。」
「可能なんですかね?」
今脳裏によぎったのは、新たに転送されてくる生命力を半分に分割して、片方を燃やすことで転送するエネルギーとするという方法だ。
「完全に同じだけの量を燃やすと少し足りない。4対6くらいで分割すれば可能だね。」
「それをやるとどうなりますか?」
「死にはしないだろうけど、それ以上は保障出来ない。目覚めないかもしれないし、目覚めてもかなり障害は残るかもね。」
ううん、なるほど。
死にかけなのだからそれはそうか。
四割回復しても、四割でしかないのだ。
そうか。だが、最終的に十割になればいい。
「私が全快まで回復しきる間、適時向こうが余る度半分にして転送してもらうというのは出来るのでしょうか?」
「ふふ、可能だ。だが、それだと向こうの君たちが何かのキッカケで別れたらそこで終了になるね。」
それは問題ないな。私たちが別れることなんてないのだから。
「んー、そうだな。何かこのままじゃ都合が良すぎる。ちょっと条件つけさせてもらおうかな?」
「何でしょう?」
愉快でやっているのだ、変な条件をつけられかねない。
「そう警戒しなくてもいい、その徐々に転送する分を□□をポータルとして転送しよう。つまり、君と□□ちゃん、もしくは向こうのレベッカとリシアどっちかが会わなくなったら、そこで終わり。どう?」
「それで構いません。」
簡単な条件だ。
「自分で言うのもなんだけど、ここでの出来事は忘れるんだからね?君が目覚めて、四肢が動かないとかになって□□ちゃんを突き放さない自信、ある?治らないかもしれないんだよ?君からしたら」
「…いえ、突き放すでしょうね。彼女の重荷になりたくないと思います。」
「そしたらそこで終わりだよ?それより他の何かを燃やした方が良いんじゃない?」
そう言われるとそう言う気もする。
だが…
「私に捨てられるものは、何もないです。全てが今の私を作る大切なもの。リシアが与えてくれた、大切なものです。」
「じゃあ、良いんだね?」
「…まぁ、□□がきっと何とかしてくれるでしょう。ふふ、突き放しても捨ててくれないんじゃないですか?きっと。」
あの子の執着心はかなり強い。
こうして落ち着いて考えて見ると、私が何しようがたぶんそう簡単に手放してはくれないだろう。
後は、彼女を信じよう。
「解った。それで決まり。ではそう取りはからおう。」
「ありがとうございます。」
「最後に何か質問、あるかな?愉快だったし、何でも答えてあげるよ、今なら。」
先ほど思考の端に出てきた引っかかり。
それを聞きたい。
「…それかぁ。」
「ええ。私を転生させるときには私二人分の生命力を二つに分けて送ってきた。では□□、リシアはどうやって転生してきたのでしょう?仮に□□の生命力を分割したとしたら、長生きは出来ないのでは?」
「んー、安心してくれて良いよ?そこは。」
私は胸をなで下ろす。
生命力の分割について考えていたとき少し頭をよぎった不安だった。
「あれは少し君と成り立ちが違う。□□の名前を燃やして□□の記憶情報を転送したあと、リシアの半分をそれをベースに作り替えた。自分を作り替えられるのは本当に気持ち悪い。…あのリシアは二人の君への思いで出来ている。」
「そう…でしたか…。」
あのゲーム内のリシアも、私の為にその身を差し出してくれた。
その事実を私は今初めて知る。
「だからちょっとたまに分裂しそうになったりしたんだけどね。今は安定してるよ。」
「そうなんですね。」
そんなそぶりは一度も見せなかったが。
「だって溺れて君に会えないときに不安定になったんだもん。見たこと無いはずだよ。」
「彼女らしいですね。」
少し笑いが出る。
□□らしい。
「さて、話は終わり。じゃあ送るよ?」
「わかりました。」
□□、私はもう一度君に会えるらしい。
説明回でした。
一部でふんわりとだけあった設定構想を二部執筆段階でしっかり固めたものが多く、もしかすると多少の矛盾はあるかもしれません。




