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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第二章 知る
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水着選び

珍しくレベッカ視点です。

とまぁ、狩猟大会ではたくさんの出来事があった。

実は景品授与でも問題は起こったのだが…。まぁ些事だ。

そしてその問題の火消しとして夏休み期間の避暑地利用については王族が全て費用を持つ事とし、生徒全体へ開放するくだりとなった。

エドワードが言い出した事だから、当然婚約者の私としては加わる他はないのだが、今いち気が進まない。


「お姉さまは避暑地にいかれるんですか?」

「まぁ、気は進まないが…行くほかないだろうな。」

「でしたら私もお供します!」


私はズルい。

その一言を聞くだけで気分が色めき立って、心が浮かれ始める。

おそらくリシアは、私が行きたくなくても行かざるを得ないと解っていて話を振り、共に行ってくれると言っている。

私はそれを織り込んで居ながらも、リシアの考え通りに話す。


「やはりそうなると水着は持って行った方がいいのでしょうか?」

「避暑地は海辺からすぐそこらしい。まぁ必要だろうな。」


私はズルい。わかっているんだ。それなら真正面から向き合って、私から伝えるべきなのに。


「でしたら次のお休みは水着を見に行きませんか!?」


私はズルい。

こう言って貰いたくて仕方ないのだから。


◆ ◇ ◆ ◇


「水着といえどあまり服と遜色ないのですね…?」

「あまり肌を晒すものでもないからな。平民だと水着は着ないのか?」

「そうですね…着なくなった服とか、もう要らない下着で入ることが多かったです。あまり布の部分が多くても泳ぐのには邪魔なので。」


リシアの場合、それでは問題があるように感じる。

リシアは少々無防備で自身の女性らしさについて解っていない節がある。

その場に私が居れば他の全てを一刀で切り捨てていたかもしれない。


「まぁ、今や子爵令嬢だからな。こういったワンピースのタイプはどうだ?オレンジにワンポイントも入って居て明るいイメージに合っていると思う。」


リシアは太陽だからな。太陽は太陽らしくあるべきではないか?


「素敵ですね!ちょっと試着してみましょうか…」

「ああ、それが良いかもしれないな。」


試着室に入って行くリシアを見送って、私はその前に立つ。

何人たりともこの場を通すつもりはない。


「お待たせしました。如何でしょう…?」


開け放たれた試着室のドアを手で遮り、最低限私が見れるだけの幅にとどめる。


「ああ。よく似合っている。素敵だな。」

「本当ですか?」


その姿を見た瞬間、様々な思いがわき上がる。

しかし、それを表現出来ない私の語彙力に歯噛みしながらも言葉をひねり出す。

その瞬間、リシアの顔が輝く様に綻ぶ。

それだけで心が暖かくなるのだ。


「ただ、少し露出が多いかもしれないな。肩など紐だけでは少々不安だ。」

「そんなものですかね…」


ただただリシアを体現するかのような水着のチョイスだっただけにもったいないが、それ以上に他人に見られて欲しくない気持ちが強い。

ここはやはり、無難な七分袖タイプの水着がいいだろう。


「これが良いんじゃないだろうか。そこまで泳ぐことはないと思うが、最低限袖も短くされていてリシアの希望にも沿うんじゃないか?」

「ではこちらも試してみましょう!」


今度は大丈夫に違いない。そこまで現行のドレスと露出度合いは変わらないはずだ。


「どうでしょうか!?」


ドアが開く音を即座にキャッチした私は、開きつつあるドアをその手で捉え、隙間に体をねじこむ。

困った。どうしてリシアは全てが似合ってしまうのか。

以前より興味の尽きないテーマではあるが、今はそれが恨めしい。


「まだ露出が多い気が…」

「もう十分隠れてますよ!似合ってますか?」

「ああ、可愛らしくて良いと思うぞ?」


だが、他にもたくさんの可愛らしくて似合いそうな水着はある。

リシアは可能性の塊なのだ。


「他にも何着か見てみないか?」

「そんなに要りません!!次はお姉さまですよ!!」


怒られてしまったが、そこまで怒っているわけではないのはすぐ解る。

リシアが本当に激怒したあのときは、私の肝まで冷えたのを良く覚えている。

人のためにあそこまで怒れる人間だが、自分のことはこれっぽっちも怒らないのがリシアだ。


「んー、やっぱり露出は少ない方がいいですか?」

「そうだな。だがまずは先入観なく、私に似合うと思ったものを持ってきて欲しい。」


以前からリシアは考え込むとよくわからないことをたくさん口走る癖がある。

見慣れてしまうと、こうして撫でていても特に何も言われることのない良い時間なのだが…

今もすくみず?等とよくわからんことを呟いている。


「決まりました!これです!」


そこそこ長い考察時間の後、持ってきたのは袖がなく太めの肩紐と、アンダーの辺りで真っ直ぐ途切れたトップスに、男性が穿く短パンの様なパンツの組み合わせだ。


「これは…」

「タンキニ、と言ってもわからないかもですが。露出が嫌ということで、この上からラッシュガードをかけちゃいましょう!一回着てもらっても良いですか?」


そう言って試着室に押し込まれる。

お腹がでているのがどうしても気になるが…言われた通り着てみるしかないか。


「どうだ?」

「最高ですね!!お姉さまはかっこいい系の色気がたっぷりですから、水着は色気を抑えて、なおかつかっこいい感じに仕上げればむしろしっかり色気がでると思ったんですよね!!」

「ただどうしてもお腹がでているのがな。」

「でしたらこうしてラッシュガードを肩に掛けて下はへそまで留めて…少し失礼しても?」

「ああ。」


そう言ってリシアは私のお腹付近をいじり始める。

不快ではないが、どうにもむずがゆい。

それにお腹に贅肉など着いていないか?不安になる。


「よし、これでどうでしょう!上は軽くはだけつつ肩はガード。下もゆるく留めて見えそうで見えない魅惑のお腹!良いですねえ!足は泳がないときはタオルをかけたら完璧かと!」


そうしてリシアは私の格好を作り上げていく。

リシアが作る私は、それはいつも野暮ったい私とは思えないくらい洗練されていて見ていて楽しい。

似合わないと勝手に切り捨てて来た可愛い格好も、男性の服装も、そして今の水着も。

どんな格好でもそれをキッチリと練って、理想を作り上げてくれる。

それは私をしっかり見据えて、その先に理想を描いてくれているようでとても嬉しい。

私もリシアにとって理想と思われるような人間になれそうな気がするのだ。

 


◆ ◇ ◆ ◇


「ああ言うことがあると、お姉さまもなかなか避暑地に行くのも憂鬱かもしれませんが。私もそばに居ますから。」


私はズルい。憂鬱など、リシアが居てくれるというだけで全部吹っ飛んでしまったのだ。しかし、それを否定しない。


「あいつのせいで楽しくない夏になったら、とっっってもムカつきますから!このすてきな水着も持って、たくさん楽しみましょう!お姉さま!」

「ああ。リシアとならめいいっぱい楽しめるだろう。」


私はズルい。こうして親愛の情を向けてくれる妹分に親愛以上の何かを期待してしまうから。

貰ったところで、返せるはずがないのに。




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