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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部四章 君の全てを
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会えない日

『今日もお疲れ様でした。』

『そちらこそ、お疲れ様。』


私は画面のお姉さまに手を振ると、お姉さまも手を振り替えしてくる。


『今はホテルですか?』

『ああ、そうだ。』


お姉さまは何かを思いついたのか、カメラを外カメにすると、ずんずん歩き出す。


『ここが玄関。綺麗だろ?』

『片付いてますね。』

『これが私の靴。それ以外はないぞー?』

『そういうことです?』


ホテルの部屋案内かと思えば、どうやら一人と言うことを証明しているらしい。


『次にこっちがお風呂。』

『…なんというか、普通、ですね。』

『トイレと風呂が別なだけで素晴らしいんだがな?』

『そんなところもあるんですか?』


今まで実家に居たときはそんなホテルを見たことがない。


『むしろ、そっちの方が普通じゃないかな?』

『へぇぇ…そうなんですね。』


実家が実家なので、そこらへんの感覚は少し隔たりがある。

見てみたいな、そういうお風呂。


『ででででーん!部屋!』

『…狭くないですか?』

『これが普通なの!シングルだし!』 


お姉さまはそうツッコむが、私にはなんだか狭く見える。


『今までどんな高いホテルに泊まって来たんだリシアは…。』

『どうなんでしょう?』

『恋人にするには高くつきそうだな…。』

『だからって、やめとくは許しませんよ?』

『当然。それよりもたくさん稼いでみせるさ。』


インカメに戻し決めポーズをするお姉さま。


『とりあえず、部屋には私以外誰もいないだろ?』

『浮気してない証明にはなりませんねえ。』

『しないって。私はリシア一筋だから。』


そうはいうけれど。

不安なものは、やっぱり不安だ。


『お姉さま、素敵なんで…しようと思えば簡単でしょう。』

『はぁ。…ほら。』


お姉さまはショートパンツの裾をたくし上げる。

表れたのはは私の名前とハートマーク。


『ちゃんと残してあるだろ?リシアは?』

『見せなきゃダメですか?』

『私だけ見せるのもズルいだろ。』

『私、浮気しませんよ?出来る器量もないし。』

『ダメ。ほら、見せて?』


私はしぶしぶ同じようにパジャマの上をたくし上げてお腹を見せる。

そこにはお姉さまの名前と、ハートマーク。


『これ、ぐっと来るな?』

『変態。』

『最初に言いだしたのはリシアだろ!?』


そう。お姉さまが出発するときのこと。

うちに泊まったお姉さまは、翌早朝に起き家に帰って支度をする事になった。

だが、恋人同士になったばかりの私は、どうしても離れるのが名残惜しくて。

せめて、浮気防止に見えないところに名前を書きたいだなんて訳の分からないことを言ってしまって。

お姉さまはそれを快諾すると、むしろ私もリシアに書きたいと返し。

結果お姉さまは撮影の邪魔にならない太腿に、私はお腹にそれぞれ油性ペンで名前を書かれ、それをハートマークで囲うことになった。

お姉さまの太腿に書かれたそれに、私もぐっと来るところはあるのだが、あえて黙っておく。


『浮気、してないみたいだな?』

『お姉さまこそ。』 


私たちはただ黙って画面を見つめ合う。  


『ふぅ。困った。まだ初日だというのにもうリシアに会いたいよ。』

『ふふ、私もですよ。』


こうして画面越しでしか触れ合えないことがもどかしい。

お姉さまにぎゅっと抱かれて、五感でお姉さまを感じたい。


『最終日、そのまままっすぐリシアの家に帰るから。待っててくれ?』

『わかりました。お待ちしてます。』

『キスの予約も忘れずにな?』


キスの予約。

そのフレーズに胸がドキッとする。


『は、はい…。』

『あれだけあのときはキメ顔で言ってたのに、照れるとは可愛らしいものだな?』

『そりゃそうですよ。…やり方、教えてくださいね?』

『私も初めてだからなぁ、自分で試行錯誤してくれ?』


お姉さまはニヤニヤとしている。

これはあえて意地悪で言ってるな?


『お姉さまの意地悪。百戦錬磨でしょうに。』

『おっと、ファーストキスってのは本当だぞ?是非、思い出に残るようなのを頼む。』

『馬鹿、お姉さまがリードしてくださいよぉ…』


スマホで調べては見たのだ。

だが、こればかりは実際にしてみないとよくわからない。

ちょっとエアで練習してみて、その姿の滑稽さにすぐにやめてしまった。


『頑張れー?』

『噛んでも知りませんよ?』

『リシアになら噛まれても良い。むしろ噛まれたい。』

『変態!』


本当に噛んでやるからな。覚えておけ。


『そういや、今日、撮影で--』


そこからは世間話が始まる。

それもまた、長く長く続いて、すっかり夜も更ける。


『そろそろ寝なきゃなんだが…』

『まだ、切りたくないです。』

『そうだな。』


会えないなら、せめてこうして繋がっていたい。

その思いはお互い同じのようだ。


『静かにしてるので、朝まで繋げてても良いですか…?』

『構わない。ただ、いびきをかいても引かないでくれよ?』

『昨日の夜もうるさかったです。』

『嘘!?恥ずかしい…』

『嘘です。』

『おい、リシア!?』


私たちはけらけらと笑いあうと、どちらかともなく横になり、画面ごしに静かに見つめ合いながら、お互いの呼吸だけを聞く。

規則正しいその音に、眠気が誘われてきた私はすぐにそのまま眠りについた。


◆ ◇ ◆ ◇


夢の中にいる。

目の前にはレベッカが佇んでいる。

お姉さまではなく、レベッカだ。

根拠はないが、そういう確信がある。


「レベッカ様。」

「□□、息災か?」


原作と違い、柔和な笑顔。

その様子はお姉さまと本当によく似ている。


「ええ。元気ですとも。」

「それは良かった。」


そこで会話が止まる。

何を話したものか。


「□□、今、幸せか?」


レベッカは彼女らしくなく、おずおずといった風にそう問う。


「幸せですよ。」


私ははっきりとそう答える。

今なら自信をもってそう言える。

レベッカは安堵したように胸をなで下ろす。


「何よりだ。…そのために、あるのだからな。」

「何がですか?」

「何だろうな?」


誤魔化す時の仕草。

それもまたお姉さまとそっくりだ。


「ああでも、ごめんなさい。」

「何を謝ることがある?」


「「私、お姉さま一筋だと思ってたんですが、新たにお姉さまに恋をしてしまいました。」」


何者かと同じ言葉が口から出る。

だが、自分で言っている意味が分からない。

レベッカは驚いた顔を一度した後、クスッと笑う。


「「構わない。私もリシア一筋のはずが、リシアと恋をしてしまった。」」


レベッカはそう告げると、座り込み私を膝に抱く。

なんだか、とても安心する。


「私も幸せだ。君のおかげで、ずっと。」


そう言いながらレベッカは私の頭をなぜる。

そこで私の目は覚めた。


「不思議な夢を見たな…」


私はそうつぶやくと、目の前の画面のお姉さまはパチりを目を開ける。


『起こしてごめんなさい。』

『いや、少し前から起きていた。』


私は時計をみる。午前五時。


『早いんですね。』

『リシアこそ。』

『不思議な夢を見て。目がさめちゃいました。』

『ふふ、そうか。』


お姉さまは全て解ったような笑顔で微笑む。

それは先ほどの夢の……の様で--あれ、どんな夢だったか?


『まだ起きるには早いだろう。もう少しゆっくり寝ると良い。』

『そうします。…ああ、帰ったらお姉さまの膝に乗せて下さい。』

『そうだな。そうしよう。』


私は再度目を瞑ると、すぐにまた眠気が訪れる。

意識がどんどん遠のいて--


『幸せだな。リシア。』


私はふたたび、眠りについた。






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