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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
237/321

□□の誕生日 その7

遅くなってすいません。

改稿に次ぐ改稿を重ね、表現したいものを全て表現しようとするも、なかなか上手く定まらずこの時間まで間を縫って書いていました。

まだ完全に納得は行っていませんが、それでも今のベストは尽くせたと思います。


麗香視点です。

「えっと、タオルはこれで、バスタオルはこっち。シャンプーとかは自由に使っていただいて構いませんので。」

「わかった。」


湯上がり美人になったリシアが脱衣場で色々と勝手を説明していく。

馴れた己の家でのお風呂上がりの姿は無防備で目のやりどころに困る。

だが、リシアも一生懸命説明してくれているのだ。

私は邪念を振り払いながら話を聞く。


「そして、最後に。」

「うん。」

「私の入った湯だからと、飲み過ぎないようにしてくださいね?」

「飲まないからな!?」


私が全力でツッコミを入れると、リシアはくすくすと笑う。

まったく、いくら冗談でもやめて欲しい。

そんなことを言われると意識してしまうから。


「では、ゆっくり入ってくださいね。」

「ありがとう。」


リシアは手をひらひらとさせて出て行く。

私は入ったままの脱衣かごになるべく目をやらないようにして服を脱ぎ始めた。


◆ ◇ ◆ ◇


「お風呂、いただいたよ。良い湯だった。」

「はーい。」


自分の髪からリシアの髪の香りがすることに胸を高鳴らせながらリシアのもとに戻る。

最近始めたというソシャゲのスタミナ消化をしていたらしいリシアは、軽く何か操作してからこちらを見る。


「どこで寝るかちょっと考えてみたんですけど。」

「ああ、どこでもいいぞ。なんならビーズソファで寝るよ、私は。」

「まぁ、それはさすがにお誘いした手前申し訳ないので、私のベッドに寝て貰おうかなと。」

「いやいや、さすがに家主をさしおいてそういうわけにもいかない。」


私は手を振って断る。

さすがにそれは居心地も悪い。

リシアは少しぽかんとした後、けらけらと笑いながら答える。


「ベッドはお姉さまに献上して、私は床で寝ます!というほど、私も献身的ではないですね。」

「…じゃあ、どういうことだ?」

「察しが悪いですねー?一緒に寝ましょう。」

「やっぱり、そういうことか。」


あえて頭の中で考えないようにしていた結論を提示される。

今日のリシアはいつもよりぐいぐい来る。

だがそれはさすがにダメだ。


「私は床で寝るよ。」

「どうしてですか?」

「さすがにそこは譲れないからだ。」

「あら、どこがですか?」


リシアはまたからかおうと私をニヤリと見ながら尋ねてくるが、ここは相手をしない。

最近、ずるずるとリシアが私をからかうために距離を詰めてくるが、交際もしていない二人が本来こんな距離感であっていいはずがないのだ。

ましてや、仲の良い友人ではなく私はリシアに恋愛感情として好意を寄せていると伝えてあるのだから。

ここは改めて二人の距離感というものを見直してもらう必要がある。

そういう想いもあり、私は黙って床に横になる。


「でしたら、私も床に。」


リシアは気にも留めずそう言って私の目の前で座り込む。

どうやら、しっかりと話さなければならないようだ。

そのために起きあがる。


「リシア。からかうなとは言わない。気安く接してくれると私も嬉しい。だがな、節度は持って欲しいんだ。」

「と、言いますと?」


挑むような顔でこちらを見返してくる。

本人は軽い冗談のつもりなのだろう。


「君の部屋に人を泊めるのは良い。私も上がり込んでる立場であまり言えないしな。でも、さすがに自分の部屋で同じ布団、一緒に寝ましょうはやりすぎだ。今まで近いことを許してきた私も私だが…いつか君が本当に怖い思いをしてからでは遅いんだ。解ってくれないか。」


私の目を見ながら静かに話を聞いている。

さらに諭すように続ける。


「別に怒りたいわけじゃない。節度さえ持ってくれれば何も言うことはないんだ。このままの距離感だと、いつか良くないことが起こる。そうなったら私も悔やみきれない。だからほら聞き分けてベッドに戻ろう。な?」


そこまで真剣に私の言葉を聞いていたリシアだったが、ため息を一つ吐くと、少し怒ったような表情で返答する。


「お言葉ですが、お姉さま。そもそもまだそばに居て欲しいから泊まっていけとお誘いしたんです。別々に寝るならお誘いした意味あります?」

「それはそうかもしれないが…」


さらに大きくリシアはため息をつく。

かぶりを振り、解ってないなといった感じだ。


「それに、お姉さまからしたら私は世間知らずの小娘かもしれませんが…それでも!私は覚悟してお誘いしてますよ。軽々にからかいたくて一線を越えているつもりは、一切ありません!」


擬音をつけるとしたら、ビシッと言う音が似合うであろう感じでリシアはそう綴る。

だが、そうなると、解っててやっていることになるが…?


「…たまに、夢に見るんです。私が男の人になる夢。」


少し目を伏せて、語り始める。


「ずっと、悩んでるんです。私は、性自認も体も…女ですから。同性のお姉さまとは、色々壁があって。私が男だったら良かったのに、って思いがあるんです。」


リシアは片手で自分の腕を掴んでかくように上下させる。

そうやって悩んでいたのか、君は。


「ふふ、でもお姉さまは私が女の子じゃないとダメなんですかね?どうなんです?」

「そんなことはない、リシアがどんな姿でも私は恋をしていただろう。」


私はリシアの手を取ってまっすぐにそう伝える。

どう答えるのがリシアの助けになるかはわからないが、それでも思いをまっすぐに。


「えへへ、嬉しいです。でもごめんなさい。意地悪言って良いですか?」

「何だろうか?」

「私が男でも女でも良いとして、お姉さまは私のどこに興奮するんですか?」


冗談ではなく、真剣に。

リシアの目がそう伝えてくる。


「性の関係ないプラトニックな恋愛。聞こえは良いですけど、やはり一般的に見たら性的興奮と恋愛は切って離せないものだと思うんです。」

「それは、そうだな。」

「だとして、男性でも女性でもいい、それって男性から見た女性の胸とか、女性から見た男性の筋肉とか。そういったところからかけ離れたところに魅力を感じるってこと、ですよね?」

「言いたいことはわかる。」


私の好きという気持ちだけでそこまで真剣に。

眠れない夜を過ごしてきたのだろうか。


「前にも言いましたけど、私、解んないんです。だってふつうに同性の体を見てもなんとも思わないし。お姉さまは私のどこが好きか解らないですけど、私もお姉さまと同じ気持ちに立てるのか。私はお姉さまに性的興奮が出来るのか。全然わからなくて。」


リシアは下を向き、何かに怯えるように床に手をおいてジッと見つめる。


「怖い。私怖い。この私のお姉さまへの気持ちは、きっと好きということ何でしょうけど。でも、だからこそ。怖い。お互い好きってなったのに、その好きって気持ちに差があったとしたら?」


リシアはその姿勢のままでこを床につけるようにする。


「好きだけど肉体関係を望まない私と、好きで肉体関係も望むお姉さま。たとえばそうなってしまったとして、それは好き合わないよりもっと悲しい。そうじゃないですか?」


だんだんと声のトーンが上がってゆく。

おでこをそのまま床にぶつけだしかねないリシアの様子を見て、私はリシアの体を起こさせる。


「好きです!私はお姉さまのことが好きですよ!どうしようもないくらい好き!今日だって、わがまま言ってでも離れたくなかったくらいには好きなんですよ!」


リシアはそのまま私の胸に飛び込んで縋るようにしながらそう叫ぶ。


「だから!だから…教えて欲しいんです…覚悟は…してきました…。何があっても責めません。後悔もしません。私に教えて欲しいんです、お姉さまは私にどこまでを求めてて、どういうところを求めてるのか。私はお姉さまに何を求めて、どこまで応えられるのか。…実際にやってみて。ですから……一緒に寝てください。」


そこまで言って疲れたのか、リシアはそのまま私にしなだれかかる。

リシアの気持ちはよくわかった。だからこそ私も真剣に答えなければならない。


「私はね。リシアの目がとりわけ好きなんだ。」

「目、ですか?」

「ああ。普段私に向けてくれる優しい目。それから、好きなものを語るときのキラキラした目。私をいじって遊ぶときの楽しそうな目。見ていて飽きない。」


私は腕の中のリシアの顎を手に取ると、そのまま顔を上げさせて目を見る。


「私はリシアが好きだから、どんどん色んなところが好きになる。リシアの鼻、リシアの口、リシアの胸、リシアの足。全部が全部愛おしい。」

「そ、そうですか?」


照れくさそうに目を背けようとするリシアの顔をそのままホールドして、さらに目に顔を近づける。


「でも、目だけは違う。リシアのものだから、ではなくそのものが好きなんだ。…特に熱を帯びた目で見られると、私はぞくぞくする。ふふ、今のちょっと涙を湛えた目も良いな。こうして拭ってやりたくなる。」


私は親指でリシアの涙を拭ってやる。

そのまま指を舐めたら引かれそうだな。


「リシアの聞きたいことはそういうことだと思う。どうだろう?」

「たぶん、そう、です。」


何度もその間にもリシアは目を逸らそうとするが、無理矢理固定してやる。

ふふ、たまには仕返しも良いだろう。


「リシアは私でぞくぞくする?どうだろう?ううん、普段の感じ的にきっと腹筋は良いところ突いてると思うんだよな。」


私はパジャマをぺらっとめくって腹筋を出すと、リシアの手をそこに誘う。


「それはちょっと…好きかもです。」

「他にはある?」

「ううん…」

「ひとまずアレだな、ベッドで続きを話そう。床だと冷えるし固いからな。」

「きゃっ!」


私は腕の中のリシアをそのままお姫さまだっこの形にして立ち上がる。

私の力なら簡単なものだ。


「こういうのは?」

「ドキドキはしますけど…」

「ちょっと違うのかな?」


私はそのままベッドまで連れて行き、リシアにベッドサイドに座らせる。


「ああ、こういうのはどうだろう。見ている感じ、好きじゃないかなと。」


私はそのままリシアの前に跪き、足の甲に口付けする。


「んん…なんだか、こう。」

「良いセンついたかな?今まで私で近い感じの気持ちになったことは?」

「…ありますね。」

「じゃあ、同じように再現してみよう。私はどうすればいい?」

「…ここに寝てもらえますか?」


リシアはベッドをとんとんと手で叩く。

私は素直に横になる。

リシアはその私の上に馬乗りになり、腕を抑えつける。


「…お姉さま。」


リシアの目が熱を帯び始める。

ああ、素敵だ。

そういえば、前にこの目を見たときも、似たような感じだった。


「私、お姉さまが好きです。」

「私もだよ。」

「整った顔も、引き締まったスタイルも、誰よりも高い背も、艶やかな髪も。お姉さまの綺麗なところ、全部私のものにしたい。全て征服してしまいたい。」

「あるじゃないか。それが君が聞きたかった奴だ。」


リシアは得心が行ったという顔をする。


「…私、ずっと前からお姉さまで興奮してたみたいです。」

「その言い方は何だか面白いな?」


私が笑うと、リシアも破顔する。

ようやっと、笑ってくれた。


「お姉さま。私、キスがしたいです。ファーストキスをあげたい。」


リシアは馬乗りのまま顔をすぐそばまで寄せる。


「そうしたいのは山々なんだが…ごめん。」

「どうしてです?」


露骨に残念そうな顔になる。


「ほら…昼にアヒージョ、夜に肉を食べただろ?歯磨きしても…ちょっと、恥ずかしい。」

「あ、ああ…そうですね。」


リシアは急いで顔を離す。

二人とも食べたものは同じだからな。


「それに…今日のはコンビニのだから、あまり可愛くないから。せっかくならもっと可愛いときに見られたい。」

「…その発言はちょっと逆効果ですね。」

「おっと、一度解ると全部解ってしまうのだな?」


リシアはさらにくすくすと笑う。

もう問題なさそうだ。


「では、こうしましょう。お姉さまが現場から帰るとき、真っ先に私の元に来たくなるように。会いに来てくれるように。次、ここに来たら、キスをしましょう。」

「予約されてしまったな。」

「それまで浮気しちゃダメですよ?」

「私はリシア一筋だ。」


そこでリシアは私から降りると、そのまま横に寝転がる。

二人じゃ狭いシングルベッドも、今はそんなに狭くない。


「お姉さま、後ろからぎゅーって抱きしめてもらえますか?」

「リシアも好きだな、私も好きなんだが。」

「あれが一番よく眠れるんですよね。不思議と。お姉さまの匂いがするからですかね?」

「リシアは私の匂いも好きだよな。」


私はリシアをすっぽりと包み込むように、後ろから抱きしめる。

足も手も、すべて絡め合って。


「まだまだ、不安はいっぱいあると思う。同性だからこその壁はたくさんあるしな。でも、一つ一つ解決していこう。」

「ええ。」

「好きだよ、リシア。」

「好きですよ、お姉さま。」


幸せな気持ちのまま、二人微睡みへと落ちていった。









これにて二部三章「恋とは」の引きとさせてもらいます。

今まで人と関わって来なかった□□が、いきなり同性との恋愛という段階までたどり着くには、色んなことを悩み知って行く過程を経ていかなければならないだろうなと考えて描いて行った章でした。

すでに前の世界でリシアの主人公パワーとある程度年を重ねた後の□□によって絆され、大恋愛をした経験のある麗香と、まだ完全に未経験の□□の意識の差。

□□は訳の分からないままずっと苦悩し、わからない感情を知ってゆきながら進んでゆく。

一方で麗香も今まで熱心に愛され口説かれたことはあっても、自分から愛し口説いた経験が無く、色々と試行錯誤しながら進んでゆく。

そうやって一つの結果にたどり着く「恋とは」を見つめ直すがテーマでした。


二人恋人となったわけですが、まだ話は続きます。

おおよそ後四章、五章を書いて終わりとしたいと考えています。

四章は内容的にあまり長くならないと想定しています。


遅くなりましたが、評価・ブックマークをくれた方々、毎日いいねをつけてくださる方々、そしてこうして日々作品を読んでくださる読者の皆様。

皆様のおかげでこうして50万字を越えそうなほどの大作を書けているのだと思います。

これからも共に歩んで行っていただければ、これ以上にない幸せです。

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