□□の誕生日 その4
見慣れたテーブルの上にはホットプレートにホールケーキ。
目の前には、定番のバースデーソングを歌うお姉さま。
つい、笑顔になってしまうのはこの状況の滑稽さか、はたまた。
「お誕生日、おめでとう。」
「ありがとうございます。」
お互いに顔を見合わせ、笑いあう。
「来年のお祝いはお酒が飲めますね。」
「いやあ、私はやめといた方が良いと思うぞ…?」
「だから、飲んでみないとわからないじゃないですか!」
お姉さまは以前より勝手に私が酒癖が悪いと決めつけている。
やってみるより前からそう思われているのは個人的にかなり不満である。
絶対来年の誕生日は飲んでやるからな。
「それよりほら、あのステーキを焼こう!楽しみにしてたんだ!」
お姉さまが誤魔化すように、いやこれは本心だな、ステーキを焼こうと急かす。
つい私の中の悪戯心がくすぐられる。
「お姉さまは私のお祝いよりお肉、ですか?悲しいです。」
「なっ、そういうわけではけして…」
「いいんですよーだ。どうせ私はお肉以下なので。」
「そんなことはない!すまない、私の配慮が何か足りなかっただろうか?」
お姉さまは慌てて立ち上がり横に来ると宥めるように背に手を置く。
「良いですもん。お姉さまはお肉を焼いて食べればいいんじゃないですか?」
「私に出来ることならなんでもしよう。もちろん、肉よりリシアが優先だ。」
その言葉が聞きたかった。
私は一人心の中でほくそ笑む。
「本当ですか?」
「本当だ。ほら、機嫌をなおしてくれ?」
お姉さまがにこりと笑って私を撫でる。
私は今から意地悪するつもりなんです、ごめんなさい。
「じゃあ、私の方が優先って証明してくれますか?」
「ああ、構わないぞ。どうして欲しい?」
「お姉さまはこのステーキ肉、食べなくても良いですよね?」
「え?」
お姉さまが呆けた顔になる。
良い顔だ。ぞくぞくする。
「お肉より、私の誕生日を楽しみにしてくれますよね?でしたら、お肉はなくても大丈夫ですよね?」
「どうしてそうなる…」
お姉さまは頭を抱える。
楽しい。
「やっぱり、お肉の方が好きですよね。ごめんなさい、たくさん食べてください。」
「………わかった!私はっ…要らない…!」
その苦渋に満ちた顔。
絞り出すような声。最高に綺麗だ。
とはいえ、これ以上いじめるのも可哀想だ。
「よく言えました。ご褒美にお姉さまの分少し大きく切り分けて良いですよ。」
「…もしかして、私はまたからかわれてたのか?」
「もしかしなくてもそうですね。」
お姉さまはため息を一つついて、かぶりをふる。
今までからわかれてた自覚がなかったのもすごい話だ。
「…楽しいか?」
「楽しいですね。」
「楽しいなら、まぁ良いか。」
お姉さまは苦笑しながらも席に戻る。
さすが、度量が広い。
私はかなり大きめにお姉さまにステーキを切ってあげようと心に決めたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「満腹だ。」
「ですね。」
本当に結構な量を私たちは食べた。
この一日でかなり太ってしまったのではないか。
不安になるが、この不安は明日の私にお任せしよう。
しかし、それでもケーキは1/4ほど残ってしまった。いや、残らなかった。
「お姉さま、その体のどこにあれだけの食べ物が詰まってるんですか?」
「ん?胃だが?」
私はお姉さまの胸に目をやる。
「まぁ、他に詰められそうなところ無いですもんね…」
「なんだか今とてもバカにされた気がするな?」
「気のせいです。」
気のせいだ。うん。
「そうだ、ご飯も食べたことだし、誕生日プレゼントを渡そう。」
「ありがとうございます。」
お姉さまは端に並べたトレーニンググッズの中からごそごそとプレゼントの箱を取り出す。
実は、そこにプレゼントを隠しているのは気づいていた。
いやまぁ、隠せてると思っているお姉さまがどうなんだと思うような場所なのだが。
「これ…ささやかながら私からのプレゼントだ。受け取ってくれ。」
「嬉しいです。開けても?」
「もちろん。」
ピンクに黒いリボンと可愛らしいデザインで両手に収まる程度の箱だ。
中には何が入っているのだろうか。
ワクワクしながら箱を開ける。
「ハンドポーチ、ですかね?」
出てきたのは大人っぽい落ち着いた感じの暗いピンクのハンドポーチ。
いや、それだけじゃないな?重さ的に何か中に入っている。
私はハンドポーチを開けて見る。
「これは…コスメがいっぱい!」
「前に勧めた私の使ってるメーカーのコフレだ。色々試してみるといい。」
「ありがとうございます。」
最近、美容に気を遣うことが増えた。
理由としては見られることを意識するようになったからだ。
…主に、目の前の人のせいで。
「これで、ちょっとはお姉さまみたいに綺麗になれますかね?」
「リシアはいつだって綺麗でかわいいぞ?」
「だとしても、更に綺麗になったら嬉しいですか?」
私はお姉さまの顔を注視する。
曖昧な答えは許さないぞと眼で伝える。
「そりゃまぁ…嬉しいな。」
お姉さまは照れたように頬をポリポリかく。
「もっと綺麗になれるよう頑張りますね?」
「無理しない程度に…な?」
「お姉さまが喜んでくれるなら無理しちゃうかもしれませんね?」
照れくさそうなお姉さまを見て私はクスッと笑ってしまう。
本当、可愛らしい。
さて、お姉さまを更にからかったところで一つ確認しないといけないことがある。
私は聞きづらいなと思いながらも口を開いた。




