□□の誕生日 その2
小さく切った茹でブロッコリーを鉄串に刺し、耐熱皿になみなみと溜まった白い液体を絡める。
息を吹きかけ少し冷ますと齧るのではなく丸ごと口に含んでみる。
まだ少し熱い。口の中で転がしながら冷ましてゆく。
ブロッコリーが好きかと問われると、微妙と答える。
もさもさしたした食感と青臭い味が好き嫌いを如実に分けるのだろうが、どちらかというと私は後者側寄りかもしれない。
でもこれはチーズのとろみがアクセントになってもさもさ感がむしろよくあっている。
濃厚な味と香りがブロッコリーの青臭い味を上手く打ち消して、本来の美味しさだけを感じられる。
「おっ、おいひいでふね…」
「あ、ああ…にゃかにゃはおいすい…な…!」
二人はふはふと苦戦しながらもいろいろな食材をチーズに絡めていただいていく。
そう、家で出来るけど面倒くさいから普段やらない料理ということで今日はチーズフォンデュに挑戦している。
とはいえ、新たにフォンデュ鍋を買うのもということで、溶かしたチーズを耐熱皿に入れホットプレートの上で温めながらといった形だ。
「こちらもいただいてみようか。」
「においが良いですね。」
ホットプレートにはチーズの入った耐熱皿だけでなく、お姉さまのキャンプ道具の小さめのスキレット。
エビたっぷりのアヒージョがこしらえてある。
こちらも具材を絡めて食べてみる。
「んーこれは…」
「バゲットに吸わせる分にはいいが、食材を絡めるならもう少し濃くしたほうが良さそうだな。」
「ですね。とりあえずニンニク足してみます。」
卸し金でニンニクをすりおろすのをお姉さまは頬杖つきながらジッと見つめてくる。
「どうしました?」
「ん?楽しいなあって。」
「まぁ試行錯誤も自宅ならではですよね。」
「それだけだと思う?」
「はぁ…全く、どこがいいんですかね?」
「何がだ?」
「とぼけないでいただけます?」
わかってるくせに。
私はお姉さまをにらみつける。
「ふふ、さすがに伝わるか。」
「まぁ、あれほどアプローチされれば。」
私はすりおろしたニンニクと、調味料を軽くアヒージョに加える。
再度具材を浸して味見だ。
「ん、良い感じになりましたかね。」
「うん、良くなった。」
お姉さまはうんうんと頷いて見せる。
これならどちらも楽しめそうだ。
アヒージョとフォンデュ、二つをたくさん用意した様々な具材を漬けて食べてゆく。
楽しいし、美味しい。
多いかな?と思っていた量の具材もすぐになくなってしまった。
「食べましたね。」
「ああ、食べたなぁ…」
二人、感慨深く呟く。
これで夜のお肉、入るんだろうか。不安にすらなる。
「私が片してくるよ。リシアはゆっくりしてて。」
「私も動きたいので、それなら二人で洗いましょうか。」
二人、肩を並べて洗い物をする。
結構な量の洗い物だが、二人ならそう苦でもないように思える。
「まぁ、楽しいですね。」
先ほどのお姉さまの雰囲気に当てられたらしい私は、そんなことを呟いてしまう。
またオーバーな反応をするだろうとお姉さまの方を向くが、変わらない顔で黙々と洗い物をしている。
あれ、珍しい。
「なぁ、リシア。」
「なんです?」
「抱きしめても良いか?」
「泡だらけの手でやめてください。」
「ちゃんと洗って、拭けばいいのか?」
「…ダメです。」
「残念だ…。」
…前言撤回。やはりお姉さまは誰よりもオーバーだ。
◆ ◇ ◆ ◇
そしてお昼ご飯を食べて、予約したホールケーキが出来上がるまでの時間は思い思いに過ごす。
とは言っても、私の借りたアニメを二人ビーズソファに包まれながら見ている。
お姉さまは無駄に図体がデカいのではみ出ているのだが。
今日のアニメはイケメン高校生たちがとある部活動に熱中するというものだ。
見ながら、ふと気になったことを問うて見る。
「お姉さまは部活は何をされていたんですか?」
「ん?私か?何も。」
「意外です。スポーツ、お好きですよね?」
「うん、好きだな。」
まぁアレだけ普段からトレーニングトレーニング言うお姉さまが嫌いなはずもない。
「ではどうして?真っ先に参加しそうな気がするんですが。」
「んー、そうだな。一刻も早くリシアに会いたかったからかな?」
お姉さまはこちらにウインクしながらそう答える。
「はぁ、それとこれと何の関係が?」
「内緒。」
「そうですか。」
答えたくないのか、はたまた理由がないのか。
とりあえず真面目に答えるつもりはないらしい。
まぁいい。
「私も部活してないんですけどね。」
「それはどうして?」
「ええとこのお嬢さんなんで。馬鹿馬鹿しいでしようけど。」
「なるほどな。じゃあ仲間だ。」
仲間。何だか少し照れくさい。
画面にちょうど推しキャラが出てきた私は、これ幸いと話を変えるためにキャラの紹介を始める。
「あっ、これが○○くんって言って私の推しの子なんです。」
私は画面を指さし話す。
「ほう。」
どうも反応が鈍い。お姉さまの好みではないのだろうか。
でもせっかくなら私の好きなキャラを好きになって欲しい。
「本当に良い子なんですよ!見ていただければ解りますが、真面目で一本気ですし、顔が良いです。無口ですがそこも良くて、でも根が優しくてただ不器用なだけというか!後やっぱり顔が良いです。」
「へぇ?」
お姉さまは肩眉をつり上げながら不機嫌そうに返答する。
よほどタイプじゃなかったのか?
私はイマイチお姉さまの考えがわからないまま黙り込む。
「…なぁ、リシア。」
「はい?」
「私と○○くんだとどっちが好きなんだ?」
ああ、この人はそういう。
何を張り合うことがあるんだろうか。
少しあきれながら私はきっぱりと答える。
「○○くんですね。」
「そ、そうか…。」
「そりゃそうでしょ。二次元に勝てると思ってるんです?」
「そうかもしれないが…」
お姉さまはすごくしょんぼりした感じになる。
ああもう。
「そもそも推しは推しなんで。恋人になってほしいーとか、そういうのとはまた別物ですよ?応援したいとか、グッズが欲しいとか。そんな感じです。」
元々はお姉さまも推しのような気持ちで居たような気がするのだ。
格好良くて、応援したい。でもそれだけだった。
「お姉さまもそうなりたいってことになりますけどそれで良いんですか?」
「そう言うわけじゃ…ないが…。」
お姉さまはビーズソファをいじいじしながら答える。
そろそろ面倒くさい。
「面倒くさいですね!もう!」
私はお姉さまの手を掴み、握る。
少しは機嫌を直すといいのだが。
「じゃあお姉さまも誰か推しを見つけましょう!そしたら気持ちが分かりますって!」
「あ、ああ…。」
「この子とかどうですか!?お姉さま、後輩キャラ好きでしょ!?」
私はいろんなキャラを雑に勧めてゆく。
推しと恋愛はまた別物だって解って欲しい。
そしてあなたは、きっと--
22時に七夕記念ssも更新予定です。
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