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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
228/321

前準備 その2

「あの、リシア?」


自宅のキッチン。肩を並べて夕食を作っていると、お姉さまが何か話しづらそうに口を開く。


「何ですか?」


私は敢えてお姉さまの方を見ずに料理に集中しながら返答する。

こういう時はだいたい碌でもないお願いの可能性が高い。

『リシア、新しいトレーニンググッズを置かせてくれないか?』

などだ。

トレーニングをしているお姉さまを見るのは好きだが、とはいえ家にそんな物をたくさん置かれても困るだけだ。

だが、自分はお姉さまに甘い。

顔を見て問われてみろ。最終的に押し切られるのは目に見えている。

なのでとりあえず目を見ずに用件を聞く。


「日曜日なんだが、一日空けといてくれないか?」

「解りました。」


そんなことか?

とりあえず私はそのまま了承する。


「いいのか?」

「何がです?週末はだいたいいつも一緒に遊んでいるじゃないですか?」


その再確認が怖い。

週末のお出かけは最早いつものことじゃないか。何を企んでいる?


「いやほら、日曜日は13日だろ…?」

「それがどうかしました?」


トレーニンググッズの安売りとかか?

買わさないぞ?


「え、誕生日…だよな?リシアの。」


9月13日…あ、確かに。


「…忘れてました。」

「はは、間違ってなくて良かったよ。」


私にとって誕生日は誰かと祝うものというよりは、家に帰ったらケーキとプレゼントがある日だ。

まぁそれも母親の計らいで、父親なんかは全く興味なかったのだが。

なのでまぁ、誕生日というものを特段意識していなかった。


「で、日曜日はリシアの誕生日なんだけど、空けといてくれるか?」

「まぁ、それで何か変わるわけでもないですからねえ。というか、お祝いしてくれる、ということですか…ね?」


私は初めて料理から目を離してお姉さまの方を見る。

お姉さまは誰よりもまっすぐ、こちらを見つめて答える。


「もちろん、そういうつもりだ。リシアの誕生日を共に祝わせてほしい。」


そのまっすぐな視線に少し照れくさくなってしまった私は料理に視線を戻す。


「ありがとうございます。嬉しいです。」


誕生日を祝ってくれる人自体がお姉さまだけですしね。

そんな言葉を飲み込む。

お姉さまにこうしてずっと大切にされていると、嫌でも自分を卑下することを言いづらくなる。


「プレゼント、ほしい物はあるかな?色々考えてはみたのだが、こういうのは本人の希望も大事だからな。」

「何でも良いですよ。お姉さまが選んでくれたものなら、何でも。あっ、あんまり高い物は気後れしちゃうのでやめてほしいですけどね。」


お姉さまだと、私の稼ぎの三ヶ月分だなんて言って指輪を買って来かねない。

それはさすがに困る。

でも、何を貰ったってきっと嬉しいのだ。


「ああ、気をつけよう。」

「あ、これ持って行ってください。」

「解った。」


お姉さまの作業が終わって手持ち無沙汰そうなので、先に出来上がったものを食卓に運ばせる。

こうして二人で料理をして食べるのも、今や慣れたものになった。


◆ ◇ ◆ ◇


「誕生日、何する予定なんですか?あっ、聞かない方が良いですかね?」

「ふふ、それなんだが…」


お姉さまは熱く当日のプランを語る。

それはとてもロマンティックで、きっとだいたいの女の子が憧れるようなものだろう。

私も嬉しくないわけじゃなければ、そういうものに憧れもあった。

でも、何か違う。

私とお姉さまらしくない、気がして。


「うん、やっぱりだ。」

「何がですか?」

「リシアもしっくり来てないだろう?」


お姉さまは首をすくめ苦笑する。

どうやら思いは同じのようだ。


「色々相談して、コレだ!というようなデートプランを考えて貰ったんだが…何だか私たちらしくない気がするんだ。リシアもだろう?」

「そうですね。夜景の見える高級レストランとか素敵ですしお姉さまも映えるんでしょうけど…何か違いますね。」


私たちは顔を見合わせて苦笑いしあう。

らしくないことをしても十二分に楽しめないだろう。


「そこで思いついたのだが、当日は町のケーキ屋でおっきいホールケーキを予約しておいて、ちょっとぶらぶらしてから、スーパーで高い肉をめいいっぱい買ってここで焼いて食べないか?予算は私の財布からコレで。」


お姉さまは指を三本立てて私に見せる。

多すぎるくらいだ。


「どうだろう、色気は無くて申し訳ない。あまり今日とも変わらないしな。でも、楽しんでくれるんじゃないかと思ったんだ。」


確かに色気はない。

こうして二人で部屋で夕食を共にしてるのが豪華になるだけだ。それでも。


「良いですね!それ!折角ならお昼はお昼でホットケーキとかたこ焼きとか、何か普段面倒くさくて作らないもの作りません?」

「それも良いな!ケーキと被るのが難点だが、かき氷機とシロップたくさん買って食べるとかも良いかもしれん。」

「解ってますね、お姉さま!たまには甘いもの色々食べるのも良いんじゃないですか?」


私たちはわいわいと当日やりたいことを挙げてゆく。

きっと、どれをやっても楽しい。

自信を持ってそう言える。


「楽しみですねえ、お姉さま。」

「うん。とても楽しみだ。」


息が合う。その言葉はきっとこの関係にあるのだろう。

やりたいことが増えていくけど、重荷にはならない。楽しみが増えるだけだ。

それは、たぶん貴方と二人だからで--




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