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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
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二人、手を取り合って その2

麗香視点です。

あれからしばらく経って。

私はリシアの部屋に定期的に通うようになった。

私用のコップ、皿、歯ブラシ。

そう言った私物が増える度、幸せな気持ちになれる。

リシアも満更ではないみたいで、ともに買い物に出た時なんかは部屋に置いといたら良いんじゃないですか、なんて言ってくれる。

そんな時間もたまらなく愛おしい。


今日はリシアがバイトで遅くなるということもあり、こうして私は先に部屋に入り、家事などをしている。

特に帰ったときに夕食があるというのはありがたいらしく、必ず用意しておくことにしている。

また、リシア一人だと夕食がうどんに偏りがちなので、うどん以外のメニューにしておく。

前世はうどんだったのかもしれないと思うほどうどんしか食べないのだ。

リシアに理由を問うて見ても「だって好きですし」としか言わない。

良いなぁ、私もうどんになりたい…じゃなかった、うどん以外を食べさせないとな。


冷蔵庫を覗いてみる。

お、タッパーに肉じゃががあるな。確かこれは一昨日訪ねたときにリシアが作ってくれたものだ。

あれは美味しかった。

当時の記憶を思い出しつつ、私はタッパーを取り出す。

今日はこれをリメイクすることにしよう。


肉じゃがをとにかく細かく刻んでペースト状に近くしてゆく。

本来ジャガイモを足した方が良いのだが…私が肉ばかり食べるからジャガイモの割合が高い。問題ないだろく。

軽くレンチンし、水分を飛ばし再度冷ます。

冷ましている間にキャベツを刻んでおく。

これは今から作るものの下に敷く用なのだが、どうもリシアは良い顔をしない。

キャベツを食べ物の下に敷くくらいなら、別々に食べさせて欲しいというのだ。

今回もそう言われることを見越して、リシアの分だけは別皿によけておく。

レンチンして汁気を飛ばした肉じゃがが冷めた後は、それに小麦粉をまぶし、卵黄に浸し、パン粉をつけてゆく。

あとはリシアが帰ってくる頃にきつね色になるまで揚げれば、肉じゃがコロッケの完成だ。


◆ ◇ ◆ ◇


リシアが帰ってくるころまでひととおりトレーニングをしていた私は、汗を拭き、コロッケを揚げ始める。

米も炊けたようだ。

そうこうしている間にも、玄関の戸が開く音がする。リシアが帰ってきたようだ。

揚げ物から目を離せない私はキッチンから顔だけだしてリシアに声をかける。


「おかえり。」

「ただいまです。今日もいらしてたんですね。」

「もう晩ご飯出来上がるぞ。着替えておいで。」

「はーい。」


リシアはスーツから部屋着に着替えに部屋に向かう。

どうやらリシアは時間と時給の兼ね合いから塾講師のバイトを選んだらしく、毎度スーツでバイト先に行っている。

私ならスーツ姿のリシアに「こんなこともわからないの?ダメな子ねえ?」などと言われた日には勉強に集中出来ない気しかしないのだが、それを口に出すと間違いなく怒られるので黙っている。


「今日の晩ご飯は何ですかー?」

「先日作ってくれた肉じゃがをコロッケにしてみた。」

「あ、助かりますー。そろそろ処理しないとと思ってたので。」


リシアの予定ともあっていたようだ。

作った甲斐があった。


「私に手伝うことありますか?」

「米がもう炊けているから自分の分だけよそって持って行ってくれ。後キャベツも皿に盛ってあるからそれも。」

「わかりました。後はあります?」

「そしたら後はゆっくりしててくれたらいい。もう揚がるから待ってろ?」

「はぁい。ありがとうございます。」


リシアの軽い足取りを聞いて、一人笑顔になる。

こうして喜んでもらえる時が一番嬉しい。

速く美味しく揚がれ。そんなことを胸の内で唱えながら、私はコロッケを見つめた。


◆ ◇ ◆ ◇


「ごちそうさまでした。美味しかったです。」

「それは良かった。私もごちそうさま。」


二人幸せな雰囲気で手を合わせる。

最高だな。心底そう思う。


「では洗い物してきますね。」

「いや、私がやろう。リシアはゆっくり風呂でも--」

「お姉さま。」


私の言葉を遮るようにリシアは口を開く。


「他にしなければいけないことがあるんじゃないですか?」

「しなければいけないこと?」


何だろうか。私は考えを巡らせてみるが、わからない。

こういう時は素直にわからないと言った方がいいだろう。


「すまない、わからない。なんだろうか?」

「…本当に、わかりませんか?」


リシアが少し怒った時の表情になる。

まずい、私は何をやらかした?

必死に考えてみるが、やはりわからない。


「ごめん。本当にわからないんだ…。」

「アレですよ、アレ。」


リシアが指さした方には私が先ほどまで使っていた筋トレグッズがある。


「…あっ!?」

「私、先週その前も言いましたよね!?部屋に置いてもいいですが、必ず使ったら隅っこに片してくださいねって。それが出来ないなら持って帰ってくださいって言ったじゃないですか!?」

「アレはトレーニング中にリシアの帰る時間だと気づいて慌てて先に料理を優先して…後で片づけようと…」

「言い訳無用!すぐに片して、帰るときに一緒に持って帰ってください!」


リシアはそう言い切ると、食器を持って立ち上がり、キッチンへと向かう。

どうしよう、また同じことで怒らせてしまった。

私はとりあえず慌ててグッズをいつも置いている隅に集め、洗い物をしているリシアへの元へ向かう。


「…片づけ終わりました。」

「よろしい。そのまま持って帰ってくださいね?」


リシアは私に背を向け洗い物を続けたまま、そう答える。

これはまだ結構怒っているな、どうしたものか。

これからも定期的に通うならどうしてもあの程度はないと都合が悪いのだ。


「なぁ、リシア。」

「何です?」

「次からはちゃんと片すから、今回は許してくれないか…?」


私は渾身の申し訳なさそうな声でそうねだる。

リシアはこれに弱い。


「…それ、先週も聞きました。」


すげなく断られる。

だが、効いているようだ。

もう後一押しか?

あの手を使うか…。本当に怒っているときは逆効果だが、今はきっと有効だろう。

私は背を向けて洗い物をしているリシアの腰を抱き寄せる。


「リシア、こっちを向いて?」


そのままこちらを向かせてリシアを胸元へと寄せ、顔を見る。


「…お姉さま、汗臭いです。」


リシアはそう言うが、その割に離れず鼻をすんすんさせている。

リシアは変わらず今もニオイフェチで、そして私のにおいが好きなことは把握している。

そのまま私はなるべく眉を下げ、申し訳ない顔でリシアを見つめる。


「今回だけ、今回だけだ。頼む。」

「仕方ないですねぇ…。」


やった。私は頭の中でガッツポーズをする。

何とか説得に成功したようだ。


「そのかわり…」

「ん?」

「次、散らかしっぱなしだったら問題無用でゴミに出しますので。」


リシアはにっこりとこちらを見る。

その笑顔が微妙に怖い。


「えっと…」

「良 い で す ね ?」

「はい…」


何が何でも使ったらまず片そう。

私はそう心に決めたのだった。



※作者が言うのも何ですが、まだ二人はお付き合いまで行ってません。

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