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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
225/321

二人、手を取り合って その1

麗香視点です。

「コーヒーですか?紅茶ですか?それとも緑茶?」

「じゃあ、緑茶をいただけるか?」

「解りました。」


私はリシアが勉強しているときによく使う椅子とテーブルに案内され、座して待つ。

リシアは今何を考えているのだろう。

やはり怒っているのだろうか?それとも、呆れているのか。


「お待たせしました。どうぞ。」

「…黒くないか?」


リシアが差し出した湯呑みには黒い液体がなみなみと注がれている。


「緑茶です。どうぞ。」

「…いただこう。」


私は何が何やらわからないままその液体に口を付ける。

…うん。


「コーヒーだな。」

「緑茶です。」

「…緑茶だな。」

「よろしい。」


リシア流の仕返しか、はたまたリシアに逆らうようなことを言った私への教育か。

もしくは、暗に帰れと言われてるのかもしれないが。

私は黙ってコーヒーを飲む。


「それで、どうして今日はこちらに?」


リシアは対面の椅子に座ってそう問いかける。


「謝りに来たんだ。先日は口出ししすぎてしまったから。」

「わざわざ謝りにこちらまで?」

「だって、連絡しても返してくれないじゃないか。」

「それは…仕返しに数日放置してやろうと…。」

「そんなことされたら、私は寂しい。」


リシアの目を見てはっきりとそう伝える。

返事がこないあの時間の、どんなに心細いことか。

今思い返しても悲しい気持ちになれる。


「も、もうしませんから。そんな顔しないでくださいよ。ね?」


リシアがあたふたしながら私にそう告げる。

リシアまで。

私はそんなにひどい顔か?


「とにかく、私が口出ししすぎた。すまなかった。どうか許して欲しい。」

「私も、引っ込みがつかなくなってたので…来てくれて助かりました。ありがとうございます。」


私が頭を下げると、同じようにリシアも頭を下げる。

そしてどちらからともなく、見つめ合い、はにかむ。

良かった。どうやら許してもらえたらしい。


「リシアは、どうしてバイトを増やしたいんだ?」


紫杏は私にしっかり話し合ってこいと言った。

ならばと私はリシアに素直に訪ねてみる。


「んー、色々ありますけど…ほら、お姉さまと毎週末出掛けてると、やっぱり…お金が…。」

「そうだったのか。気づいてやれず申し訳ない。」

「良いんです良いんです。それに、私もお姉さまと遊びたいので。後、二輪の免許を取りたいんです。私。」

「二輪?どうして?」


突拍子のないリシアの計画に我ながら驚きを隠せないでいる。


「免許を取れたら、お姉さまとツーリングとかしたいなって思ってるんですけど…。」


リシアは照れくさそうにそう話す。 

な、なんて可愛らしいんだろうか。


「リシア…。必ず行こうな?」


思わず身を乗り出してリシアを抱きしめようとすると、ひらりとかわされる。むぅ。


「お姉さまはどうして反対するんですか?」


それについても伝えなければなるまい。

怒られると思うが、しっかり伝えてこいと、そう言われたのだ。


「…聞いても、あまり怒らないで欲しいのだが。」

「なんか、ろくでもなさそうなので何とも言えません。」

「むぅ…」

「ほらもう、ちゃっちゃと話してください?」


私は重たい口を開く。


「リシアは、時給が良い夜の仕事、と言ってたよな?条件に。」

「言いましたね?」

「そう言う条件だと、リシアは可愛らしいから、あまり良くない仕事とかに巻き込まれるんじゃないかと、不安になったんだ。」

「あまり良くない仕事、というのは…?」


不思議そうにそう問う。

まぁ、もっともな問いなのだが…答えづらい。


「まぁ…その。人とお酒を飲んで話したりとか…そう言う仕事だったりだな…。」


リシアは一度ぽかんとした顔をした後、これ以上にない大きな溜息をつく。


「怒って良いですよね?」

「真剣に憂いているんだ。あまり怒らないで欲しい…。」

「どうしてそんな発想に?」

「リシアはかわいいから、そう言うのは引く手数多だろうと思って。」

「叩いて良いですか?」

「ダメだ。」


リシアはとても冷たい目でこちらを見る。なんだかゾクッとするな?


「そんな仕事するわけないでしょうに?」

「そうかもしれないが…」

「かもしれない、ではなく、そんなわけはない、です。」

「はい…。」


リシアは再度溜息をつく。


「で?」

「で、とは?」

「百歩譲って、そう言うお仕事を私がしたら嫌なんですか?お姉さまは?」

「ああ、嫌だ。」

「どうして?」

「リシアが好きという以外に理由が要るだろうか?」

「ふ、ふーん?」


この表情はちょっと嬉しいときのやつだ。

最近少しわかるようになってきた。


「…じゃあ、お姉さまはお金を出して私とお酒を飲みたいとか思っちゃったり?」

「いくらでも出すに決まっているだろう??いくらだ?」

「はぁ、そうですか。」


リシアは冷たくあしらうように言うが、その語気も少し柔らかい。


「…まぁ、お姉さまが嫌らしいので。お姉さまと仲良しの間はそう言うバイトはしないってお約束しても良いですよ?」

「本当か!?」


思わずリシアに少し詰め寄る。

約束してくれるだけでも、少し安心できる。


「でもな~お姉さま、変なこと考えるしなー?私にメリットがないしなー?」

「頼む。この通りだ。」

「うーん、じゃあ、お姉さまは私に何してくれるんですか?」


何をしてくれるのか、か。

私がリシアに何をしてやれるのか。

わからない。

困った私は周囲を見回してみる。

ふと、目に入るものがある。


「…リシアは今は爪を切っていたのか?」


私は転がっている爪きりを指さしてそう訪ねる。


「え?ああ、そうですね。今から足の爪を切ろうかなーってところにお姉さまがいらっしゃった形ですね。」


リシアの発言を聞いて私は一つの案を思いつく。


「では、ひとまず私がリシアの爪の手入れをしてやろう。」

「はい?お姉さま?ちょっと!?」


私は椅子に座るリシアの前の床に正座する。


「ほら、足を出して?」

「そこまでしてもらわなくても…ちょっとした冗談で…。」


まごまごとしているリシアの足を取って、爪を触る。


「む。リシア、お風呂はいつ入ったか?」

「えっ、わ、わ、わ、わたし臭いますかね!?」

「いや、そうじゃない。少し経ってるな?爪が硬い。」

「あっ…まぁ一時間以上は経ってますね。」


リシアの発言を受け、私は立ち上がる。


「湯桶はあるか?」

「えっと、お風呂場にありますけど…。」

「少し借りるぞ?どっちだ?」

「あ、こっちです。」


リシアにお風呂場に案内してもらい、そこの湯桶に湯を張る。

私たちはもう一度元の場所に戻ると、リシアの足を湯に浸けてやる。

小さくて、可愛らしい。


「少し爪に湯を吸わせて柔らかくしてやろうな。ちょっと触るぞ?」

「はい。」


私は手で湯をかけながら片足ずつ、足の甲、指の間、踵などを軽く揉んでやり、その後軽く足つぼを押してやる。


「あっ…お姉さま…。」

「気持ちいいみたいだな?そのままリラックスしてくれ?」


そうして10分ほど足を揉みつつ爪に湯を吸わせた後は、足をタオルで拭いて水気を切る。

そしてそのまま私の膝の上にリシアの足を乗せる。


「そんな、わざわざお膝に乗せていただかなくても…そのままで…」

「こっちのがやりやすい。遠慮なく踏んでくれ?ほら。」


見上げてそう言うと、何だかリシアが少し熱を帯びた怖い目になる。

触れてはいけない気がして、私はとりあえず無視しておく。


「じゃあ、爪を切っていくからな?」


ぱちり、ぱちり。

それぞれの指の爪を切っては、ヤスリで形を整えてゆく。

その作業が地味に楽しい。


「ほら出来た。」

「さすがですね。」

「次は保湿クリームを塗ろう。持ち合わせはあったかな、と。」

「そこまでするんですか?」

「しておくと、ペディキュアをするときにノリが良い。今度してみるか?」

「ちょっと興味はありますね。」

「じゃあ、今度ペディキュアの道具も持ってこような。」


私は保湿クリームを広げ、一指ずつ丁寧に塗ってゆく。


「リシア、次は足を上げて。足の裏を私に見せるように。」

「なんだか、恥ずかしいんですけど…」

「ふふ、心配せずともリシアは足も可愛いよ。」

「そう言う問題じゃないんですが…。」


私はリシアの上げた足をそのまま手で持ち、もう片手で足の裏にも保湿クリームを塗ってゆく。


「特に踵は念入りに塗っておくといい。少しかさついてるからな?」

「は、はい…。」


これでおおかた作業は終了だ。

私は立ち上がって、リシアの顔を見る。


「どうだろう?満足してもらえたかな?」

「はい…それはもう…。」


少しとろんとしながらも心底良かったと言う風にリシアはうなずく。

喜んでくれたなら良かった。


「リシアが約束してくれるなら、こうやって私が定期的に足の爪ケアをしよう。どうかな?」

「いや、さっきも言いましたけど冗談で…ここまでしてもらわなくても…」

「私がしてあげたいんだ。リシアが喜んでくれるから。でも、もしそれで余る、というのであれば、私にも何かご褒美をくれないか?」


私は調子に乗ってそうおねだりしてみる。

何が欲しいというわけでもない、ただリシアから何かしてもらえる、それだけで良い。


「ご褒美…ご褒美…あっ!」


リシアは何かを思い出したように、戸棚まで走ると中を漁り、鍵を持ってくる。


「これ、ついこないだ探して見つけた奴なんですけど…部屋の合い鍵です。」

「合い鍵!?」


合い鍵。合い鍵?


「そ、それを私に…?」

「お姉さまに渡そうとおもって探したんですよ。」

「いや、それは良くないんじゃないかな…?」


それは良くない。

非常によろしくない。


「何でです?今日とか、あったらそれだけでわざわざ家の前まで来て帰りそうになるみたいなことにはならないのでは?」

「それはーそうなんだが。」


とはいえだ、合い鍵なんて不埒なもの、私が持っていれば不埒な私が何をしでかすかわからない。


「そう言うのは悪用されるし…不用意に渡しては…」

「お姉さまにしか渡しませんけど?信頼出来ない人に渡す訳ないじゃないですか。」


どうしよう。信頼が身に痛い。

これでリシアに不埒なことをして軽蔑の目で見られたら…それはそれで…


「ご褒美、要らないんですか?」

「…毎日通う…」

「それは節度を持っていらして欲しいですけど。」


私はリシアから合い鍵を受け取る。

重い。とても重い。


「まぁ、本当に毎日来られたら困りますけど、ある程度ご自由にどうぞ。別に、帰ってきたらお姉さまが部屋に転がってた、とかでも気にしませんし?」

「あ、あぁ…。」

「何なら私が他にバイト始めたら、定期的に待ってていただければ、変な勘ぐりとかしなくて済むんじゃないですかー?ねえ、お姉さま?」


リシアはニヤニヤとしながら私のわき腹をつついて笑う。


「そう、だな。ありがとう…。」

「そこは光栄ですでは?」


リシアはさらに意地悪くそう笑う。

どうやら弄られているらしい。

ちょっとやり返してやろう。


私は右膝を付き、リシアの前に跪くようにして鍵を拝す。


「光栄です。マイディア?」


リシアの手を取り、甲にキスをする。

耳まで真っ赤になったリシアの様に、私は一人満足したのだった。






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