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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
222/321

初めての遊園地 その5

夕方。そろそろ日も暮れようかという頃。

まだまだ遊び足りないが、そろそろ帰らなければいけない。

1日が楽しかっただけに、なんだか寂しい。


「最後に観覧車に乗っていかないか?」

「わかりました。」


私たちは今日最後のアトラクションへとゆっくり歩いていく。

終わらないことを祈るように。


「遊園地の最後って観覧車に乗るものなんですかね?」

「え、いやぁどうだろうな?」

「何となくそう言うイメージはあるので、そういうものなのかなあと。」

「まぁ私も何となく言い出したくらいだからな。そう言うイメージはあるな。」

「ですよねぇ。」


そんな他愛のないことを言いながら。

一歩一歩。


「でも、お姉さま高いところ怖いんじゃないんですか?」

「なっ、…そんなわけ無いだろう…」

「ふふ、さすがにバレてますよ?おねえーさまっ!」


お姉さまにからかうように笑いかけると、すごく不本意そうな顔をする。


「…別に、高速で動かなければ問題はない。」

「でしたら、あの檻型ゴンドラにします?」


私は観覧車に一台だけ混じった檻状のスカスカのゴンドラを指さす。


「…リシア、一つ聞いて良いか?」

「なんでしょう?」

「今日、解ってて私を虐めていたよな?」

「ふんふんふーん。…何か言いました?」


私はわざとらしく鼻歌を唄いながら繋いだ手を大きく振り聞こえないフリをする。

お姉さまはそれ以上の追及を諦めたように肩をすくめる。


「…楽しかったですよ?」

「おいっ!?」


お姉さまはちょっと怒った顔になるが関係ない。

そして、私たちは観覧車の前へたどり着く。


「あのゴンドラが回ってくるまでまだかかりますねえ。ゆっくりしてます?」

「まだ言ってるのか。ほら行くぞ?」

「えぇー…」


お姉さまに引かれ、ふつうのゴンドラに乗り込む。

あれはあれで楽しそうなのだが。


「上がっていきますねえ。」

「そうだなぁ。」


私たちの想いを知らず観覧車は徐々に上がってゆく。

これが回れば今日もおしまい。

寂しさも募る。


「西側を見てみろ。富士山と夕日がキレイだ。」

「わぁ…本当ですね。」


夕焼け色に染まった富士山が目の前にはある。

真夏だ。冠雪こそ無いものの、その見事さは目を見張るものがある。


「お姉さ…ま…」


私は正面に座るお姉さまの顔を見てはっとする。

窓を覗き、夕焼けに染まる横顔が、えもいわれぬほど美しくて。


「ん?どうした?」

「いえ、何でもないです。どうか、そのまま。」

「そうか?」


お姉さまは気を取り直したようにまた富士山の方を向き直る。

私は心のファインダーにそれを焼き付けた。


◆ ◇ ◆ ◇


「なぁ、リシア。そっちに行ってもいいか?」


観覧車が頂上に着きそうなそのころ、お姉さまはそう問いかける。


「構いませんよ。どうぞ、こちらへ。」


私は端に寄ってお姉さまの座るスペースを空けてやると、嬉しそうに横に座る。


「楽しかったな。今日は。」

「遊園地、初めてでしたけど本当に楽しかったです。なんだか、今日が終わるのが惜しくて。」


私は胸の内を話す。

お姉さまは頷きながら、私の手に手を重ねる。


「また、来れば良いさ。」

「連れてってくれるんですか?」

「ふふ、そうだな。リシアがアトラクションで意地悪しないって約束してくれるならかな?」

「それはちょっと難しいですね。」

「そこは嘘でもうんって言って欲しいところだ。」


私たちは顔を見合わせ、笑いあう。

そうだ、また来れば良い。


「いつもこうやって楽しいのは、リシアがそばに居てくれるからだ。ありがとう。」


お姉さまは本当に嬉しそうにそう笑う。


「最近、よくそう言ってくれますね。」

「リシアはへそ曲がりだからな。何度でも言って、信じて貰わないと。」

「それ、本人に言います?」


ジト目で見返すと、ウインクで返してくる。

畜生、美人はウインクだって似合うんだ。


--そうして、観覧車が頂上に来た頃。

私は覚悟を決めて口を開く。

乗る前に、話そうと決めてたこと。


「お姉さま。私のことを…そのっ、好きって…言ってくれました、よ、ね?」

「ああ。そうだな。」

「それは、親愛ではなく…そのう、恋愛とも。」

「そうだよ。私は恋愛感情としてリシアが好きだ。」


お姉さまは真っ直ぐにこちらの目を見る。

自分の発言に、何一つ偽りはないと、私に伝えるように。


「恋愛感情…ってことは、その、お付き合いとか。結婚とか。」

「ああ。」

「き、キス…とか。そ、そ、その先とか?私としたい…って事ですかね?」

「えっと…」


お姉さまが少し躊躇うように口を開く。

その様子に、不味い間違えたかと私は焦る。


「ご、ごめんなさい。自意識過剰でしたよね?」

「いや、落ち着けリシア。」


お姉さまは私のおでこをコツンと指でツツく。


「あまり意識させてもと思ってどうしようと思っただけだ。…うん、私はそう思っているよ。」


お姉さまは私の体から一切を離してそう答える。

そこにお姉さまの配慮と優しさが感じられて。

なんだか暖かくなる。


「えーっと、そ、の、ですね。…私、そう言うの全部、初めてで。」

「ああ。」

「全然よくわからないと言うか。いまいち感覚もなくて。」

「うん。」

「一生懸命考えて見たんですけど。全然なんだか想像がつかなくて。」


そこで言葉を切ると、勘違いをしたのかお姉さまはそこで少し眉が下がり悲しそうな顔になる。

そうじゃないから。悲しまないで。


「で、でも、お姉さまは大切なんです。一緒に居たいんです!」

「そ、そうなのか?」


そこで少し安堵した表情に戻る。

そう、それで居て欲しい。


「だからあの!本当に前向きに考え、たくて。…その、そのですよ?」

「ああ。何だ?」

「き、キスしてもらえませんか…?」


言ってしまった。言ってしまったよ。

あまりの宣言にお姉さまも固まっている。

私の話の持って行き方が下手くそすぎる。


「い、いや、違うんですよ!?…違い、ませんけど…。実際に体験してみたら解ることもある、かなって。」

「そ、そうかもしれないが…。」

「だから!お姉さまさえ良ければドーンとやっちゃってください!ほら!遠慮なく!」


ええい。もうヤケだ。

私は目を瞑って口を少し尖らせる。

キス待ちってこれでいいんだろうか?解らない。

というか、断られたらどうしよう。


「…リシア。キスするぞ?」

「は、はいっ!」


お姉さまは私の肩に手を置く。

もうすぐ、だろうか。

どうしよう、今日一番ドキドキする。


「…えっ?」


私は予想外のことに少し呆ける。

確かに、確かにキスはした。

だが…それは私の被っていた麦わら帽子をお姉さまは私の顔まで下げ、その上から。


「あの、お嫌…でしたか?」


少しショックなような、悲しいような。

どうしてこんなに、がっかりしているのだろう。


「違うよ。リシア。」 

「じゃあ、どうして?」

「リシアのファーストキスは、私になら良い、ではなくて私にあげたい、と思ってからもらいたいと思ってな。だから、今はこれで。」


お姉さまはニコッと笑って私の唇を指の腹で撫でる。

その様子は大変サマになっており格好いい。


「いいんだよ、別に解らないなら解らないで。解るようになるまで、ゆっくり考えてくれたらいい。そう言っただろ?」

「そう、ですけど…。」


お姉さまはいつも私が好きだ、私と居ると幸せだとはっきりと伝えてくれる。

それに対して、いつまでも待たせるのは誠実でないと思ったのだ。


「それより、あんまり誘惑しないでくれ?いつか、リシアを怖がらせそうだ。」


そんなことは、たぶん…ないのだけど。

そうこうしているうちにも、観覧車は地上におりてゆく。


「さて、帰ろうか?足下、気をつけてな。」

「あっ、はい。」


ゴンドラの戸が開くと、お姉さまは先に降りて手を引いてくれる。

どうしてだろう、降りたくない気持ちがするのは。

遊園地から帰るのが惜しいだけ、ではない気がした。












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