初めての遊園地 その1
作品に出てくる施設・行事・イベントは全て架空のものです。
…モデルはありますが。
スマホが鳴る。
画面を見るとお姉さまの名前が。
不思議と胸が高鳴る。
その理由は、わからないまま。
『はい、もしもし?』
『リシアか?今大丈夫か?』
『大丈夫ですよ?お姉さまこそ今撮影中じゃなかったでしたっけ?』
『うん。休憩中なんだ。』
休憩の合間にわざわざ電話を掛けてきたのか。
この人と来たら。
『で、どうしたんです?』
『リシアの声が聞きたくなってな。』
『…そんな理由なら、切りますよ?』
『私にとっては大事だが?まぁでも、他にも理由はあるんだ。実は、今日現場に来てたお偉いさんからとある遊園地のフリーパスペアチケットを貰ってな。』
『遊園地、ですか?』
『ああ。で、リシアが行きたかったどうかな…って。あっ、もちろん、嫌なら紫杏たちに譲るから良いんだ。』
お姉さまが慌ててそうフォローを入れる。
ふふ、ちょっと可愛いな。
『あの、実はですねお姉さま。』
『なんだ?』
『私、遊園地に行ったことがないんです。だからその、フリーパス?ってのもよくわかんなくて…。』
そう、行ったことがない。
実家周りじゃ『あんなん喜ぶの田舎もんだけや』なーんて斜に構えた人たちが殆とで。
自分たちが田舎もんのくせに。
私もこれといって行きたいとも思ったこともなかったのだが。
『そうなのか。フリーパスというのはそこの乗り物を1日自由に乗れるチケットだな。』
『乗り物…アレって有料なんですね。』
『場所にもよるがな。なぁ、リシア。一緒に行きたい。』
『こちらこそ、よろしくお願いします。』
私はついつい通話しながら会釈してしまう。
『やった!この後の撮影も頑張れそうだ。』
『ふふ、なんですかそれ。普段だって頑張ってるでしょう?』
『リシアが頑張れって応援してくれたらもっと頑張れる気がするな?』
お姉さまは催促するようにそう私に告げる。
『嫌ですけど?』
何か嫌な予感がするし。
別に頑張っていただかなくていいし。私は。
『ええ、そこを何とか。』
『はぁ、仕方ないですね。…こほん。お姉さま、頑張って!』
『………』
『いや、何か言ってくださいよ!?自分からねだっておいて!』
『…すまない。私はもうダメだ…胸に矢を…』
『はい?』
『リシアの頑張ってが可愛すぎてダメージが大きいんだ…。』
『訳の分からないことを言えるなら大丈夫ですね。切りますよ?』
いつだってこの人はオーバーなんだ。
本気なのか冗談なのか、いつも解らない。
『あ、待って、リシア。』
『なんですか?』
『愛してるよ。』
私は何も答えずそのまま通話を切る。
どうして、こんなに顔が熱くなるんだろう。
◆ ◇ ◆ ◇
そして早朝最寄り駅前。
お姉さまいわく、富士山の近くなので敷地が広く、バイクは無料らしい。
かなり遠いし、電車のが時間がかかる。
だからバイクで行こう、連れて行くよと。
思えばいつもこうしてお姉さまにバイクで色んなところに連れて行って貰っている。
ガソリン代も払おうとしたことがあったが、ほとんど受け取ってもらえず。
二輪の免許、欲しいな。
二人でバイクにまたがって走って。
横を見ればメット越しにお姉さまがにっと笑いかけてくれる。
お姉さまの後ろに座ってではなく、お姉さまとともに並んで。
--良いな。絶対免許取ろう。
そんな思いに耽っていると、お姉さまがバイクに乗ってやってくる。
「お姉さま、おはようございます。」
バイクの上のお姉さまに手を振ると、固まってしまう。
少し経って気を取り直したようにバイクから降りてくる。
「驚いたな。とても可愛い。」
お姉さまは私を上から下まで見ると、そう褒める。
「いやですねえお姉さま。ただの動きやすい格好ですよ。」
ブルーのフレアデニムに白のブラウス。靴は無難に白スニーカーで、麦わら帽子を被ってみた。
昨晩、動きやすい格好と言われ結構考えて見たのだが。
「可愛い。可愛い過ぎてもう他の人に見せたくない。今日は帰ろうか。」
「いやいやいや、何でですか。」
そう言うお姉さまは着崩したダメージジーンズに黒シャツ。足下はカラフルな男性ものぽいスニーカー。
スラッと足が長いのを活かしたタイトめのジーンズで、何というか…イケ彼って感じだ。
こんなイケメンで優しい彼氏とか居たら、その人は幸せだろうな。
「あの。」
「ん?」
「…お姉さまこそ、格好いいです。」
「ありがとう。リシアにそう言われたくて頑張ったんだ。」
お姉さまはギュッと私を抱きしめる。
だが、すぐにパッと放してしまう。
「すまない、あんまりベタベタするのはよくないな。」
そんな、気にしてはないのだけど。
そう思いながらも口には出さない。
「ただ、アクセサリーは外して置いた方が良いかも知れない。アトラクション前に外しては付けが面倒くさいんだこれが。」
「あ、そうなんですね。じゃあネックレスとブレスレット外して起きましょうかね。」
私はネックレスを外そうとする。
お姉さまと二人で作ったあのネックレスだ。
だが、お姉さまはすっと軽く腕を掴むと、耳元でささやく。
「ごめん。でもそれは着けてて欲しいな。」
甘えるようなその口振りに、少しとろんとしてしまう自分が居る。
どうして?お姉さまから貰ったものだから?それとも、お姉さまの言う名札、だからなのか。
まだ早朝にも関わらず、今日も暑くなりそうな気がした。




