そして、後日。
予約設定にミスって、一時公開されていた奴です。
お姉さまとトレーラーハウスでの一泊二日から数日。
あの日は色んなことがあった。…本当に、色んなことが。
◆ ◇ ◆ ◇
「愛しているよ。心の底から。ずっと。」
お姉さまは私の手を取り目をまっすぐ見据えると私にそう告げた。
状況がいまいち飲み込めずに居る私は、お姉さまにタオルを差し出しながら妙な顔をしているに違いない。
「えっと…大丈夫ですか?」
「すまない、大丈夫だ。」
お姉さまの涙を拭いつつ、握られた片手を見る。
「あの、えっと…?」
「少しだけ、こうしていても良いか。」
「良いです、けど…?」
お姉さまはこちらをじっと見つめる。
私の底の底まで見通そうとするような、そんな真剣さで。
「リシア。今すぐ答えてくれなくていい。でも、知っておいて欲しい。」
「何の、ことでしょう…?」
私は状況をまだ飲み込めない。
だって、お姉さまが私みたいなのを。
「私がリシアを、□□を愛している、ということだ。」
お姉さまは真っ直ぐに、愛しているを強調するように、こちらに伝える。
私みたいなのを好きになるはずが。
「それは、えっと…親愛、ですよね?」
「いや、恋愛感情としてだ。…許されるなら、私は君の恋人になりたいと思っている。」
脳の処理が追いつかない。
「私の?何故?」
「君の好きなところ、以前みたいにまた語って見せようか?」
「それは…ちょっと。」
熱がでているわけでもない素面の今、精神的に恥ずかしい。
「同性ですよ?」
「そうだな?」
だからどうしたと言わんばかりの顔でこちらを見る。
あなたはそうでも私は違う。
私は…
昨晩のことが脳裏に過る。
いや、違う。違うんだ。
「さっき言った通り、今すぐ返事をくれとは言わない。…無理なら、断ってくれたって…良い。これを聞いて、私のボディタッチが不快に思うようになったなら、それも控えよう。」
「そんなことは無いですが…。」
現に、今こうして手を握られていても、そんな感情などは一切沸いてこない。
「良かった。自分で言い出したこととはいえ、好きな人からそんなことを言われたら立ち直れないかもしれない。」
お姉さまは安堵したように、私の手を撫でる。
どうしてこの人は、そんな些細なことでこんなに幸せそうなのか。
「最初はただの一友人で良かったんだ。でも、そばに居るほどに想いは募って。ただの友達じゃ、我慢できないんだ。もう。」
「そ、そうなんですね。」
なんと返していいのか。
もう、何もわからない。
「欲深いだろ?恥ずかしいが、私はそうらしい。」
「そう…ですかね?」
「ふふ、見ていてもリシアがショートしかけているのがわかるな。」
お姉さまは私の手を離す。
私はどうしていいかわからず、立ち尽くす。
「ゆっくりで良い。考えてくれるか?」
「は、はい。」
「ありがとう。じゃあ、気を取り直して朝食をいただこうか?」
お姉さまは立ち上がって、私の椅子を軽く引いて手で合図する。
私は従って座る。
そうして、何も無かったようにまた朝食が始まった。
◆ ◇ ◆ ◇
あれから毎日、お姉さまのことを考えている私が居る。
「リシア。」
どうすべきなのだろうか。
悩めども悩めども結論はでない。
「おーい、リシア?」
そもそも私の気持ちは何処にあるんだろう。
私はお姉さまとどうなりたいの?
「□□ー?。だめだなこれは。」
もし、私の気持ちがそうとしても応えるべきなのか?
お姉さまのことを思えば私など身を引いた方が--
その最中、急に体が宙に浮く。
「きゃっ!?え、お姉さま!?」
「やっと気づいてくれた。」
私の顔を覗き込むその人の顔を見て驚く。
「どうしてここにいるんですか?」
「いつもの近くのスタジオで撮影があるからお昼を一緒に食べようと約束したろ。なのにメッセージ入れても連絡がつかないから。」
「あっ…見てませんでした。」
「だろ?だから学部から当たりをつけて探しに来たのだが、すぐ見つかって良かった。」
確かに今は学部棟で授業を受けた後、そのまま呆けて居たのではあるが…
それにしたってよく見つけたものだ。
あれ、というか--
「下ろしてください!?」
「バレたか。」
己が今公衆の面前でお姫様だっこの体勢になっていることに気づく。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
お姉さまはいたずらっぽい表情をしながらも私を下ろし立たせると、手を握る。
「さっ、行こうか。」
「あっ、はい!」
あんなことがあっても、お姉さまはいつも通り私に微笑みかけて、手を引く。
いつものお姉さまだ。
きっとこの前のことも私の勘違いか何かなのだろう。
「リシア。」
「何でしょう?」
「今日も可愛い。前髪をちょっと切ったな?」
お姉さまはサラッと私の頬に手を当てて見つめる。
「よく気づきますね?」
「好きな人のことだからな。」
どうやら、勘違いでは、ない、ようだ。
先ほどの恥ずかしい気持ちが今になって体に来たのか、心拍数があがる。
なんだか繋いだ手が熱いような気がする。
手汗、酷くないだろうか。
「あの。手!」
「ん?」
お姉さまが屈んで覗き込むようにして私と目線を合わせる。
あれ、いつもこの人はこうして私と目線を合わせていたんだっけ。
顔が近い気もする。
どうしてこんなに距離感が近いんだ?
「どうかしたか?」
「いや、ナンデモナイ、デス。」
「ふふ、よく見たら今日はリップが私のオススメした奴だ。可愛いぞ?似合ってる。」
「アリガトウゴザイマス。」
さらに己の体温が上がるのがわかる。
どうしたんだろう、私。
今日は足取りも宙に浮いているような気がして、ただただ落ち着かなかった。




