二人きりのトレーラーハウス その11
予約設定ミスで21:30頃一つ先の話が公開されていました。
現在は削除して翌21:00に設定済みです。
鳥がピーツツピーピーといった声で鳴く。
もう外は少し明るい。結局眠れなかった。
そう言えば、海は東向きだったな。
今外に出れば海からの日の出が見れるかもしれない。
私は少し肌寒い気配を感じ、服を軽く羽織る。
そのままベッドから出て玄関口に向かう。
「おはよう。早いな?」
「おはようございます。お姉さまこそ。」
もうお姉さまは起きていたようで、同じようにベッドから出てくる。
「日の出、見れそうですね。」
既に東向きの窓から少し光が差し込んできている。
外はどうなっているか想像に難くない。
「見に行くか?」
「良いですけど…。」
私はお姉さまの格好を見る。昨晩と同じ格好だ。
記憶が蘇るが振り払う。
私は荷物に戻ってお姉さまに羽織る物を手渡す。
「たぶんそれじゃ少し肌寒いですよ。羽織ってください。」
「ありがとう。」
「それから、ほんのちょっとだけ待ってくださいね?」
私は備え付けのケトルに水をいれて沸騰させる。
300mlくらいだ。ものの一分ほどで沸き立つだろう。
私はお姉さまにマグカップを差し出す。
「はい。これを。」
「マグカップ?」
「付いてた奴ですが。見ながら飲みましょう?」
私は備え付けにあったドリップバックのコーヒーをひらひらさせる。
「なるほど。コーヒーか。」
「ちょうど良いかと思いまして。そう言えば外の鳥さんの声、なんて鳥ですか?」
「イソヒヨドリだな。幸せの青い鳥、ってやつだ。」
「ああ、あの。」
「繁殖期は春だが、天気が良いと季節を問わずよく鳴く。幸せの青い鳥曰く、今日は良い天気らしいぞ?」
「ふふ、そうですか。幸先が良いですねえ。」
パチッ。ケトルの沸騰が終わり止まる音がする。
私はケトルとマグカップを持ってお姉さまに合図する。
「じゃあ開けるぞ。3、2、1。」
ドアを開けると、一気に光が差し込んでくる。
私たちはそのままウッドデッキに出る。
「はぁ…綺麗ですね。」
「海に浮かぶ朝日というのも良いな。」
オレンジに染まった海から太陽が半分顔を覗かせる。
太陽とはこれほど近かったかと驚かせるような大きさでこちらを照らしてくる。
空はもう青くなっていて、雲もはっきりと見える。
二人しばらく立ち尽くして眺めた後、どちらからともなくウッドデッキの椅子に並んで座る。
「どうぞ。」
ドリップバックを開けて湯を注ぎコーヒーを淹れるとお姉さまに差し出す。
「ありがとう。やはり早朝は冷えるな。本当によく気が付く。」
「大したことじゃないですよ。私もいただきます。」
お姉さまが己のカップをこちらの前に差し出す。
何をやりたいかわかった私は、自分のカップを軽くチンとぶつける。
「「いただきます。」」
二人のペースで進む早朝の時間は、とても心地が良かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「んで、今の雑誌のモデル採用の最終選考まで行ったんだが…そこでジジイに尻を触られてな。」
「セクハラじゃないですか!?」
「当然だ。私も腹が立ってな。そのジジイを思いっきり投げ飛ばしてやったんだが…」
「まぁ、されても文句は言えませんね。」
「そいつが雑誌を出してる出版社の会長だったんだよ…。」
「はい?」
「結構な勢いで投げられた割にぴんぴんとしていてな。何故かその場で採用された。会長権限で。」
「もう、訳わかんないですね…。」
「未だにたまに撮影を見に来るんだよ、奴さん。近寄ってきたら投げるぞと構えると寄っては来ないが。」
「はぁ。えらい人って変わってる人が多いですね。」
二人、朝日を見ながら雑談に花を咲かせる。
二つのマグカップの底には黒い粉だけが残り、朝日ももう高いところにやってきた。
どちらのとも知れぬくぅと鳴ったお腹の音にようやっと会話が切りあがる。
「うん、もう開いてる時間だな。朝食の食材を貰いに行こう。」
「すいません、ちょっとお任せして貰ってきていただいてもいいですか?私、こっちでやりたいことがあって。」
「ん?構わないぞ。向こうで調理じゃなく、こっちまで持ってくればいいんだな?」
「ええ、面倒おかけします。」
「気にするな。任せとけ?」
お姉さまはニヤリと笑うと、食材を受け取りに配布所に向かう。
私はトレーラーハウスに戻ると、昨晩仕込んでいたものの調理を始めた。
◆ ◇ ◆ ◇
「おおい、開けてくれ。思ったより多くて両手が塞がった。」
「はぁい!今行きます!」
外から聞こえたお姉さまの声に走って玄関口に駆けつけドアを開ける。
「お帰りなさい。」
「た、ただいま。」
両手いっぱいに食材を持ったお姉さまから少し受け取り、代わりに持って中に入る。
「その、エプロン姿。似合ってるな?…出迎えられると、新妻みたいだ。」
「これですか?ちょっと揚げ物をしようと思ったところに備え付けでちょうどあったので、借りてみました。」
私はあまり目を離す訳にも行かないと食材を持って、テトテトと油の元に向かう。
「揚げ物?」
「ふふ、実は昨日の晩お姉さまのお風呂タイムの合間に余った食材で仕込んでいたんですよ。豚カツ!」
そう。つまみを出してビールを冷やして。その後余った時間で仕込んで置いた。
有りものでなんとか作れそうな感じだったのだ。
「ほほう。…どうして豚カツを?」
「以前、ピクニックの時にカツサンドが無いか聞かれていましたよね?お好きなのかな?と思いまして。今朝の食材にプラスして豚カツが有ればカツサンドも作れるだろうと思ったんですが。」
「…そう、か。」
「ごめんなさい、私の勘違いでしたか?」
なんだか目頭を抑えて様子のおかしなお姉さまを見て不安になる。
喜んでもらえたらと思ったが、良い迷惑だったかもしれない。
「いや!そんなことはない!断じて!…むしろ、嬉しかったんだ。本当に。」
お姉さまはそうニコっと笑う。
喜んでくれるのなら、私もした甲斐がある。
「へへ、良かった。もうすぐ揚がるので、それまで他の調理は任せても良いですか?」
「ああ。もちろん。」
「ごめんなさい、少し狭いと思いますが。」
結局この狭いキッチンで二人並んで調理することになってしまった。
そこは失敗だった。
お姉さまは身動きが取りづらいんじゃないか。
「良いんだ。これが良い。」
「そうですか?」
お姉さまのよくわからない返し。
でも、確かに何だか楽しかった。
◆ ◇ ◆ ◇
サンドイッチに、ベーコンエッグ。
焼いたソーセージに、シーザーサラダ、カボチャのポタージュ。
お姉さまが両手にやっと抱えたほどの豪華な食材たちは、そのまま豪華な朝食へと姿を変えた。
「これは…素晴らしいな。」
「食べる前にお姉さま。sns用に写真を撮っておいた方がいいのでは?また更新滞っていると怒られますよ?」
「ああ、そうだな。そうしよう。よく気づいてくれた。」
「ふふ、これは私もちょっと撮りたいので。」
2、3枚ほど違う構図から写真を撮り済ませると、私たちは手を合わせて食事に手をつける。
お姉さまは、まずカツサンドに手を伸ばし頬張る。
「美味しい…。あの、味。」
そう呟いたお姉さまの目から大粒の涙がボロボロと止めどなく流れる。
そのまま嗚咽しはじめる。
「どうしました!?大丈夫ですか?」
私は慌ててタオルを持ちお姉さまに渡す。
何かまずかっただろうか。
「あの味なんだ…違うのに。でも、あの味なんだ。」
「お姉さま?」
タオルを握って呟くのみのお姉さまからそのままタオルを取り返し、顔の涙を拭いてやる。
なんだか様子がおかしい。
そのままお姉さまはすっと私の方を見つめる。
「なぁ、リシア。」
「はい?」
「愛しているよ。心の底から。ずっと。」




