二人きりのトレーラーハウス その10
麗香視点です。
最近タイトルのナンバリングを毎回間違えるので何とかしたい。
横になる。満天、とは言い難い星空。
とはいえ現代日本の街中からそう離れたところでもないここではよく見えている方なのだろう。
昔、初めてリシアと星を眺めたころを思い出す。
二人が想いを通じ合わせたあの日。あの日の思い出が私に力をくれることを願って、私は口を開く。
「見ろ、リシア!ここだと星がよく見えるぞ!」
リシアは私に付き合って地べたに横になる。
私が様々な粗雑な振る舞いをしてもだいたいはこうやって付き合ってくれる。
「わぁ、すごいですね。」
「…あれが彦星様で、あれが織姫様だ。」
あの時聞いた天の川伝説を思い出しながらアルタイルとベガを指さす。
「アレが?天の川はどこでしょう?」
「はは、現代日本の夜空じゃまぁ見えないな。」
「じゃあ、二人はいつでも会えるんですね。」
「ああ、会えるさ。いつでも。」
そう、今の私たちのように。
あの時の私たちと違って、少なくとも私たちの気持ち以外に二人を遮るものなどないのだ。
私はリシアの指に己の指を絡めてみる。
彼女は私に応える様に指を絡め返してくる。
私はそれに勇気をもらう。
普段の好意を伝える時や褒める時は気軽に伝えられるのに、どうして恋愛感情を伝えるのはこんなに難しいのか。
「幸せだ。ずっとこうして暮らしたい。」
我ながら婉曲な表現だなと思う。
だが、臆病な私にはこれが精一杯だった。
そして嘘偽りない私の本音でもある。
風景の良いこんな場所で、良く気がつく可愛らしくて素敵な恋人と横並びに座って暮らせればどんなに幸せだろうと思ったのだ。
「良いじゃないですか。海際に家でも買ったらどうです?私、ちょくちょく遊びに行きますよ?」
リシアは楽しそうにそう返す。
そう言うことではなかったのだが。
…あの鋭さは、リシア由来かな。
人なつっこくてそう言った人間の機微には鋭い。
そんな側面はきっと乙女ゲー主人公の「リシア」の側面なのだろう。
つまり、君に想いを伝えようと思うなら、もっと迂遠でない言い方をたくさんしなければならないということだ。
難しい。本当に難しい…。
私は心の中で一人頭を抱えた。
◆ ◇ ◆ ◇
結局そのままはっきりと想いを伝えられず。
リシアが湯に入っている間に不甲斐ない私は自分自身と戦うイメージでトレーニングを始める。
そしてひとしきり脳内の自分をボコり終えた後精神的に疲弊した私はベッドに横になる。
しばらくするとリシアもお風呂から上がってきて自分のベッドに座り雑談を始める。
が、お互いの顔が見えない配置になっているため、少しやりづらい。
とはいえ、向こうのベッドに行って話し込むというのも変かなと葛藤する。
何よりやはり淑女のベッドの上というのは一種の聖地だ。
私が踏み入れるのは良くないと踏みとどまると、なんとリシアの方からやってくる。
私は驚きを隠せないでいたが、恥をかかす訳にもいかないとリシアがゆったりと座れる程度にスペースを空ける。
が、リシアが枕を置いたあたりで気づく。
これって。
想像すると同時くらいにリシアが目の前で横になる。
一緒に横になることは何回かあったが、二人きりの建物内、それも寝床の上となると話が違う。
寝かしつける為というわけでもない。
心臓が飛び出そうだ。
だが、平静を装いながら話し込んでるうちになんだかんだ少し落ち着いてくる。
ドキドキもするが、それ以上に居心地が良い。呼吸がよく合う。
恋バナと言われ思い出し語った昔話だったが、リシアは楽しそうに聞いている。
いつも楽しそうに私の話を聞く君の姿が本当に好きだ。思いが募る。
そんな時間も少し経ち、話し疲れた私たちはお互い沈黙する。
沈黙も苦じゃない関係だが、ただ黙って見つめ合うのは少し照れくさい。
リシアもそう思ったのか、ふいと目を下にやる。
リシアの指先がつんとお腹に触れる。
驚いたが、どうやらお腹に着いていた綿が気になったらしい。
取って捨てる動作を見て納得する。
直後、お腹に再度触れる。
私は声が出そうになるのを我慢する。
リシアは腹筋が気になるようでずっとむにむにと弄んでいる。
その指遣いが前の世界のリシアとの情事を思い出させる。
触れて欲しい周囲をなぞるように、焦らすように触る。
そうして焦らされた頃に、弱いところに不意に触られる。
私は思わず声が出て、体が跳ねる。
リシアはこちらをジッと見る。
あの目だ。私の全てを差し出したくなるような、求める目。
情熱的で真っ直ぐにこちらを見つめる熱を帯びた視線。
背中にゾクリとしたものが走る。
--欲しいなら、全部差しだそう。
声に出そうとして出ない、感情。
手を伸ばそうとして、リシアの枕に触れ、落ちる。
その瞬間、リシアははっとした顔になり青ざめる。
「あのっ!…私、眠くなったのでそろそろベッドに戻りますね!」
リシアはそう告げて逃げるように己のベッドへと戻ってゆく。
私は一人、その場に残される。
高ぶったままの感情はいつまでも落ち着かず、眠れそうになかった。




