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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
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二人きりのトレーラーハウス その9

「お姉さまって、レベッカと違って雰囲気がふにゃっと柔らかいんですよね。」

「柔らかい?私が?」


□□のその一言に驚く。

だって、そのレベッカは私自身だ。

確かに『剣戟の先に』をプレイしてみた当時、私はこんなに仏頂面なのかと思ったものだが…にしてもだ。


ましてやあの夏服だ。

私はリシアと夏服を買いに行ったのでああいった服は着なかった。

とはいえ選んだ理由もわかる。私だって可愛いって言われたい気持ちはあった。

だから当時似合うようなアクセントをしてくれたリシアには感謝している。

しかし、素の私の似合わなさよ。

プレイしている本人が頭を抱えるレベルだ。


だから、雰囲気が柔らかいから似合うと言われたときは困惑した。

致命的に似合わなかったあの服が、似合う…?


「だってお姉さま、いつもニコニコ穏やかな笑顔で楽しそうにしてるじゃないですか。」


私ははっとして思わず手を顔にやる。

前の世界の時も、確かにそう言われたのだ。

リシアと出会ってから顔が柔らかくなったと。

笑い方を知らなかった私に笑顔を教えてくれたのがリシアなら、今の世界でいつだって楽しく笑顔にさせてくれるのは□□だ。

君にはいつももらってばっかりだ。

そう心の中でひとりごちる。


◆ ◇ ◆ ◇


暑い。撮影はとにかく大変だった。

上から直接照りつける太陽。海から反射して同じく私を照りつける太陽。

どこにも逃げ場のない場所に加え、通気性を考慮していない衣装。

正直、辛い。


それでもひさしのあるウッドデッキにも入らず真剣な目でカメラを構えるリシアを見ていると暖かい気持ちにーー


「お姉さま、また可愛い顔になってます!」


可愛い?私が?

リシアがそう言ってくれることについまた表情が緩む。


「もう!真剣な顔をしてくださいって!」


緩む表情を押さえ込む。

撮影はとにかく大変だった。


◆ ◇ ◆ ◇


ない。

機会がない。

甘い雰囲気を出す機会がないのだ。


スーパーでは、恋人同士みたいと言おうとしてあわてて言葉を引っ込めた。

その後の一緒に暮らすのも良いという台詞にぐっと来たがここは心を落ち着かせる。

そういう雰囲気を求められてるシチュエーションでもないし。


いや、いくらでも機会はあったのだろう。

ただ、私に一歩を踏み出す勇気がないのだ。

私がまごついているうちに、あれよあれよといつの間にかリシアに背に日焼け止めを塗ってもらうことになっている。

私はドキドキと高鳴る心臓をどうにか抑えようとするが、どうしようもならない。

体に触れられたことがないわけではないが、こうして二人きりで静かにとなるとどうしても緊張する。


「あっ…」


リシアのその手で背中に触れられた瞬間、ゾクッとしたものが走り思わず声がでる。


「リシア…くすぐったい…」


私は慌ててあえてわざとらしくそう声に出す。

これで変な感じになられても困る。

冗談ぽく誤魔化しておく。

ひりひりと痛む背中は尊い犠牲だ。


◆ ◇ ◆ ◇


無心になって泳ぐ。

海で泳ぐなど何年ぶりだろうか。

大学生にもなるとプールの授業もない。しばらくぶりの水泳になる。

しかし、楽しいな水泳。定期的にリシアとプールに行くのも有りかもしれない。

そこまで思ったところでリシアの存在を思い出す。

海に入るとすっかり夢中になって泳いでしまっていたが、リシアは荷物を置いてきてくれているのだ。

慌てて浜を見ると、すぐにリシアが見つかる。

なんだか楽しそうにこちらを見ており、ぱちりと目が合う。


私は一目散にリシアに向かって泳ぐ。

露出が少ない水着だが、それでもあまり他の人に見せたくない。

さらに一人にして誰かにナンパなどされて欲しくない。

一緒に海に入って泳ぐのが一番だ。

そう思ってリシアを一直線に迎えに泳いだ。



◆ ◇ ◆ ◇


私はリシアが気を回して入れてくれていた湯に浸かりながら1日のことを振り返る。

リシアは本当によく気が回る。

夕食の時だって座っててくれれば良いのに自らやるべきことを探してやる。

そういうひたむきで一生懸命なところが好きなのだが、頼るべき所は頼って欲しいのだ。


「…お姉さまだって女の子じゃないですか。」


リシアの発言。

そうだ、女の子らしくない私を君はいつも女の子として見てくれている。

ローエンリンデ公爵家の跡継ぎだとか、皇太子の婚約者とか、モデルだとか、孤児だとか。

そう言ったレッテルは一切貼らず真っ直ぐ私だけを見て評価してくれる。

だから私も、いつだって努力出来る。


「頑張らないとなあ。」


私は口を浸け息を吐きお湯をぶくぶくさせながらそう己に言い聞かせる。

…そう言えば、次、リシアが入るんだよな。

私は慌ててぶくぶくをやめる。

リシアにお姉さまの入った湯、汚いとか思われたらどうしよう。

抜いて新しく入れ直したりしようか?

いやバレて何してるんだこいつって思われかねないな?

湯だけ見て汚いとか思われるはずもない。落ち着け私。

…でも、出る前にしっかり変なとこが無いかだけはチェックしておこう。


リシア「これ、お姉さまの入った湯だよね…何か良い香りする気がする…ちょっと飲ん…いやいや何考えてるんだ私!」

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