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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
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二人きりのトレーラーハウス その8

麗香視点です。

一泊二日の小旅行。

キャンプ場での事故による一夜を除けば、今回が初めての宿泊旅行となる。

私はこの旅行中にリシアに想いを伝えられればと思っていた。

一大決心だった。悩みに悩んでいた私の背を押したのは紫杏と龍斗だった。



◆ ◇ ◆ ◇


話は夏祭りの翌日まで遡る。

祭りの会場で龍斗と紫杏の気配を感じていた私は二人に前日のことについて話しに大学に向かった。

向こうも私が気がついていたことは察していたのだろう、にやにやと楽しそうに私を待ちかまえていた。

私は見ていたのなら話は早いと、これ以上仲良くなるにはどうしたら良いかと相談を持ちかけた。

以前に好意を持ってもらうしかない、とは言われたが、今のままだと、私たちの関係はこれ以上発展しない気がしているのだ。


「仲良くって…あれ以上ねえくらいの距離感だったじゃねえか、二人。」

「…そうか?」

「まぁ、友達なんて悠に越えた仲睦まじさではあったわね。」

「たとえば、どう言うところが?」


そこは非常に気になった。

私たちの距離感など他の友人間とさほど変わらないように思っていたが。


「俺らがかたぬきしてるお前らを見かけたときですら、二人どっちがやってる間片方のことを穴が空くほど見つめてたじゃねえか…。」

「…□□も?」

「二人って言ってんだろ。」


私だけでなくリシアも同じことをしていたのか。

私がリシアの方を見たときにはウサギの型をじっと見つめていたが。


「何回も麗ちゃんの顔を見つめては頭を振って違うとこをみようとして、最後にはひたすらかたぬきを見つめてたわね。」

「□□が…そんなことを…。」

「俺たちの気配や視線には敏感なくせに、隣の好きな人の視線には気づかねえのかよこのポンコツ…いだだだだだだ」

「麗ちゃん、その程度にしてあげて?」


龍斗の発言にイラッとして後ろに回り、腕をひねり上げているところを紫杏が止めに入る。

私は素直に手を離す。


「てめえ、麗香!何を…!」

「はい、龍ちゃんステイ。」


紫杏が龍斗の前に手をかざすと、不承不承と言った顔でその場に止まる。

龍斗もおとなしくなったものだ。

後で飲み物でも買ってやろう。


「でも、あそこまでべったりでこれ以上関係が発展しないということは、二人の認識に問題があるのかもね。」

「というと?」

「まずは麗ちゃん視点で、その…□□ちゃん?がどういう子か改めて教えてくれる?」


可愛いとか、所作が綺麗とか、そう言う見た目のことではなさそうと思った私は、リシアの性格について考えながら口に出す。


「まず、気遣いのしっかりした子だ。人の欲しいもの、して欲しいことを先回りして考えられる。」

「良い子ね。それから?」

「控えめだ。不満はため込むタイプだと思う。」

「なるほどね。」

「慣れてくると意外と生意気なことも言う。」

「何か少し見えてきた気がするわね。」

「後は…私の腹筋がたぶん好き?」

「それは関係ない。」


ぶったぎられてしまった。

一番大事かと思ったのだが。


「オタク気質。好きな物には一生懸命だ。」

「言ってたわね。」

「後は…ちょっと自己評価が低いか。『私なんか』『大したことない』『オーバーだ』そういう言葉を使いがちだな。」

「ああ、うん、二人が何故進展しないのか、解った気がする。」

「何だと!?教えてくれ、紫杏!」


納得したように頷く紫杏に、私はすがりつくように問う。

少しでも参考になるなら聞きたい。


「簡単に言えば、□□ちゃんにとって麗ちゃんは友人であり、推しなんでしょ。」

「推し?好きなキャラとかのだよな?」

「そうそう。麗ちゃんは大切な友達だけど、それ以上に推しである。」

「そうだとして、どうしてこれ以上進展しない理由になるんだ?」


仮にそうだとしても、ならば推しともっと仲良くなりたい、それ以上の関係に発展したいと思うのが普通なのでは?


「推しは推しだもの。例えばアニメキャラやアイドルと結婚したい~!って人ってそんなに多くないの。口では言ってもね。己の身の丈が解ってるから。」

「でも、手が届くなら伸ばしたいものでは?」

「んー、でも推しって手が届かないから尊い、みたいなとこもあるけどね。仮に届くとしても、ほら、□□ちゃん自己評価が低いんでしょ?」

「ああ、そうだな。」


大変素敵な人だ。もっと自分を評価して欲しい。

そんな想いで頷く。


「なら、麗ちゃんみたいな高嶺の花、私には関係ない世界の人間と深層心理で思っててもおかしくないんじゃない?」

「そう、なのかな…?」


そうだとすると少し悲しい。

私はリシアと対等な友人だと思っているから、なおさら。


「あくまで心の底、気づいてないとこでね?麗ちゃん、心当たりはない?『顔が良い』とか、『ヤバい無理』とかそういう褒め言葉を言われたりとか。」

「…かなりあるな。」

「そういうのって結構推しへの常套句で、他人ごとみたいなところあるから。やっぱり□□ちゃんにとって麗ちゃんは推し化しちゃってるのかもね。」

「だとして、私はどうしたらいい?」


どうすればリシアとこれ以上の関係になれるのか。

私はそれが知りたい。


「おうおう、天下の麗香サマが恋の病でついに頭までいかれちまったか?」

「なんだと?」


そこまで黙っていた龍斗が唐突に口を開く。

とりあえず手を出すのは聞いてからにしてやろう。


「んなもんド単純じゃねえか。お前がそれ以上の関係になりたいってはっきり口に出す。それだけだろ?」


龍斗はわかりきったものを語るように言う。

紫杏も深く頷く。


「結局のとこ、そうなのよ。向こうが手が届かない、手に入れてはいけないと思いこんでるなら、こっちからアピールしてあげるしかないの。ただ仲良く毎日を過ごして、『あ、この人私を恋愛対象として好きなのかな?』なんて気づけないんだから。こっちからアピールしてあげるしかない。」

「ましてや同性だぜ?そもそも恋愛対象としてカウントしづらい存在だ。頭ん中で自然とその可能性を排除しちまう。だから、自分から口に出すしかねえんだよ。」

「なるほど…。」


二人が揃って言うならそうなのだろう。

確かに、向こうの世界のリシアもあんなに好きだったのに、わかりやすくアピールされ、口に出してそう言われるまで自分の気持ちになかなか気づけなかった。


「これからもっともっと進展していきたいなら、麗ちゃんから口に出して好きだって言ってあげなさい。一度や二度じゃ足りないかもだから、たくさん。好きなところを褒めてあげるのも忘れずにね。」

「…仮に、そうして口に出して拒絶されたら、どうすればいい?」


心の不安を口に出す。

フられたらどうしよう。

シンプルだが、これ以上にない不安。

だが、龍斗はそれを聞いて鼻で笑う。


「そもそも、あんなベッタベタにくっついて、見つめ合って。それでフられんなら何やってもフられんだろ。諦めろ。」


そんな無体な。私は助けを求めるように紫杏を見る。


「残念ながら、私もそう思う。」


龍斗と紫杏だ。人の恋愛だからと適当なことを言うなんてことはないだろうが。


「…怖いな。」


◆ ◇ ◆ ◇


そんなやりとりがあって。

私は今回の小旅行が良い機会だと、リシアに好きと告白することを決意した。


好きなところはしっかり口に出して褒める。

…好きだと伝える。

そして何より、二人の時間を楽しむ!

うん、準備オッケーだ。

それでは、リシアを迎えに行こうか。




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