二人きりのトレーラーハウス その6
夜空をバックにレベッカが振り返る。
彼女ほど強い女性は居ないにも関わらず、その様子はどこか儚げでそのまま夜空に吸い込まれてゆきそうだ。
だが、それすらレベッカらしいと思えてしまう。
そう思わせるだけの何かが彼女にはあった。
この一瞬をずっと閉じこめておきたい。
その祈りを籠めて私はシャッターのボタンを押した。
◆ ◇ ◆ ◇
「どうだ、リシア。」
「いい感じに撮れましたよ。これとかどうですか?」
私は先ほど撮った中でも最高の一枚と言える写真をお姉さまに見せる。
「お、これは素晴らしいな!」
「被写体と場所が良かったですね。」
「リシアの腕も間違いなく上がってるぞ?」
「それはカメラのお陰ですね。」
「そんなことはないと思うがな?」
お姉さまと出会ってから、カメラもちょっとしたデジカメに買い換えたのだ。
説明書も必死に読み込んである程度の機能も使いこなせるようになったので、腕が上がったように見えるとしたらそのお陰だろう。
「もう撮影は良いのか?」
「ええ、これでもう大丈夫かと。」
さすがに夜は海沿いということも有り、風も強く涼しい。
だが、それは陸地に比べてというだけだ。
真夏ということもあってやはり気温はある程度あるし、湿度も高い。
昼に着ていたのもあり、すでに衣装は着ているのも気持ち悪いくらいの汗だろう。
「お風呂、沸かしてありますので良ければお先にどうぞ。」
「ありがたい。リシアは良く気が利くものだ。」
「ちょっと先を読んで行動しただけですよ。」
「そう言うところが素敵なんだよ。」
お姉さまはふりふり手を振ると先にトレーラーハウスへ入ってゆく。
私はあえて少しウッドデッキでくつろいでから入る。
変に緊張するのがわかりきっているからだ。
シャワーの音が聞こえる。予想通りもうお風呂に入っているようだ。
まぁ、素敵って褒めて貰ったしな。
私はキッチンに立つと、ビールが冷えてあるのを確認する。
グラスも冷やしとくか。美味しいらしいし。
その後で、買っておいたつまみを皿に出しておく。
干しイカは少し火を入れておいてあげよう。
私なら醤油マヨに一味でも掛けて食べるな。
それも用意しておくか。
そうして夢中になっていると、時はすぐに過ぎ去って。
お姉さまが風呂場から出てくる音がする。
「いい湯だった。」
「それは良かったです。」
私は振り向いて返事するとまたキッチンに向き直る。
へそ出しタンクトップにショートパンツ。別に風呂上がりにおかしい格好ではないが、へそが出ているのが問題だ。
セクシーな引き締まった腹筋は覚悟なしに目に入れて良いものではない。
「リシア?」
「ビール、冷やしておきましたよ。おつまみもそこに出してあるので。」
私は覚悟を決めて、なるべく下を見ないようにして振り向く。
「なんと。最高だな。」
お姉さまはふんふん鼻歌を唄いながら冷蔵庫を開け、冷えたビールとグラスを取り出す。
「私は他の酒は嗜む程度だが、ビールだけは別格だ。こいつは大発明だな。」
「そう言うもんですか?」
「リシアも飲むようになったらわかるかもしれない…が、酒癖が悪そうなんだよな…。」
「暗に性格が悪いって言ってます?」
「いや、シンプルな推測だ。気を悪くしたらすまない。」
「まぁ、今更ですし。で、早速飲まれますか?」
「そうしよう。」
「では、おつまみをテーブルに持って行くので待っててください。」
「んー、それも良いが…せっかくなら外で飲もう!」
「外、ですか?」
お姉さまはビールとグラスとおつまみを一皿持って外へ出て行く。
私はその後ろを両手に皿を持ち追いかける。
「あれ、ウッドデッキじゃないんですか?」
「ふふ、こういうのはな。」
お姉さまはドヤ顔で海際ギリギリまで歩いてゆく。
「こうして!」
ビールとグラスを地べたにどーんと置く。
「こうして!」
続いてつまみの皿を。
「こうだ!」
最後にお姉さまが汚れるのも厭わずでーんと座る。
どうやら海を見ながら地べたで飲むようだ。
お姉さまはじっとこちらを見る。
どうやら私にも座れと催促しているようだ。
まぁ私も汚れて良い格好だ。
続いて座り込む。
「おっと、リシアの飲み物を忘れていた。何が良い?取ってこよう。」
「あ、自分で…」
「いいいい。私がいく。何が飲みたい?」
「えっと、じゃあウーロン茶を。」
お姉さまは即座に立ち上がり、トレーラーハウスへと走ってゆく。
そんなに急ぐ必要はないのに。
お姉さまはすぐにまた出てくると、こちらに走ってきて嬉しそうにウーロン茶を見せる。
「じゃあ、晩酌と行こうか。」
その喜びの混じった弾んだ声に、思わず私は笑っていた。




