表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
210/321

二人きりのトレーラーハウス その5

海水浴場はさすがの人出で、夏の魔力と言うものを感じられる。

どうして人は海に引き寄せられるのか。

暑いからか、暑いからだろうなぁ。

私は早く行きたそうにうずうずしているお姉さまから上着と荷物を預かり、預かり所に預け合流しに向かう。

本来はこの人の多さだ、そう簡単に合流出来ないはずなのだが…


「あれ、だよなぁ…。」


沖よりに猛スピードで泳いでいる物体がいる。

サメでなければお姉さまだろう。

何となく解ってしまう。

さすがにアレに着いていける気はしない。

しばらくしたら戻ってくるだろうとお姉さまが見える位置に借りてきたシートとパラソルを置き、観察する。

なんだか、保護者みたいだな。

私は一人で笑ってしまう。

周囲から見たら怪しい人だろう。


しばらくそうしてニヤニヤと(自分で言うのもなんだが)お姉さまを見つめていると、パチリと目が合う。

お姉さまはそのままこちらに向けて人を4、5人跳ね飛ばしそうな勢いで泳いでくると浜にあがる。

髪をかき上げ、飛沫が青空に舞う。

その飛沫は太陽の光できらきらと輝き、お姉さまを照らす。


綺麗だ。


思わず見蕩れてしまう。

佇む麗香さんは気品とオーラがあって、どこか遠い国のお嬢様ではないかとまで思わせる。

麗香さんは私が見蕩れているうちにもこちらに歩み寄り、私の目を見つめ微笑む。


「すまない、待たせたか?」

「い、いえ、何も待ってませんよ?麗香さん。」


私がそう答えると、麗香さんは耳元に口を寄せ、囁く。


「お姉さまって呼んで?」

「は、はい。お姉さま。」


甘くねだるような口振りに思わず頭の先からとろんと痺れるような感覚になる。

座っていなければ腰砕けになっていたかもしれない。

そのままお姉さまは私の横に座る。


「しかし、てっきり私を待っていたのかと思ったのだが。」

「どうしてです?」

「リシアがじっと私を見つめるものだから。」

「あー、確かに見てましたけど…。」

「海に来たのに泳がず私をじっと熱心に見ると言うことは…」

「いや、そんな。」

「泳げないのかと思ってな。」

「は?」


何を言っているんだこの人は。

一気に頭が冷える。

どうしてそんな結論になるのか。


「普通に泳げますけど…。」

「そうなのか?泳ぎを教えてと見つめてるのかと思ったのだが。」

「違います!どんくさそうだからって偏見で見ないでください!!」

「でもの割に川では溺れていたような…。」

「なっ…。」


私は頭を抱える。

やっぱりこの人はダメだ。

静かにしていれば素敵な人なのに、中身が残念すぎる。

喋らせたらいけないタイプの人間だ。


「はぁ。お姉さまはもう今日一日口を開かないでください。」

「えっ、あっ、おい!リシア!?」


私はお姉さまを無視して立ち上がり、海へと向かった。


◆ ◇ ◆ ◇


「はー、疲れましたね。」

「あれだけ泳げるなら川や海ではどうして…」

「それ以上言ったらその口、縫い合わせますからね?」


まだ言うか。そもそも海で溺れたことはないし。


「そんなことよりご飯ですよご飯!早く引換券出してくださいってば!」

「はは、噛みつきそうな勢いだな?」

「本当に噛みますよ?」

「わかったわかった。貰ってくるからリシアはそこに座って待っていろ?」


私は宿泊者用の焼き台とその横に備え付けられた椅子とテーブルを一瞥する。

あれ、炭がない。

辺りを見回すと片隅に炭がうずたかく積まれてるのを見つける。

ああ、あれを自由に使って良いのか。

手持ち無沙汰な私はお姉さまを待つ間に炭を用意しようと歩み寄る。

どの位使うのか解らず、とりあえず軍手をつけて箱いっぱいに炭をかき集めてテーブルへ持ってゆく。

んしょ、結構重たいな。

私は気合いを入れて持ち上げようとしてバランスを崩しかける。

そこに脇からにゅと手が生えると、私の体を支える。


「大丈夫か?」

「ありがとうございます。お姉さま。」

「これは女の子にはちょっと重たいだろ?私に任せとけ。」

「…お姉さまだって女の子じゃないですか。」


そうだ。お姉さまは女の子だ。

とても素敵な女の子だと私は知っている。

お姉さまが自分は女の子ではないみたいな口振りをする悔しさが少し。

それからそんなお姉さまが格好良く見えた照れ隠しが少し。

そんな気持ちでいつもの様にお姉さまに反論する。

そしてお姉さまもいつもの様に笑って言い返すのだ。


「なら後で腕相撲でもしてみるか?」

「腕が骨も残らなさそうなのでやめときます。」

「はは、リシアの小さな体では一回転するくらいはあるかもな。」


そうだ。わかっているのだ。

そうあっけらかんと笑うお姉さまはかっこいい。

でも、助けられるだけじゃなくてたまには私だってお姉さまを助けたいのだ。

浜に上がるお姉さまを見たとき、なぜだか遠い人に思えてしまった。

それはイヤだ。私はお姉さまの横を歩きたい。

お姉さまが困ったときに助けられるような人になって。

だって私はあなたが--


そこまで考えて思考が止まる。

私はお姉さまをどう思っているのだろう。

そこを深く考えようとして。


「リシア?もう火が点くからな?噛みつかないでくれよ?」

「なら早くしてください。」


私は目の前の人に向き直った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ