二人きりのトレーラーハウス その2
「「海だーーー!」」
私たちは海に向かってジャンプしながら叫ぶ。
息ぴったりだ。
「上手くいったな?」
「いきましたね?」
麗香さん…お姉さまと顔を見合わせ笑いあう。
来る途中のバイクの上で、お姉さまが気分を上げる為に海が見えたら走ってジャンプして叫ぼうといたずらぽく提案されたのだ。
最初は乗り気で無かった私だが、トレーラーハウスに近づくと南の島の様な様相になっていくのを見て、リゾート気分で楽しまないと損だと思った。
「人がそんなに多くないな?」
「穴場ですねえ。」
駐輪場からここまで歩いてきたが、夏の海水浴場の様にたくさんの人出があるわけではない。
むしろ何人かのグループに数度すれ違った程度で、閑静な場所だ。
私たちは一際大きい受付施設に入ると、自分たちのトレーラーハウスに印のついた施設マップと鍵を受け取り、トレーラーハウスを目指す。
「見た感じ、海沿いみたいだな?」
「かなり近いので、少し撮って休憩とか出来そうですね!」
ヤシの木が生えた芝生の砂利道を肩を並べて歩く。
明るい気分になれるが…暑い。
「しかし、麗香さんの言うとおりですねぇ。」
「この中で休憩するところもなく長時間撮影は地獄だろ?」
特に海辺は陰が少なく、海面から照りつける分なおのこと暑い。
こうやって歩いてるだけでも溶けそうだ。
「おぉ…あれか…。」
「中々すごいですね…。」
明るいブルーの壁のトレーラーハウス。
海に向かってウッドデッキが張り出しており、しっかりとルーフもある。
ウッドデッキには椅子とテーブルがしっかりと設置されており、作った料理を並べて海を見ながら食べれそうだ。
鍵を開けると、中に入る。
「思ってたより広い?」
「ちょっと縦は手狭な気もするがな。」
シングルサイズのベッドを二つ並べてちょうどくらいの縦幅に、15mほどある横幅。
端から端までは真っ直ぐ繋がっており、途中にキッチンであったりお風呂であったりがある感じだ。
中は小綺麗ながら生活感があり、ホテルと言うよりはゲストハウスといった雰囲気だ。
私たちは思い思いの場所に荷物を置くと、一息つく。
「料理、ここのキッチンだとちょっと狭いですね?」
「鍵を貰ったとき、別に調理場があると言ってたぞ?食材もそこで用意されてるらしい。」
「良かったです。お姉さまと並んで料理出来ないですもんね、これだと。」
「…リシアは本当にしっかり私のツボを抑えてくるよな…」
「どういうことです?」
「いや、何でもない。」
お姉さまは首をすくめると、ベッドに行き横になる。
相変わらず変な人だ。
そうだ、クーラーボックスの飲み物を冷蔵庫に移しておこう。
「リシアー?なんだ、もう何か作業してるのか?働き者だな。」
「大したことじゃないですよ。どうしました?」
私はクーラーボックスをのぞき込んだまま返事をする。
今更毎度目を合わせて会話するという様な仲でもない。
「衣装を出しておいてくれないか?着替えておこうと思ってな。」
「あっ、わかりました!」
私は慌てて荷物から衣装を出すと、ベッドでぐでっとなっているお姉さまの元に持って行く。
「ありがとう。さて、着替えるか…。」
「わ、私外に出といた方がいいですかね?」
「ははっ、何も気にすることはないだろう?」
「で…すよねぇ。わかりました。」
私は気にしないことにして、そのままクーラーボックスの中身を冷蔵庫に移し替える作業に戻る。
後ろからしゅるしゅると衣擦れの音がしてくる。
今までだってスーパー銭湯なりで着替えは一応見てきているのにいやに緊張している私がいた。




