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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部三章 恋とは
199/321

名札

「ほら、お姉さま!始まりますよ!」

「ああ、もう少し待ってくれ。後ポップコーンとナチョスとホットドッグを…」

「どれだけ食べるつもりですか?ポップコーンだけにしてくださいね。」


今日は二人ショッピングモールに映画を見に来た。

私の好きなアニメの劇場版が上映されると聞いて見に来たのだが、何故か麗香さんもついてきた。


「楽しみだな。何て映画だ?」

「お姉さま、そこからですか?この映画は大人気マンガの○○編をアニメ化したもので――声優の××さんが――作画が――」

「ふんふん、なるほど。」

「ともかく、見ていただいたらきっとお姉さまも気に入ってくれると思うんです!行きましょう!」


長話をしているうちにすっかり上映五分前だ。

私は麗香さんの手を引きシアターへ入っていった。


◆ ◇ ◆ ◇


「うぅ…とでも…よがっだ…ですぅ…」

「ああ、良かったな。」


私は席で先ほどまでの余韻に浸っている。

王道の愛と冒険の感動ストーリーで、主人公の勇気にしびれさせられ、ヒロインの愛にじーんとして…

とにかく言い様がないくらい素晴らしかったのだ。

そのシーンの一つ一つを思い出す度涙が止まらない。

麗香さんもどん引きで背中を撫でてくれている。


「そろそろ出なきゃいけないみたいだ。立てるか?」

「はぃ…。」

「足元が暗い。気をつけて。」


私は麗香さんに手を引かれとぼとぼとシアターを後にする。

歩いているうちに少し落ち着いてきた。

そのままお手洗いにゆき、メイクを直して待っていた麗香さんに声をかける。


「ごめんなさい、お手数かけました。」

「いやいや、気にするな。映画、楽しかったな!主人公の必殺技が良かった。剣を振って、どどど…きゅいーん!って。真似してみたいものだ。」

「剣からビームは出ませんよお姉さま。でも真似してみたいのはわかります。」

「うーん…剣からビーム…出せないものか…。」

「ふふ、おもちゃ売場にその剣なら売ってますよ。ビームの音も出ます。」

「いいな!買って帰ろう!」

「今度、主人公のコスプレもしてみます?」


私たちはその足でおもちゃ売場に向かうと、麗香さんは迷うことなく剣を購入する。

目をきらきらさせて、小学生みたいだ。


「帰ったら振ろう…ビームだそう…!」

「良かったですね、まだあって。」


目的のものを得た私たちはそのままショッピングモールをぶらつき始める。


「どうする?ランチにでもするか?」

「んー…ちょっと早いですよね…。」


特にやることもなく、ただ歩く。

こんな時間が不快じゃないのは良いところだけど、いつまでもそういう訳には行かない。

キョロキョロと見たいものを探していると、あるものが目に入る。


「シルバーアクセサリー作成体験ってありますよ。」

「本当だ。興味あるのか?」

「そうなんです。勉強してゆくゆくはキャラモチーフとか作ってみたいなって。」

「それはいい。やってみよう!」


こういうとき、一人だとなかなか勇気が出ないのだが、麗香さんなら必ず笑顔で手を引いてくれる。

それが色んな体験につながって、本当にありがたい。


◆ ◇ ◆ ◇


「銀って、粘土になるんですね?」

「焼き上げると銀以外が分離するのだと言ってたな。」


私たちはまさしく粘土色をしたその土塊を思い思いにこねこねする。

型に張り付かないように油を塗り、その型にあわせて形を作っていく。


「麗香さんはどこにしますか?私はピンキーリングにしようかなと。」

「私もそうしようかな?」


私たちはそれぞれ少しずつ半径の違う円の穴が開けられた紙に指を入れ、サイズを確かめた後、その穴と同じ半径の棒を取る。

その棒に紙を噛ませながら先ほど型をとった粘土を巻き付けていく。

ほとんど粘土遊びみたいなものだ。

ドライヤーを当て、乾燥させた後、彫刻刀でデザインを入れる。

その後棒から外し、ヤスリをかけて表面をツルッとさせてゆく。


「リシアはどんなデザインにしたんだ?」

「見ます?」

「アルファベットのi…どういう意味だ?」

「そりゃ、名前からですよ。」

「…なるほど。私も麗香のRを入れているんだ。ほら。」


お互い考えることは同じだったようだ。

少しほかのデザインは違えど、真ん中にどーんと文字が掘ってある。

最初だし、そんなものか。


形を整えると、今度はスタッフさんが焼成をやってくれる。

私たちはそれを見させて貰う。


「固形燃料なんですね。」

「焼き時間を考えると固形燃料の燃焼時間がちょうどいいんじゃないか?」

「すごい、お姉さま!当たりみたいですよ!」


普段は中身は小学生の麗香さんも、こういう洞察力を見せるときはさすがだ。

ギャップ萌えというんだろうか。

素敵だなと思う。


そして固形燃料の火が消え、その場に白いリングが残される。

まだかなり熱いらしく、30分程度冷めるのを待つらしい。

待ち時間のあいだ、ほかの作品などを見せてもらう。


「これ、さっきの主人公ぽくないですか?」

「そういうならこれは師匠ぽくないか?」 

「はーなるほど。さすがですね?」


先ほどの映画の熱がまだ残っている私たちも、熱が冷めるまで映画になぞらえた話をする、なーんて。


「なぁ、提案があるんだが。」

「なんでしょう?」

「出来上がったリング、交換しないか?」

「え、でもサイズちょっとずつ違いますよね?」

「チェーンを通せばネックレスとか紐をつけたらストラップにもなる。体験に無料でついてくるらしいから、どうだ?」

「別に良いですけど…。」

「良かった。お互い作った物を交換するの、親友ぽくていいなって。」


麗香さんはほっと胸をなで下ろす。

親友ぽいか。確かに。

そう言われると私もなんだか乗り気になる。


「お姉さまはどっちにするんですか?」

「私か?私はネックレスにしようかな。」

「でしたら私もそうしましょうか。同じ方がぽい、でしょう?」


私がそう言って笑いかけると、麗香さんも嬉しそうに笑う。

そして冷えて固まった白いリングをスタッフさんから貰うと、それを磨いてゆく。


「見てください、お姉さま。白いところを擦ったら下から銀の地が。」 

「ほほう、こうなってるのか。面白いな…。」


すっかり白が銀になったのを見て二人とも興奮する。

どうして粘土と銀が分離するんだろ?不思議だ。


「原理、わかります?」

「私もわからないな…。」

「さすがのお姉さまでもわからないことはあるんですね?」

「わからないことばかりだぞ?」


そんなことを言っているうちに完成する。

これが私の作ったリングか。思いのほかしっかりしてるな?


「では、これをお姉さまに。」

「ありがとう。つけてくれるか?」


お姉さまはすっと首元を開けて寄せてくる。

私はそのなまめかしい様子に少しドキッとしながらも、リングにチェーンをつけるとその白く長細い首につけてやる。


「ふふ、私もつけてやろう。」

「はい。」


今度は私の首に麗香さんがチェーンをつけてくれる。

今、汗っぽくないだろうか。不安だ。


「よし、いいぞ。ふふ、殊の外嬉しいものだな?」

「そうですか?」

「名前の入ったリングをネックレスにするとか、□□の名札をつけられたみたいだな?」

「はい!?」

「そして、□□には麗香の名前の名札。どうだ?着けられた気分は?」

「今すぐ外します。」

「ダメだ。いつも着けてくれ?私も□□の名札、ずっと着けておくから。」


そう告げる麗香さんの微笑みに少しゾクッとする。

ただ、嫌な気持ちではなかった。


◆ ◇ ◆ ◇


その後、麗香さんはそのネックレスをSNSに上げていた。

匂わせのようでやめて欲しかったのだが…。

本人が嬉しそうにしているから、何も言えない。


じっとカフェのメニューを見つめている麗香さんの方を見る。

メニュー、私も見たいんだけどな。

そんなことを思っていると、ふと目が合う。

麗香さんは首元のネックレスを軽く指で指すと、ニコッと笑う。

そのハシャぎ様は先ほどの剣以上で、なんだか温かい気持ちになっている自分が居た。




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