目覚めて
麗香視点です。
「おはよう。□□。」
「あれ?麗香さん?えーっと…。」
「寝る前のことは思い出せるか?」
起きあがろうとする□□の体をそっと支え起こしてやる。
□□は少し考えるそぶりをした後、ぽつりと口を開く。
「…もしかして、私麗香さんにそこそこ失礼なことしました?」
「そんなことはないと思うがな?」
□□の発言に思わずくすりとなる。
あの程度を失礼と言えるあたりが可愛らしい。
「あの、ごめんなさい。そしてありがとうございます。ここまでしてもらって。」
「いいんだ。私がやりたかっただけだから。それより、熱はどうかな?」
□□のおでこに手を当てると、少し気恥ずかしそうにしながらも大人しく熱を測られている。
「うん、一旦熱は引いたみたいだな。とはいえ、まだぶり返す可能性はある。今日は大人しくしてるんだぞ?」
「はい。」
□□は神妙に頷く。
その様子がまたまた可愛らしい。
困ったものだ。
「しかし、風邪とはどうした?体でも冷やしたか?」
「あー…ちょっと昨日の雨に降られちゃって…。」
□□は少し気まずそうに目を反らす。
この様子は、何かあったな?
先ほど寝る前に言ってた事に関わりがあるかもしれない。
「□□は、私に何か言いたいことがあるんじゃないか?」
「いや、そんなことは…」
否定しようとする□□の目をじっと見つめる。
最初は言わないとばかりに黙りこくっていた□□だが、私の視線に居心地悪そうにしばらく座っていた後、観念したように口を開く。
「昨日お昼、実は□□さんの大学に行ったんです…。」
「そうなのか!?」
「そこで、その。お友達と楽しくされてる麗香さんを食堂で見て。私、嫉妬してたんだと思います。」
「昨日の食堂といえば…」
龍斗と紫杏と恋愛相談をしていたはずだ。
確かに仲の良い友人と居たと言って差し支えないだろう。
「あの、私お恥ずかしながら、今まで麗香さん以外にまともに友人が居なくて…だから、勝手に麗香さんもそうだと思いこんでた節があって…」
「なるほど。」
「麗香さんが通知が来てるはずのスマホを見て、返信せずにお友達と話し続けたのがちょっと悲しかったんです。おかしいですよね。麗香さんの一番の友だちになったつもりで…。」
「スマホ?ああ…。」
恐らく龍斗と紫杏に□□の写真を見せようとしたときだろう。
あの時、そもそもスマホの電池がなかった。
スルーしたわけではない。
「あれは、スマホを見ようとしたら充電を忘れててつかなくて…□□のメッセージをスルーしたわけじゃないんだ。」
「解ってます。メッセージでもそう言ってましたもんね。でもそれで、私ちょっと拗ねちゃって…雨の中傘もささず返って…勝手に一番の友人と勘違いして、それで勝手に拗ねて…馬鹿みたいですよね。」
□□は少ししょんぼりとして布団の端をよじよじする。
自分が悪いと思っているのだろう、小さくなったその姿には哀愁さえ漂う。
その様子に私のハートは完全に落とされる。
思わず私は□□のその体を抱きしめる。
「かっわいいなぁ□□は!どうしてそんなに可愛いんだ?」
「きゃ!?あの、麗香さん!?…私今ちょっとたぶん汗くさい…」
「可愛い、本当に可愛い!ちょっと頭撫でても良いか?」
「えっと、あの、ダメです。」
「そうかそうか!じゃあ撫でちゃおう!」
「ちょっと、麗香さん!!」
□□の意向をスルーして、思いっきり頭をヨシヨシしてやる。
なんだかんだ□□はされるがままになっている。
ひとしきり□□を愛でた私は、□□を解放してやる。
「□□は可愛いな。なぁ?」
「どうしてこうなったのか、全然わからないんですけど…。」
「そりゃ、□□がとっても可愛らしいこと言うからじゃないか?」
「いや、ちょっと訳解んないですね…。」
「そうか?じゃあもう一撫でしても?」
「ダメです。」
□□がふしゃーと毛を逆立てた猫のようになる。
さすがにこれ以上撫でると怒られそうなので、私は手を引っ込める。
「なるほどな。事情はわかったよ。それでいじけてた可愛らしい□□ちゃんは雨に濡れて帰り、こうやって風邪をひいたわけだ。」
「言い方がなんか腹立ちますが、そうですね。」
「だがな、□□。その話にはちょっと勘違いがある。」
「私が麗香さんの一番の友人ってところですか?」
「違う。そんなわけ無いだろう。…そうだな、少し私の身の上話からしようか。」
龍斗と紫杏の話からするには、少し昔話をした方がいい。
そうして私はぽつりぽつりと昔のことを語り始めた。




