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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部二章 友達
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汗と距離 その5

「では最後のお茶といこうか。」

「これは麦茶みたいな色をしてますね。」


三本目の水筒から出てきたお茶をまじまじと観察する。


「匂いは…あまりないですね。」

「そうだな。飲みやすいと思う。」


口をつける。

麦茶ではない。どちらかというと薄味で不思議な味だ。

緑茶に近い気もする。


「これは何ですか?」

「ドクダミ茶だ。」

「あのデトックスに効くという…。」


以前に聞いたことがある。

とは言えあまり美味しいものではなかったはずだが。


「なんかよくわからんがたくさん混ざっているらしい。」

「ぷっ…なんですかそれ。」

「市販の奴だからな、配合されてる理由はよくわからん。」

「なるほど。通りで整った味だなと。」

「効果も折り紙付きだ。これを飲み始めてからニキビがみるみる減った。」

「それは…魅力的ですね。」


やはりニキビはお肌の大敵だ。

私も何度も悩まされた。


「岩盤浴で汗を流しても排出されなかった毒素をデトックスする目的で飲んでいる。もっとも、これは普段から愛飲しているのだが。」

「面白いですね。しっかり考えられていて。」

「だろ?□□はたぶん気に入ってくれると思ったんだ。」


確かにそのときにあったお茶をセレクトして出すというのはオタク心がくすぐられる。


「特にドクダミ茶は個人的に思い入れが深くてな。最初に飲んだものは個人のブレンドだったからここまで洗練された味ではなかったが。」

「そうなんですね。確かにこれはふつうに美味しいです。」


私がカップに注がれた分を飲み干すと、にこにことお代わりを注いでくれる。


「おっと、あまり飲み過ぎるのも良くないらしい。注ぐのはここまでにしておこう。」

「わかりました。」


心得たと一つ頷く。


「しかし、岩盤浴がこれほどに面白いものだと思ってもみませんでした。休憩所も一つ一つリクライニングですし。」

「そうだろ?このままマンガでも読みながら横になるのも乙なものだぞ?」

「マンガ?マンガがあるんですか?」

「気付いてなかったんだな。岩盤浴の中にも持ち込めたりするぞ?」

「本当ですか!?」

「飲み終わったら見に行って見ようか。」


そうして飲み終えて片づけを済ませた私たちは、麗香さんの案内でマンガコーナーへと向かった。


◆ ◇ ◆ ◇


「想像以上の量ですね…。」

「ここは確かに多いな。余所でも見ないくらいだ。」


まるで図書館のようなたくさんの本棚に隅々までみっしりとマンガが詰まっている。

色々目移りしそうだ。


「何か借りて休憩所で読むか?」

「良いんですか!?」

「ダメなことがあるか?」

「いや、人と過ごしてるときにマンガを読むのってどうなのかあって。」


友達と居るときは友達に集中すべきなのではないか。

まだいまいちそこらへんの感覚が解っていないのだが。


「良いんじゃないか?別に。さすがにマンガを全巻読破するまでお話しません!とか言われたら私も拗ねるかもしれないが。」


麗香さんが愉快そうに私の頬をつんつんする。

思いっきり顔を動かして指にぶつかってやると突き指したのか微妙な顔で指を気にする。 


「じゃあ、あの…まだ新刊を読んでない作品があるのでそれだけ…。」

「ふふ、良いんじゃないか?」

「麗香さんは何か読まないんですか?」

「私は□□の表情を見て楽しむよ。」

「麗香さん。」

「なんだ?」

「気持ち悪いです。」

「その悪態の方がどうかと思うぞ?」

「んーまぁ事実なので。」


結局、二冊ほどを手に取る。

麗香さんはなにやら雑誌を持って行くようだ。

そうして私たちはまた休憩所へ戻る。

入り口に入ってすぐ、休憩所二階へ向かう階段下に縦は膝上くらい、横は人1.5人分くらいの穴があるのに気がつく。


「あれ、なんですか?」

「ああ、ちょうど良いな。空いてるしここを使うか。」


そう言うと麗香さんはその穴に頭を突っ込んでするすると中に入っていく。

中からくぐもった声が聞こえてくる。


「こういう風に寝ころべる疑似カプセルみたいになってるんだよ。」

「なるほど。個室みたいな感じでくつろげますね。」


私は穴から生えた麗香さんの足に向かって返事をする。

左右を見渡すと、確かにちらほら足が生えている。

向こうには一つの穴から足が二組。

どうやら、この穴は二人まで利用可能らしい。

ならば私もほかのグループにも使えるように一つの穴を使った方がいいのかな。

そう思い麗香さんに続いて穴に頭を突っ込んで行く。


「麗香さん、もうちょっと詰めてくださいよ。」

「□□!?」


中は確かに明かりが採られており、ちょっとした寝所のようだ。

二人だと少し狭いような気もするが、だいたい麗香さんが幅を取りすぎなのだ。


「…呆気にとられたような顔をしてどうしました?」

「い、いや、なんでもないぞ。」

「なら良いんですけど。」


だが、さすがに向かい合っては顔が近い。

少し緊張してしまう。

そう思い麗香さんに背を向けるように寝返りを打つ。


「こうすれば良いんですかね。」

「そ、そうかもしれないな。」


しかし、こうしていると滝で流された時のことを思い出す。

あの日、麗香さんに後ろから抱きしめられながら寝たときは、それはそれは安眠出来たな。


「麗香さん、もしよければ手を回していただけますか?」

「ん、こうか?」


麗香さんが後ろから私のわき腹に手を通すように置く。

やっぱりだ。不思議と安心できる。


「なんでだろう、あの時もですけど、こうして麗香さんと横になるととても安心した気持ちになるんですよね。」

「私もだよ。昔から永くこうしていたみたいだ。」

「わかります。落ち着くって言うか。」

「□□が同じ気持ちというなら私もとても嬉しい。」

「ふふ、オーバーですね。」


私はそのままの状態でマンガを開き読み始める。

少し読み進め、熱中してきた頃、麗香さんが足を私の足に絡めてくる。

少し驚いたが、イヤではない。

むしろここにあるべきだったような気までしてくる。

そうして、だんだん体全体が麗香さんに包まれて行くようになったころ、私は気持ち良く眠りについていた。





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