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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
10万pv記念 二部二章 友達
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汗と距離 その2

私は麗香さんに手を引かれ誘われる。

たくさんの部屋があってよくわからない。


「ここのどれが岩盤浴なんですか?」

「はは、全部だよ全部。」

「全部!?」

「ああ。尤も、畳の上だったり“岩盤”浴でなかったりするんだがな。」


あっちの廊下の横にはくぼみがあって、畳二枚ほどのベニヤ板のスペースが何個もある。


「アレもですか?」

「ああ、アレは床暖房の上に座ってゆっくり暖まる奴だな。試してみたが私には物足りない。」

「岩盤浴じゃなくてベニヤ浴じゃないですか。」

「まぁ、暖かい床に寝ころんで汗をかくってのを総称して岩盤浴って呼んでいるんだな。」

「あー、五目チャーハンの具材が五つとは限らない、多ければ全部五目、みたいな。」

「…あははははは、そうだな!」


麗香さんが腹を抱えて笑う。そこまで面白いことを言っただろうか。


「まぁ、そんな感じで岩盤だけじゃなくていろいろあったりするわけだ。」

「そうなるとどこから行くか迷いますね。」

「そうだな。だからまずは私のお気に入りから紹介しようと思ってな。あ、そうだ。炭酸は飲めたか?」

「ええ、飲めますよ。」

「ではこれをプレゼントしよう。そこに入れておくといい。」


そう言うと無糖の炭酸水を私に渡す。

そして麗香さんが指さすのは縦型の透明な冷蔵庫。

よく小さな小売店にある売り物の飲み物が入っている奴だ。

どうしてこんなところに?そんなことを思いながら中に入れておく。


「よし行こうか、すぐそこの部屋だ。」

「あっ、はい。」


手を引かれ入った部屋。

足を踏み入れた瞬間高温多湿の空気が私を包む。

その空気はどこか室内の木の香りに混じって漢方薬の様な香りがして。


「ここは…?」

「あれが見えるか?」


天井間近を見ると麻袋のようなモノがたくさんぶら下がっている。


「あの中には何が?」

「生姜や桂皮、甘草や陳皮といった生薬が詰まっているらしい。」

「なるほど、その匂いですか。これは。」

「ああ、ゆっくり深呼吸すれば蒸気に混じった生薬成分が体内に取り込まれて健康になる…気がする。」

「気がするだけなんですね。」

「正直効力はわからん。肺から吸収して良くなるのかと言われると疑問しかない気はしている。」

「確かに。栄養としては取り込まれませんもんね。」

「まぁ、リラックスとかには効くかもしれないが…何より健康に良さそうというのは気分が良い。」

「それはそうですね。」


確かになんか健康に良さそうな気がする、体にいいことをしているというだけである程度満足感はあるな。


「そこにむしろが敷かれているだろう?そちらにバスタオルを引いて横になると良い。」

「上からバスタオルを敷くんですね。」

「まぁ、他人の汗があるとこに横になりたくはないからマナーみたいなものだな。」


確かにそれもそうだ。

自分も嫌だし、次の人も嫌だろう。

得心がいった私はバスタオルを筵の上に敷き、横になる。

すぐにジワリと汗ばんでくるのがわかる。


「何分くらいが目処なんですかね?」

「一回20分が良いとされている。もちろん人に寄るから、辛かったりすれば遠慮なく出て良い。」

「わかりました。」


天井を見つめる。

横から深呼吸の音が聞こえてくる。

私も真似をして同じリズムで呼吸してみる。

だんだん身体から力が抜けてリラックスしてくる。

生薬の効力なのだろうか。


「麗香さんは良く来られるんですか?」

「そうだな。月に二回くらいは必ず。」

「月に二回。それはなかなかですね…。きっかけは?」

「サウナが好きでな。それでこういった施設を良く使ってる内に、ただこうしてゆっくり深呼吸しながら長く入れる岩盤浴にハマってしまった。」

「ああ…そういうことでしたか…。」


確かに麗香さんはサウナ好きそうだ。

サウナで腕を組みながら粘っている姿がなんだか想像出来てしまう。


「しかし、普段あまり汗をかかないのでこんなに汗をかくと全部溶けてしまった気がします…。」

「ふふ、まだ序の口だそ。とは言えキツかったら言ってくれて良いんだからな?」 

「大丈夫です…辛くはないので…。」 


私は今溶けて流れていないだろうか。

そんなありもしない心配をしながら横になっていると、時はすぐに過ぎ去る。


「そろそろ一回出ようか。」

「わかりました。」


麗香さんの合図で着いて出る。もうカラカラだ。

麗香さんは真っ先に先ほどの冷蔵庫に進む。


「薬膳茶も良いのだが、これはこれで楽しみ方の一つだ!ほら、キンキンに冷えてるぞ!」


麗香さんは先ほどくれた炭酸水を冷蔵庫から出すと私に手渡す。

すっかり干からびあがった私は蓋を開け口をつける。

ごきゅっごきゅっごきゅっ。

そんな音が己の喉から聞こえてくる。 

共に炭酸の刺激がやってくるが、その刺激さえ渇いたのどにはありがたく、構わず私は喉を潤す。

口に入れた分を飲み干した後、思わずぷはぁと声が出る。


「ふっ、ふふ…美味しいか?」

「微妙に笑いを堪えているのは癪ですが、とても美味しいです。」

「それは良かった。」


麗香さんは半分ほどになった炭酸水のペットボトルを見てニコリと微笑んだ。



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