二人のピクニック その4
「おはようございます。なんだか良い香りがしますね…?」
「おはようございます。周囲を散策したら食べれるキノコがあったのて今焼いているところでした。」
昨夜は体が休息を欲していたのか、今までにないくらい熟睡できた。
麗香さんが落ち着かせてくれたおかげもあると思う。
「朝食は食べられる方ですか?少しでも体力をつけれるよう、出来れば食べていただきたいのですが。」
「あ、大丈夫です。食べれます。」
親は食事には厳しかった。家にいるころは必ず同じ時間に食べさせられたものだ。
私は差し出されたキノコの串焼きを頬張る。これも味気はないが、香りが良い。
「麗香さんって、キノコなんかも詳しいんですね。すごいです。」
「ふふ、適当に選びました。」
「ぶっ!」
私は食べかけのキノコを吐き出す。
適当でキノコを食わせるな。
「冗談ですよ。しっかり見分けついてますから。ほらもう一本。」
「あっ、はい…。」
私は追加で渡されたキノコを再度頬張る。
まぁ、悪いようにはならないだろう。
そうして一通り食べ終えたところで、麗香さんは口を開く。
「これからのことなんですが。」
「はい。」
どうするんだろう。足を切っているから歩いては難しいかもしれない。
「色々考えてみたんですが、私が□□さんを背負ってキャンプ場までひとまず戻ろうかと思っています。」
「なるほど。…はい?」
「昨日担いで運んだとき、想定よりずいぶん軽かったです。これなら私が戻って人を呼んでくるより速いと思うんですよね。」
「本気で言ってます?」
「本気ですよ?」
「麗香さんだって女性じゃないですか。そんな力と体力あるんですか?」
「私、こう見えて力持ちなんですよ。任せて下さい。」
麗香さんはそういうと腕に力こぶを作って見せる。だがなあ。
「昨日のうちに乾かした服があるので、ひとまず服を交換しましょう!ほらほら!」
私は考える間もなく急かされ服を脱ぐ。足の切り傷以外に大きな外傷はないようだが…
「あれ、昨日着替えてあった上に傷の手当てがしてあるってことは…」
「じ、じっくりは見てませんから…」
「まだ見たかと聞いてもいないんですが。」
麗香さんをじっとり責めるように見ると、彼女はとても困ったような顔をする。
こんな状況だが、その様がとてもかわいらしい。
「まぁ、助けてもらった位なので怒ってませんけどね。そもそも昨日は私に服を着せて麗香さんが肌着姿なの、申し訳ないくらいでしたし。」
「私は大して濡れてないので、そちらのが間違いなく必要としてましたから。低体温症は怖いですし。」
「むしろ、ありがとうございます。助けてもらったことも全部。」
「ふふ、どういたしまして。危ないことは今後避けて下さいね。」
「反省してます…。」
そうして話しながらも着替えて行く。まだ体が痛く着替えにくいと思っていたら、適時麗香さんが補助してくれた。
「さて、行きましょうか。途中一度背丈よりちょっと高いくらいの崖がありますので、まずはそこまで。」
麗香さんは有無をいわさず、背に乗れとばかりにしゃがんで背をこちらに見せる。
申し訳ないな。
「無理だと判断したら、いつでもやめて下さいね…?」
「こう言うときのために、強くなったので大丈夫ですよ。」
麗香さんは私を背負うとニコニコと笑いながら沢に沿ってさかのぼってゆく。
見た目は本当に苦にしていなさそうだが、彼女の労苦は如何ほどか。不安になる。
私は疑問に思ったことをぶつける。
「どうして麗香さんはここまでしてくれるんですか?」
「一刻も早く医者にかかった方が良いでしょうから。」
「いやまぁ、そうなんですけど…。道徳的に見捨てることはできなくても、助けてその後はしかるべきところに丸投げでも充分手厚くしてくれてると思うんですよね。」
言いたいことがまとまらない。
ただ、知りたかったのだ。伝わっただろうか。
「んー、そうですね。大切な友達だからじゃないですか?」
「友達?」
「あれ、すっかりそう思ってたんですが、□□さんにとっては違いました?」
麗香さんはよよよと泣くフリをしてみせる。
「そういう訳じゃないんですけど…私、親しい友達というものが出来たことがないんです。」
「なるほど。」
麗香さんは得心したといった表情で話を続ける。
「昨日、こんなことになる前ですけど…楽しかったですか?」
「ええ、楽しかったです。」
嘘偽りなき真実だ。昨日という時間は楽しかった。
「私もです。…例えば、今こういう状況でもし□□さんのお財布が無いとなったらどう思いますか?」
「お財布、ですか?」
昨日一緒に干していたバッグの中に財布はあったけど…もしなかったとしたら…
「まぁ、流されたんだろうなと。」
他に選択肢があるように思えない。
ほぼ確実に流されてしまったんだろうな。
「そこで一瞬でも私を疑わない□□さん、好きですよ。」
「あー、そういう可能性もあるんですね。」
「本当は私じゃないって言ったら信じてくれます?って話をしようとしたんですけど。そもそも私を疑わないんですね。」
麗香さんはくすりと笑う。
いやだってなぁ、そんな人で無いことはわかっているつもりだし。
「まぁとにかく!一緒に居て楽しくて、なおかつ信用出来るならそれは友達だと思いますよ。少なくとも私にとって□□さんはそういう人です。」
「それが友達なんですね。」
楽しくて、信用出来る人。
私にとって麗香さんは。
「友達か。」
その言葉を噛み締めるように呟く。
その瞬間、私を背負ってくれるその背が、少し違ったものに見えた。




