二人のピクニック その2
ホークス戦を見たらゆっくり休もうと思っていたのですが、野球を見終わった後、やることがなくて結局途中から小説を書いていました。
少し遅れましたが…
「麗香さんって料理がお得意なんですね。」
「私?そうかな?」
「ここまでできる人はあまり居ないと思いますが。」
出来映えもさることながら、限られた環境で凝った料理を作って見せるというのはなかなかできることではない。
「昔はすごい料理の上手い人が居て、作って貰ってたんですけど。自分で作るようになったら物足りなくて。これでもまだまだ及ばないんですね。」
「なるほど。今度私にも料理教えてくれますか?」
「良いですね!是非ともやりましょう。」
麗香さんは手際よくベーコンと野菜をスキレットに入れて醤油で炒めて行く。
鼻歌混じりのその姿が美しく、思わず写真を一枚撮る。
「まだ衣装は着てませんよ?」
「綺麗だったので…ダメでした?」
「綺麗だなんて、照れますね。」
「自信を持たれても良いかと思います。」
「□□さんはそういうタイプかー…。」
麗香さんは微妙な顔をしてこちらを見る。
綺麗と思うものを綺麗だと素直に表現しただけなのだが。
何かおかしかっただろうか。
「□□さんって実は箱入り娘だったりします?」
「どうしてですか?」
「泰然自若であまり周囲を気にしない感じがしたので。」
「なるほど?」
遠回しに天然って言われてる気がする。
まぁいいけど。
「よっし、出来上がりましたよ。一緒にいただきましょうか。」
「はい。」
私たちは出来上がった料理に舌鼓を打った。
◆ ◇ ◆ ◇
「はー…タマネギがいい味出してましたね…。」
「□□さんが必死に持ってきてくれたお陰ですね。」
「今日の麗香さんいつもより意地悪ですね。」
のんびり雑談していると、少しずつうとうとしてくる。
標高の高いキャンプ場は初夏の昼間でも若干肌寒い。
そこに焚き火の暖かさが加わり、ちょうどいい感じなのだ。
「動きたくないけど…動かなきゃですね…。」
「ええ。私は着替えてきます。」
テント内で着替えて貰ってる間に構図を考える。
焚き火を眺めながら三角座りをしてもらうか。
きっと野営感が出てくるだろう。
「お待たせしました。」
「では撮影を始めましょうか。」
麗香さんは私の指示通りにポーズをとる。
表情もいつものニコニコした感じではなくキリッと引き締まっている。
こうだとまるで本当にレベッカみたいだ。
「どうですか?いい感じに撮れました?」
「こんな感じなんですけど…」
「おお、一気に雰囲気がでましたね。」
「ですね。連れてきて貰って良かったです。」
確かにこうして状況を想定して撮ってみると、それだけで全然違う。
背景も相まって一気に雰囲気が出てくる。
「焚き火の始末をしたら、色々撮影しに行って見ましょうか。」
「ええ。」
私たちは林などをバックに撮影を始める。
今回、折りたたみ弓をネットで見つけて小道具として持ってきたのだが、これがずいぶんサマになる。
麗香さんは弓の構え方も心得があるらしく、構え方が美しい。
狩りが好きで、武に長けたレベッカぽさがよく出ている。
「レベッカ様…」
「ん?」
再現度の高さに思わず名前を呼ぶと、麗香さんが呼んだかという風にこちらを向く。
その様子がまるで本物のようだ。
思わずめまいがする。
「おっと、大丈夫です?」
ふらついた私を麗香さんが駆け寄り支えてくれる。
その姿がまた美しい。
「ごめんなさい。」
「いえ。前もこんなことがありましたけど、大丈夫ですか?」
「麗香さんが素敵すぎるのが悪いんです。」
「本当にお上手ですね。」
私は深呼吸をして心を落ち着ける。
その後も様々なシチュエーションで写真を撮ってゆく。
そのとき、ある看板が目に入る。
「ここ、滝もあるんですね。」
「本当ですね。知りませんでした。」
看板には滝の名前と向きが書いてある。
良いな、滝。滝をバックに撮るのも面白そう。
「よければ行ってみません?」
「良いですよ、行きましょうか。」
私たちは滝に向かって歩き始めた。
◆ ◇ ◆ ◇
「足場が悪いですね…気をつけて。」
「は、はい。」
麗香さんが差し出した手をとって、私は慎重に歩く。
山登り自体初めてなので中々に辛い。
「引き返しますか?」
「いえ、滝の音はもう聞こえますし…後少し頑張ります。」
滝があると歩いてきたのは良いものの、これが思っていたよりかなり遠い。
帰ることも考えるとあまり時間は取れなさそうだ。
その後も私は麗香さんに導かれながら歩を進める。
そして、突然目の前が開ける。
「わぁ…」
「見事な滝ですね、これは。」
たどり着いた先には名所になってもおかしくないほどの雄大な滝と沢があった。
「試しに滝をバックにして立ってもらえますか?」
「こうですかね?」
「わぁ、良い。良いですね。」
レベッカのストイックな感じが滝で演出されている。
ひととおり写真を撮る。
「こういうのはどうでしょう?」
麗香さんはその場から手頃な木の枝を見つけてくると、滝を見ながら剣を構える。
「修行ぽくていいです!こんなことなら小道具に剣も用意しておけばよかった…」
今日一番の出来かもしれない。
まさしくレベッカといった感じだ。
「今度は剣を振り切った感じのポーズをしてもらってもいいですか!?滝を切り裂いたイメージで!」
「わかりました!」
指示通りのジャストなポーズを麗香さんが取ってくれるが、この角度からだと微妙にポーズが撮りづらく背中しか見えない。
もう少し斜めの角度から…そう思って私は歩を進める。
よし、良い感じだ。
「最高ですね!オッケーです!」
「はい!」
麗香さんは滝ポーズを解くとこちらを振り向く。
目があった瞬間麗香さんの顔が真っ青になる。
「危ないっ!」
「えっ、あっ、きゃあ!?」
私は写真を撮るのに集中しすぎていたようで、立ち位置を調整している内に沢の急流のすぐそばにまで来ていたようだ。
麗香さんの声で気づき、咄嗟に避けようと体を動かす。
が、そうして慌てて足を動かした結果、濡れた石の上に立っていた私は足を滑らせる。
わき腹に衝撃が走る。
痛い、痛い痛い。呼吸ができない。
石の角に思い切りぶつけたようだ。
だが、痛がっている暇もなく、今度は目鼻に水が入ってくる。
早く、早く起きないと。
そう思い体を起きあがらせようともがくが、足が地に着かない。
痛みから体も上手く操れず、己が流されていくのがわかる。
何とか息を吸おうとする度に、口に大量の水が押し寄せる。
そうしているうちに、私は頭の先まで水に沈んでいることがわかり始める。
最中、私は突如ととあることを思い出す。
ああ、これは、あのときの海みたいで。
そんなことを少し思い出す。
あれ、私は海に行ったことなんて--
何かを思い出しかけたそのとき、体が水底に思い切りぶつかった後、今度は宙を舞う。
助かった?いや違う。
ああ、今私は落ちている。
私が流された先の滝から落ちていることに気づいたのが最後の記憶だった。




