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何年目かのバレンタイン その2

レベッカ視点です。


午後も差し迫った時間。もうさほどもすれば昼食で集まる時間だ。

午前中に訪ねると言っていたが。

私は何度も書き損じた書類を投げ捨てると、ため息をつく。


「今日はどうやら身が入っておられないようですね。お嬢様。」

「ああ、どうもな…。」


そう言ってもう一度ため息をつくと、アランが苦笑しながら肯く。

そんなやりとりの最中、ドアをノックする音が響く。


「お姉さま、今よろしいですか?」


私はその声を聞いて即座に立ち上がり返事する。


「ああ!入ってくれ!」


その様子をみたアランが笑いを堪える。奴め。


「お邪魔します。」


リシアは大きなかごを手に持って部屋に入ってくる。

まさか、今年はあの大きなかごが…?


「ああ、アランさん。ちょうど良かった。」

「どうされました、奥方様。」

「ほら、今日はバレンタインじゃないですか。ですからこちらを。」

「これはこれは。ありがとうございます。」


そういうとリシアは大きなかごから小さな包装された袋を取り出しアランに渡す。

あれは…義理チョコというやつか。

きっと残りが私の分なのだろう。

そう思い、待ってみるがリシアはアランと世間話を始め、一向にこちらに意識が回ってこない。

私はいたたまれなくなり、声を出す。


「あ、あのだな。リシア?」

「はい、お姉さまどうされました?」

「今日はその、バレンタインだろ…?こ、これを…。」


私はリシアのために作ったチョコの袋を差し出す。

私がリシアにチョコをプレゼントすることで、自然とリシアが私とチョコを交換する形になる。

我ながら完璧な作戦と言える。


「まぁ!ありがとうございます!では、お姉さまもこちらをどうぞ!」


リシアはにこにこと私の差し出したチョコを受け取ると、先ほどの大きなかごより小さな袋を一つ取り出し私に渡す。

それはアランが貰っていたものと同じもののようで。


「あ、ああ。ありがとう。リシア…。」

「いえいえ。では屋敷の使用人たちのところを回って配ってきますので。また昼食で。」


リシアはそう言って一礼するとそそくさと部屋を出ていく。

手元にぽつんと残された小さなチョコの袋と、アランの持っているものを見比べる。

何度も両方に視線をやっているうちに、アランが吹き出すと大声で笑い始める。


「おい!アラン!」

「こ、これは申し訳ありません。お嬢様。しかし…!」


そこでまたツボに入ったのかアランは再度笑い始める。

その様子にイラッとした私は、アランの手からチョコをひったくる。


「あっ。お嬢様、それは私のですよ!」

「うるさい!お前にはやらん!」

「…奥方様から義理チョコをいただいたお嬢様が可哀想ですからね。それはお譲りします。」

「アラン?」


もう今日は公務をこなせる気がしない。

私は剣を取ると、アランを鍛錬場に引っ張り出しひたすらボコボコにしたのだった。


◆ ◇ ◆ ◇


結局、その後リシアからはチョコレートのチの字も出てこなかった。

ここまで来ると、私がリシアに何かしてしまったのか不安になってくる。

別に今日は今も含め機嫌が悪いようには見えなかったが…。


「お姉さま?」


先日、鍛錬が白熱して鍛錬場の床を叩き割ってしまったことだろうか。いや、しかしあれはリシアは苦笑しながら、床を丈夫なものに代え手配しておきますと言っていたくらいだ。

別に怒ってはいないと思うが…。


「お姉さま?おーい。お姉さま、どうしました?」


もしくはアランが公務の終了時間間際に駆け込みで案件を持ってくる気配がしたので、執務室の窓から飛び降りて逃走した際にリシアの手入れしている庭の花を踏んでしまったせいだろうか。

いや…でもあれは一刻も早くリシアに会いたいから仕方ないことで…きっとリシアも許してくれてるはず…


「お姉さま!お姉さまってば!…もう、お先に上がりますからね。のぼせないようお気をつけになってくださいね。」


もしや、リシアへのサプライズでこっそり手作りチョコレートを作るために無断で町にでかけた件か?でもあれはバレていないはずで…


◆ ◇ ◆ ◇


「もう、だからのぼせないようお気をつけてくださいねと言ったじゃないですか。」

「そう、だったか?」

「なにやら考えごとをされていて上の空でしたからね。こうなるのであれば無理にでも手を引いてあがらせるべきでした。」


考えごとで長湯した私はすっかりのぼせあがり、リシアの膝枕に寝かされ扇子で軽く扇がれている。

これはこれは良いものだが…リシアが少し呆れているのがいただけない。


「考えごとはやはりチョコレートのことですか?」

「なっ!?なぜそれを…。」

「それはそうでしょう。他にありませんし。」


そういうとリシアは横になっている私の胸に大きな包みを載せる。

その感触に胸がドキリと高鳴る。


「はい。私の本命チョコレートです。本当には執務室に行ったときに渡すつもりだったんですけど、お会いしたときのお姉さまの落ち着かない様子が面白くて意地悪した私も悪かったんですけど。まさかそこまで気に病まれなくとも。」

「その、リシアに本当にチョコレートを貰えるか不安で仕方なかったんだ。だから今年は無いのかと…。」

「もう、毎年ちゃんとお渡ししてるじゃないですか。アランさんも私の意地悪って察してニヤニヤしていたでしょう。」

「それとこれとは話が別だ。それにアランは本気で私をバカにしている可能性だってあるだろう。」


というか、先ほどまでそう思っていた。


「そんなわけないでしょう。もう。」


リシアは私のおでこを軽くぴしゃりと叩く。


「とにかく、ちゃんとお渡ししたんですから明日は倍は仕事してくださいね?」

「ありがとう。これで私は無敵だ。」

「はいはい。そうですね。」


私は貰った包みを無くさぬよう強く抱く。

心なしかリシアは笑っているように思える。


「ところで、リシア。このチョコレートをリシアが手ずから食べさせてくれたら私は元気になる気がするんだが…。」

「その提案をするだけの元気はもう戻られているようですが。」


リシアはもう一度私のおでこをぴしゃりと叩く。

ダメか。食べさせて貰いたかったのだが。


「でもまぁ、今回は私にも非があることですからね。包みをいただけますか?」

「本当か!?」


リシアはにこりと笑いながら、飛び起きようとした私の頭を捕まえ、元の位置に戻す。

力は私の方がよほどあるはずなのだが、こういうときは不思議と勝てない。


「もう。しばらく安静にしておいてください。」


リシアはぴしゃりぴしゃり二度おでこを叩く。

私は逸る気持ちを抑えつつリシアに包みを差し出す。

受け取ったリシアは包みをほどくと、中のチョコレートの一欠片を手に取る。

そこで思い出したかのようにリシアは口を開く。


「ああそういえば。お姉さまのチョコレート、ありがとうございます。お手製、ですよね?」

「あ、ああ。喜んでくれればと思ってこっそり作ったんだが。なにぶん私一人でのことだから、美味しくはなかったろう?すまないな。」


正直、出来映えは見るに堪えないものだった。

何年もリシアと共に作っていたはずなのだが、やはりリシアの力は大きいようで何度作り直しても上手く行かない。

納得の行くものが出来ず匙を投げ既製品を購入しようとしたところ、見守ってくれていた厨房の使用人たちが「絶対にそれを渡すべきです。」と引き止められ、結局一番マシなものを渡すことになった。

今からでも既製品を買って渡すべきだろうか。


「とんでもないです!風呂上がりに開けて気付いて、意地悪して申し訳ないことをしたなぁと。とても嬉しかったですよ。」

「そうだといいのだが。」

「ええ。本当にお姉さまが自分一人で手作りしてくれたことが嬉しかったんです。…ふふ、今すぐお姉さまを食べてしまいたいくらいには。」


リシアはゾクッとするような笑顔で私を見ると、これ見よがしにリシアの本命チョコの一欠片を口に咥え、そのまま私の唇に口付けを落としたのだった。

…そのチョコがとてもとても甘いものだったのは、リシアの計量ミスか、はたまた。




ということでバレンタインSSでした。以前からバレンタイン自体は書いているので、少し熟成しながらもアツいままの二人を。

100000pv記念はもう少し待っていただけると。

実は、構造上少し分量が多くなりそうなので新章として書けたらなと思っています。

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