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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
とある年末年始編
152/321

とある元日 その5

麗香+レベッカ視点です。

リシアがローエンリンデの家に来て数年。

今年もつつがなく新年を迎えられたのはリシアが女主人として屋敷を回してくれているからだとつくづく実感する。

リシアにはいつだってしてもらってばかりだ。何か返すことは出来ないかーー

そんなことを考えていると、リシアの髪の香りが鼻腔をくすぐる。

腕の中の少女は、もう眠りについたようだ。

規則正しいその寝息に私も安らぎと眠気を感じ、眠りに落ちた。


◆ ◇ ◆ ◇


「ここは?」


どこまでも続く白い空間。

夢、だろうか。


「まぁ、夢みたいなものだね。」

「誰だ!?」


後ろから急に誰かに声をかけられる。

この私が気配一つ捉えられなかったことに驚きを隠せない。

そうして振り向いた先に居たのは男とも女ともとれない、一人の人間らしきものだった。


「やぁ、レベッカ君はじめまして。」

「私にこんな知り合いは居たか…?」


いやまて、目の前の奴はどんな顔をしている?

今見ているはずなのに、なぜか記憶に残らない。


「そういうものだから安心してくれ。どうも、リシアを聖女とする託宣を下ろしたもの、言わば君たちの言う神といったものだろうか。」

「大変失礼しました。」


私はとっさに跪く。

普通なら信じられないだろうが、何故だか今は素直にそれを信じられる。


「ああ、いいよ楽にして。」


そうはいうものの、体が動かない。


「今日はレベッカ君にご褒美をあげようと思って。」

「褒美、ですか?」


そんなものを貰えるようなことはしていないはずだが。


「まぁ、リシアは一応僕に仕える立場だからね。取り決めがあるわけでもなし、好き勝手やってくれてるけど。そんな部下を可愛がって大切にしてくれてる君に日々のお礼をね。」

「なるほど。そういうことでしたか。」


私は得心する。リシアは尊いからな。仕方ない。


「君のリシア好きも大概だねえ。で、ご褒美なんだけど。願い事を何でも一つかなえてあげよう。何が良い?」

「願い事、ですか?」


不老不死?莫大な資産?いや、そんなものは要らない。私が欲しいのは一つーー


「リシアに幸せを。」

「良いね!本心ままの良い願い事だ。だが、それは難しいね。」

「どうしてですか?」

「うーん、簡単に言えばね、リシアの幸福度はもうずっと限界値なんだ。君の側にいるだけでこれ以上ないくらい幸せだ。さすがに限界まで幸せな人間をさらに幸せにするのはちょっと難しい。」

「そうですか。」


リシアが私と居るだけで幸せ。その事実に叫びだしたいくらい嬉しいが、ぐっとこらえる。


「君の心の叫びがうるさいんだけど。」

「き、聞こえてましたか。」

「そりゃ神だからね。しかし、うーん。どうしたものか…。」


そうして神様は考えこむ。しばしの静寂の後、神様はおもむろに口を開く。


「じゃあ、こういうのはどう?今のリシアは幸福だから、リシアがリシアになる前の子を幸せにするというのは?」

「…前、ですか?」


リシアがリシアになる前?どういうことだろう。


「説明が難しいんだけど、今の君の恋人のリシアは二人の人格が入り混ざったものでね。そのうちの半分は別の世界から来たものだ。」


スケールの大きな話に何をいっていいかわからず戸惑う。どういうことだ?


「まぁ、今のリシアは二人まとめてリシア、という人格だからあんまり気にしないであげて欲しいんだけど。その別の世界から来た人格の子はね、その世界でけして幸せと言えないまま一生を終えた。どうだろう?君の手で幸せにしてあげるというのは。」

「でも、一体どうやって…?」


その人がリシアの半分だとしたら、それは紛れもなくリシアだ。幸せにしたい。


「君がその世界に転生して、その子を見つけ出して、恋人として幸せにする。簡単だろ?」

「転生。でもそうしたら今の私はどうなるんですか?」

「そこは安心して。君、少し前にリシアの血を全身に浴びたろ?そのときに癒されすぎて人が一生に使い切る生命力の何倍もの生命力が溢れてるんだよ。これを分割して使って、もう一人君の人格を作ろう。で、そっちを転生させる。」


数年前の正月。確かに私はリシアの血を全身に浴びた。

それは、私のためなら自分の命すら惜しくないというリシアの献身だった。

彼女はあれほど私を愛してくれているのだ。であれば、私だってそれに応えたい。


「それでお願いします。」



◆ ◇ ◆ ◇


神社の賽銭箱の前。私はつつと横を見る。

横の少女は、何事かを必死に祈っているようだ。

それが私に関わることなら良いなと思いながらもまた私は神様に感謝を捧げる。

先ほどお会いしましたが、私は無事リシアを見つけて幸せにやっています。本当にありがとうございます。

後ろにも人は控えている。祈りはほどほどに私たちは開けた場所に移動する。


「お疲れ様でした。お姉さま、白湯をいただかれますか?」

「ああ、ありがとう。」


リシアはニコニコと笑い、私に白湯を差し出す。

その様は、向こうの君そっくりで。

神様は私を転生させるときに、少しだけ二人のパスがつながってしまったと言っていたが、恐らく向こうの記憶は思い出すことはないと言っていた。

でも、やっぱりリシアはリシアだったな。


「ああ、リシア。いや□□。君にプレゼントがあるんだ。」

「どうしたんですか?急に本名をお呼びになって。」

「これを。…仕事を辞めて私を支えてくれないかな。□□。」


私は中々渡せずに居た指輪を差し出す。

プロポーズは二度目だが、それでも緊張するものだ。


「…困りましたね。」


君は困ったように呟く。

私は早まってしまったのだろうか。


「先ほどしたお願いがかなってしまいました。もう一度並ばなきゃなりませんかね?」


そうやっていたずらっぽく笑う。

どうやら先ほどの意地悪の意趣返しをされたようだ。


「こちらこそ、よろしくお願いします。麗香さん。」


細い左手の指を私に向けて差し出す。

つけてくれということなのだろう。

私は薬指に指輪をつける。


「ありがとうございます。お姉さま。あっ、これからはアナタって呼んだ方がいいですか?」

「いや、お姉さまでいい。好きなんだ。それより、私こそ君を□□って呼ばないといけないな。」

「私もお姉さまにリシアと呼んで貰えるのはなんだか落ち着いて好きですよ。どっちも呼んでください。」

「ふふ、そうか。であれば私的な場ではリシアと。」


私たちは笑い合い、手を取り合う。


「さて寒いですし、そろそろ帰りましょうか。」

「ああ、そうだな。」


そうして、二人歩み始める。


「ああそうだ。一つ聞きたいことがあったんだ。」

「なんですか?」

「結局リシアは私のどこが好きなんだ?」

「もう、お姉さま!」


◆ ◇ ◆ ◇


朝、今日くらいは公務も休みで遅くまで寝れるだけあって、どうやらかなり寝てしまったようだ。もう昼も近い。

リシアはもう起きているようだ。


「あっ、おはようございます!お姉さま!」

「おはよう。どうした?なんだかご機嫌みたいだな。」

「ふふ、とても良い夢をみまして。」

「ほほう、どういう夢だ?」

「その、何というか…説明しづらいんですけど…。名前も姿も全然違う別の世界の私が、これまた名前も姿も全然違う別の世界のお姉さまと出会って、それはもう大変幸せに生きる夢でした。」

「なるほど。それは良い夢だな。」


どうかお幸せに。私はリシアを抱き締めながらそう祈った。


これにて年末年始編終了です。


リシアと□□の書き分け、レベッカと麗香の書き分けを少ししています。

乙女ゲームの主人公としてのリシアは誰にでも優しくコミュ力があり、攻略キャラと人目を気にせずいちゃつく胆力や頼まれたことを嫌でも何でもしてしまう性質などがあります。

これは□□の部分ではなく元のリシアの部分なので、敢えて少し雰囲気を変えています。

レベッカと麗香はあんまり変えてませんね。少し麗香のが幼く感じるようにしています。レベッカより後に生まれた人格なので。

キャラの雰囲気に違和感があった方も、気づかれなかった方も読み返して確認してもらえると幸いです。

私の技術不足で書ききれてない可能性もありますが。


この後は数日間期間をいただいた後、100000pv記念を少し書かせて貰おうと思っています。

是非そちらもお読みいただければこれに勝る喜びはありません。


また、宣伝にはなりますが

「天才魔法使いと天才剣士」

(https://book1.adouzi.eu.org/n7059hk/)

という短編小説を投稿しました。

こちら同様に百合を取り扱った作品となっており、今作を好んでいただけた方なら楽しめる作品となっています。

読んでいただければこれまた幸いです。


久々の更新にも関わらず、大変多くの方に拙作を読んでいただき本当にありがとうございました。


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