バレンタインデー その2
もちろんお姉さまが結構な量のチョコをかき混ぜている間、私たちは何もしないわけではない。
「これは何に使うんですか?」
刻んだチョコのうち、少しあった色の違うものをこちらも湯煎しているとシンシア様が疑問に思ったのか聞いてくる。
「これはさっき折ったキッチンペーパーに入れてチョコペンにするんですよ。」
「チョコペン?」
「後で使えばわかります。」
お互いに作業を終えたところで、私はチョコレートの型を取り出す。
「これがチョコレートの型です。何種類か形を用意してみたのですが…。」
「色々あるのですね。」
シンシア様がカイト様に贈る分は是非ハート型にしてもらいたいところだが。
選んでくれるだろうか。
「お互い贈りあうなら、みんなでハート型にしないか?どうだろう、シンシア、リシア。」
「まぁ、良いですね。」
「構いませんよ。」
お姉さまの提案に乗っかって全部ハート型で作ることにする。
お姉さまを見やるとパチッとウインクしていた。
考えを察して助け船を出してくれたようだ。
一昔前ならお姉さまも自分には可愛すぎるとハート型を選ばなかったタイプだ。
なんとなく思うところはあるのだろう。
「では全てハート型で。成形していきましょう。」
「あれ、七つですか?」
「ええ、材料があるので。後一つはシンシア様が思った人に差し上げてください。」
「リシア様、レベッカ様。謀りましたね?」
「毎回引っかかるシンシア様の純朴さが可愛らしいですねぇ。」
「だな。」
おにぎりを作った時もそうだが、シンシア様はこうして定期的に私たちに誘導されてカイト様に贈り物をしている。
毎回純粋に誘導されてくれる様が可愛らしい。
「型に流し込んで固めている間にメッセージボードを作りましょうか。」
私は長方形の板状のチョコを七枚取り出す。
「さっき折ったキッチンペーパーの先をこうして少し切って、逆側からチョコを流し込みます。」
先からちょっと出てきたチョコで文字を書く。
何を書くか決めていなかったが…
「お姉さまへ。愛していますっと。こうして文字を書くんです。」
「私も愛しているぞ、リシア。」
抱きつこうとするお姉さまをかわしておく。
「いくつか色も用意したので、お好きな色を。お互い書いた内容は見ませんので、自由に書いてください~。」
そういって二人にペンを渡すと、二人とも何を書くか真剣に悩んでいるようだ。
私もシンシア様になんと書こうかな。
◆ ◇ ◆ ◇
チョコが冷えて固まるまでの間、皆でお茶をしながら待つことにした。
「もうすぐ卒業ですねぇ。」
「お二人とは中々会えなくなりますね。」
私とお姉さまは卒業と共に結婚することになるだろう。
シンシア様は一度領地に帰ることになりそうだ。
カイト様との婚約は済んでいるが、カイト様はこれから自分の領地で領主見習いとしてさらに学ぶことになる。
結婚はカイト様が落ち着いてからになるだろう。
私たち以前からローエンリンデとは繋がりがある両家だけあって、領地はそれなりに近くはあるのだが、さすがに気軽に会うとはいかなくなる。
「寂しくなるな。」
「お姉さまでもそう思うのですね。」
「レベッカ様はリシア様以外どうでもいいものと思ってました。」
「そんなこと言うシンシアとは会えなくてせいせいするな!」
お姉さまがそっぼを向いてお茶菓子を頬張る。
「あーあお姉さまが拗ねちゃったじゃないですか。シンシア様。」
「リシア様のせいでは??」
女三人集まれば姦しいとは良く言ったもので、三人のお茶会はこれから会えなくなる分を埋め合わせる様に騒がしく、盛り上がる。
これからの私たちの未来もこれくらい騒がしく明るいものになりますように。
私は祈った。
残りのメッセージボードに何が書かれたのかはそのうち。




