バレンタインデー その1
バレンタインデー。それは乙女の戦い。
この世界にもバレンタインデーはあって、同じく好きな人にチョコレートを贈る日になっている。
とはいえ、学園に入ってお姉さまと出会ってから最初のバレンタインはエドワード関連のゴタゴタでなぁなぁになり、しっかりバレンタインデーをやるのは学園卒業間近の今回が初めてだ。
「リシア様、今日はよろしくお願いします。」
「ふふ、任せておけ。」
「お姉さまは教わる側ですね。」
バレンタインデー前の最後の休日。
私たちは我が家に集まり、手作りチョコレートを作る会を開催した。
「シンシア様はカイト様にですよね?」
「いえ、リシア様とレベッカ様に贈れればと…。」
「ありがたいな。カイトに自慢してやらねば。」
「私もシンシア様にお返しせねばなりませんね。」
「ダメだ。リシアのチョコはやれない。」
「お姉さまはしばらく黙っててください。」
とはいえ、やはりカイト様にもつくるのだろう。
照れ隠しみたいなものだ。
私は三人がお互いに贈りあえる分とカイト様の分を一つ分材料を用意する。
「チョコレート自体は既製品を使うのですね。」
「ええ、一度溶かして好きな形に固めてデコレーションするという工程になりますね。」
「リシアのことだからチョコレートから作るのかと思ったぞ。」
「チョコレートを作るのはとても難しいので…」
「私もそう思っておりました。」
「そうなんですね…」
私が何でも自分で作る人みたいな評価になっている。解せない。
「では、溶かすところから始めましょうか。」
「まずはこれを火にかけるのだな?」
「違います。」
「そのまま火にかけたら焦げるんじゃないでしょうか…。」
「その通りです。シンシア様。後香りやらが飛んでしまうというのもありますね。」
「ではどうするんだ?」
「湯煎といって、チョコを入れた容器を50℃くらいのお湯で温めます。シンシア様、水を火にかけてもらっても?」
「はい。」
「ではお姉さまはチョコレートをみじん切りで砕いて貰いましょう。」
「刃物の扱いは任せておけ。」
「空中でみじん切りにして容器に降らせる必要はありませんからね?」
お姉さまならやりかねない。出来そうだし。
「なんだと…。」
ちょっとしょんぼりしながら静かにまな板の上で砕いている。
本当にやる気だったのか。
「リシア様。温度はどう判断したらよろしいでしょうか。」
「鍋底に泡が貯まりだしたら目安です。」
「了解しました。」
二人に指示を出しながら私はキッチンペーパーを巻いていく。
「それは何ですか?」
「まぁ、ちょっとした遊び心ですねえ。」
「リシア、全部刻み終わったぞ!」
「こちらも泡が出てきました。」
「では、湯煎していきましょうか。」
お姉さまが刻んだチョコを容器に入れて、湯に漬ける。
「お姉さま、お仕事ですよ。綺麗に攪拌するまでぐるぐるとかき混ぜてください。」
「リシア、私の人使いが荒くないか!?」
「気のせいです。」
「シンシアからも何とか言ってくれないか?」
「仲がよろしいのですね。」
「シンシアまで…。」
お姉さまがさらに少ししょんぼりしながらかき混ぜている。
ちょっといじめすぎたかな。
「仕方ありませんね…。」
私はお姉さまの横に歩いていって、背伸びをしてささやく。
「私のために頑張ってくださるお姉さま、とっても素敵ですよ?」
その瞬間お姉さまの顔がパッと華やぐ。
「ああ、任せておいてくれ!」
「よろしくお願いします。」
一気にやる気を出したお姉さまがせっせとかき混ぜ始める。
「恋人とはああやって手綱を握るものなのですね…。」
「参考になりました?」
私とシンシア様は笑いあった。




