二人の日常 その3
夕方。厨房にて。
今日は二人とも午前中で仕事を切り上げたとあって、夕食は自分たちで作ることにして料理人たちは早く帰らせた。
静かな厨房で二人のんびりと夕食を作ってゆく。
「とりあえずサラダはこれで決まり。後はなに作りましょうかねぇ‥。」
「今日は天ぷらが食べたい気分だ。サラダを食べずとも野菜も採れる。どうだ?」
「天ぷらですかぁ…。」
悪くはないけど、揚げては食卓に持って行くなど手間がかかる。
詰まるところ、ちょっと面倒くさい。
「ふふ、面倒くさいって顔をしているな?」
「わかります?」
お姉さまが面倒くさいって顔をしているらしい私の顔をつんつんとつつきながら笑う。
鬱陶しいので頭をお姉さまの指に合わせてぶつけて突き指を狙うも避けられる。
「おっと。危ないな。」
「狙ったんですけどね。」
「甘いな、リシアは。」
本気になればだいたいの武術でお姉さまに勝てる人はレアらしいので、私がかなうわけもないのだけど。
「良い案があるんだ。ここに小さいテーブルと椅子を持ってくるから、目の前で天ぷら粉を浸けては揚げて食べるというのはどうだ?色々手間も省ける。」
「お姉さまにしては魅力的な提案ですけど…お行儀が悪くないですか?」
「なに、アランが居れば窘められただろうが、奴も帰ったし料理人たちもいない。問題ないだろう。」
「なるほど。…じゃあやっちゃいますか!」
お姉さまが椅子とテーブルを抱えて持ってくる間に、私は食材を切って天ぷら粉を用意する。
「準備万端ですね!」
「ああ。」
二人満足げに頷き、早速揚げ始めていく。
「まずはタマネギから行きたいですねぇ。」
「私はサツマイモだ。」
思い思いに天ぷら粉をつけては揚げてゆく。
「んん、おいしぃ…」
「サツマイモも美味しいぞ。ほら、リシアあーん。」
「甘くて良いですね!お姉さまもどーぞ。」
お互いに食べさせあいっこなどしながら食べる。
揚げたてほやほやということもあり、食が進む進む。
「こうして、厨房で二人料理を食べていると昔を思い出すな。」
「王都でお父様お母様にお世話になっていたころは良くこうして厨房で二人お茶しましたもんね。」
エヴァンス子爵家の厨房で良く私が料理をして、お姉さまがそれを手伝いながら端においたテーブルで待ち時間にお茶をしたものだ。
確かにその時と同じ様な感じがする。
「なんか、こういうのって良いですね?」
「私もそう思う。定期的にやろうか。」
「ふふ、天ぷら以外のパターンも作らないとですね?」
こうして私たちの習慣がまた一つ増えたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「湯の用意が出来たそうだぞ。」
「お姉さま、お先にどうぞ。」
「私は一緒に入りたいのだが…?」
「…まぁ、たまにはかまいませんが。」
「やった!ふふ、リシア様のお背中お流ししましょうか?」
「それは要らないです。」
夜。お風呂の時間。
私たちは連れ立ってお風呂へと向かう。
「お姉さまって、あれだけ食べても本当に引き締まってますよねえ。」
「どこかの誰かが私の筋肉が好きみたいだからな。ちゃんと鍛えてるさ。」
「私はちょっと太りましたよ。誰かさんのせいで。」
「この世に私の愛しいリシアの割合が少し増えた。めでたいことだ。」
「後で背中を流すとき覚えておいてくださいね?」
「あ、ああ…」
お姉さまの背中を流しついでに思いっきり手の平で背中を叩いてやろう。
絶対許さない。
◆ ◇ ◆ ◇
お姉さまの背中を数度叩いた後、お風呂から上がった私たち。
今日も1日楽しかったな。
充足感と共に寝室へと向かう。
「まだ背中がヒリヒリする…。」
「これに懲りたら体重でからかうのやめてもらえます?」
「そもそもリシアが話を振ったのでは…?」
「良いですね?」
「はい…。」
ベッドサイドで髪を乾かしながら雑談をする。
忙しい日などはこの時間が唯一のゆったりとした時間になったりもする。
「そういえば夕食の時に聞き損ねたんですが、明日のスケジュールはどうなっています?」
「あっ…。」
お姉さまがしまったという顔をする。
さては大事なことを伝え忘れていたな?
「その…明日は領地の端の方へ視察が入ったから…一緒に来て欲しいなと…。」
「いや、さすがにこの時間に言われても…。」
「だよな…。」
お姉さまがとてもしゅんとした顔になる。
少し前に言ってくれていればそれなりの用意も出来ただろうに。
私は嘆息する。
「…何時頃こちらを出られますか?」
「10時くらいになると思う。」
私は頭の中で明日のスケジュールを試算する。
さすがに業務は…10時じゃ片づかないよな…。
うーん…。これしかないか。
「視察の馬車の中に書類を持ち込んでも良いですか?まだ残っている物が多くて。」
「ということは…?」
「仕方ないですねえ。酔うしあんまりやりたくないんですけど。お姉さまもその場で決裁してもらいますよ?」
「ああ!もちろんだ!」
お姉さまの顔がパッと輝く。
私自身お姉さまに甘いという自覚はあるのだが、この顔を見るとつい、甘やかしてしまう。
「お弁当もお作りした方がよろしいですね?」
「良いのか?」
「要らないなら作りませんけど。」
「頼む!!」
「まぁ、それでは作ってあげましょう。楽しみにしていてください。」
「ふふ、嬉しいなぁ。」
周りにぽぽと花が散るような笑顔で嬉しそうに足をぱたぱたさせる。可愛らしい。
「では、早起きしなければならないので。お姉さま?」
私はお姉さまの膝に向かい合うように座ると、そのままベッドへと横になる。
「…明かりを消さないか?」
「さっきまで一緒にお風呂に入っていたのにですか?」
「…それとこれとは違うだろ。」
「その可愛らしい照れ顔が見れないのでダメです。」
そうして、朝綺麗に櫛で整えた綺麗な黒髪を白いシーツの上で乱しながら夜は更けていくのだった。




