ダンスパーティー その1
昨年の大晦日はエドワードの企みから逃げるために出掛けたローエンリンデ領でひどい目にあった。
だが、今年は何の憂いもなく過ごせるし、また学園での最終学年でもある。
今年の年末は王都で学園の行事を楽しむことにした。
その一環が大晦日の昼に行われるダンスパーティーなのだが…
「リシア、共に踊ってくれるよな?」
「お姉さま、私ダンスだけは本当に才能がなくて…」
そうなのだ。
ダンス自体は教会で手ほどきを受けたのだが、これがもうひどい。
原作でもダンスパーティーで踊っている描写が出てこず疑問に思ったことがあるのだが、リシアが踊れないのが原因かもしれない。
「何、踊れるようになるまで練習すればいい。私も男性パートは1からだしな。」
「頑張ります…!」
とはいえ、大晦日までそれほど日数は残っていない。
基本のワルツだけでも踊れるようになるというのが一つ目標だ。
◆ ◇ ◆ ◇
「ワルツはボックスステップを主体に少しずつアクセントを入れて踊るのは知っているか?」
「ええ、ボックスステップは一応…。」
「では、三拍子を二回。私の手拍子に合わせて元のところまで戻ってくるのをやってみてくれるか?」
王都のローエンリンデ邸宅の広いダンスホール。
私たちはワルツの練習をしていた。
ボックスステップというのはワルツの基本で、まず右足を下げて、左足をそのまま左後ろに右足と同じくらい下げる。
そしてその後その下げた左足に右足をスライドさせてつける。
これを三拍子でおこない、次の三拍子は逆の動きをする。
これで元の位置に戻るというステップだ。
私は習ったとおりの知識で足を踏み出す。
「1…2…3、1…2…3。どうですか?」
「…リシア、鎧とか身につけてたりするか?」
「だから才能ないって言ったじゃないですか!!」
そう、私のステップの何が悪いか。
ただただ動きがぎこちないのだ。
何度も練習したのだが、どうしても動きから堅さがとれず、ダンスの先生も匙を投げた。
「なるほど。これは重症だな…。」
お姉さまは悩んでいるようだ。
しかし、生半可な対策では改善しないのではないか。
私も出来ればお姉さまと踊りたいのだけど。
「よし!本当はあまり良くないんだが…柔らかく踊れるまで一緒にステップの練習をしようか。」
「一緒に…ですか?」
「ああ、ワルツなのだから手をとって一緒にな。ほら、手を出して?」
お姉さまに導かれるままに手を組み、お姉さまの右手が私の背中に添えられる。
「女性は左手は男性側の腕に乗せて。そう、それでいい。」
組んだ方の手を真っ直ぐ肩に平行にのばすと、一気にそれらしいポーズになる。
もっとも、身長差があるためお姉さまはどこか窮屈そうだが。
そして、お姉さまの体が近い。
「ふふ、では一緒にボックスステップだ。私が声で三拍子を合図するから、リシアは足を動かす事だけに集中してくれ。」
「は、はい!」
1、2、3。1、2、3…
私は無我夢中でステップを踏む。
お姉さまの体が近く、緊張する。
「あっ!」
足元でぐにっとした感触がする。
どうやら完全にお姉さまの足を踏みつけてしまったようだ。
かなり痛いだろう。
「お姉さま…?」
私は申し訳ない気持ちでお姉さまの顔を見上げる。
「どうした?」
お姉さまは何事もなかったような笑顔でこちらを見る。
確かに足を踏んだはずなのだが。
「痛くなかったですか…?」
「ん、ああ。足を踏んだのか。リシアが羽根のように軽いから気づかなかったよ。」
そんなはずはない。絶対痛かったはずなのに、そう言ってくれる気遣いが嬉しかった。
あまり踏みつけると申し訳なさが勝るので、なるべく踏まないように上達したい。
「それよりリシア。まだ堅いな。…ほらリラックス。私に身を任せて…?」
お姉さまが耳元で優しくそう囁く。
なんだかゾクっとしてつい力が抜ける。
「ふふ、そう、その調子。出来るじゃないか。」
力業じゃないか。
そんなことを思ったが、それでも私にはその方が良かったのかもしれない。
私達はダンスパーティーまでの間、ずっと二人一緒に練習をしたのだった。




