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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
その後のお話
125/321

その後の、二人

「公爵夫人!あちらの区画の植え込みについてなのですが…」

「うーん、難しいですね…ちょっと現場で見てみましょうか」


あれからお姉さまは正式に公爵となった。

私は公爵夫人として迎えられ、ローエンリンデの女主人となった。

今はお姉さまが当主として領地の公務を、私が女主人として領主館の維持管理をしている。


そして明日より王都に用事があり、半月ちょっと家を空けることとなった私はなるたけの業務を今まとめて終わらせているところだ。

私としてはローエンリンデでの業務に集中したいのだが、神託の聖女の肩書きがある以上、王都の教会でやらなければいけない公務もある。

婚後も聖女としての務めを果たすというのも条件のうちであったので、しぶしぶ従っている。


「はぁ、忙しい…」


目の回るような業務量に疲れを覚える。

明日からの移動中はゆっくり休もう。

そう思いながら次の目的地へと歩いて移動していると、突如後ろから抱き寄せられる。


「リシア。」

「公爵様?」


聞き慣れた声に犯人が誰であるかをすぐに察し、呼ぶ。

返事はない。全く。


「お姉さま!」

「ああ、私だ。」


お姉さまは嬉しそうに返答をし、後ろから抱きついたまま横から私の顔を覗き込む。


「人前では公爵様とお呼びすると決めたじゃありませんか…。」

「今は二人きりだが?」

「廊下を二人きりとは呼びません!」

「でも、私はお姉さまのがいい。」


公爵になった後もずっと公爵様呼びをいやがるのだ。この人は。

伴侶にお姉さまと呼ばせたがるの、変態じゃない?

そんなことを思いながらも、仕方なくお姉さまと呼ぶ。


「それで、お姉さま、どうしてここに?私は忙しいんですけど。」

「明日からしばらく離れ離れなんだ、こうしてリシアを摂取しないと死んでしまう。」


こいつ、公務ほっぽりだして私を探しに来たな。

今頃執務室に決裁を取りに来たらもぬけの殻で、頭を抱えているであろうアランさんの姿が脳裏に浮かび、ため息をつく。


「公爵様、邪魔です。」

「お姉さまと…」

「公務をほっぽりだす人は私のお姉さまではありません。」

「でもな、半月以上居ないんだ。私にもっとリシアを摂取させてくれ?」

「昨晩もそうおっしゃられていたと思いますが?」


私はなかなか離してくれないお姉さまに苛立ちながら告げる。


「そうおっしゃるならついてくればよろしいではないですか。」


公務を放棄してついてくるなんて無理だろうけど。

そう思いつつもそんな提案をすると、お姉さまは考えこんでいるような素振りをする。


「そうだな、そうしよう。」

「え?」


お姉さまはすぐに私を離すと、執務室へと踵を返した。

え、本気で言ってます?



◆ ◇ ◆ ◇


「さぁリシア。私の手に掴まって。」

「どうしてこんなことに…。」


翌日、王都へと向かう馬車の前にはお姉さまがいた。

それだけはないと思っていたのに。


「公務はよろしいんですか、公爵様。」

「ああ、昨日超スピードで今すぐ終わらせる必要のあるものだけ終わらせた。後はアランが出来るものか、帰ってきた時に出せば良いものばかりだ。向こうでも公務はするから、この通り。」


お姉さまは書類の束を私に見せる。

そんなところに割くエネルギーがあれば別のところで使って欲しいんですけど。


「早く隠居して、こうしてリシアと気兼ねなく旅が出来たらいいんだがな。」

「しばらく難しいでしょうね。」


元々ローエンリンデに養子に来る予定だったヒューバート皇子は、今は後継者に指名され養子に来るのは難しい。

王族から新しく養子候補がみつかれば真っ先に斡旋してくれるとのことだが、恐らく最速でもヒューバート皇子に二人以上の御子が生まれたときになるだろう。気の長い話だ。


「でも、時折こうして二人で旅に出よう。私はリシアと過ごす旅が好きなんだ。」

「ええ、公爵様。」

「今はお姉さまだろう?馬車で二人きりなのだから。」

「はぁ。」

「ここは痛まないか?」


お姉さまは私の肩に手を回すと、胸に残る傷跡に指をなぞらせる。

結局傷跡は綺麗に治らなかった。理由はわからない。

全く痛みなどはないのだが、何故だかお姉さまはしきりに傷跡を気にして、こうして傷跡を撫でるのが二人きりのときの習慣になった。


「だから痛みませんって。ただの痕ですよ。」

「そうかもしれないがな…。」


お姉さまは自分のせいでできた傷位に思ってるのかもしれない。

気遣ってくれるのは嬉しいけれど、あまり気にしないで欲しいと思う。

そんなことを思っていると、傷跡を撫でる手が徐々に下に行くので、思いっきり手の甲をつねる。


「痛い痛い痛い、爪先でつねるな!」

「そういうことするならもしものことを考えて用意した二人分のお弁当、御者にあげちゃいますからね?」

「お弁当、作ってあるのか!?」

「ええ、昨日怪しいことを言ってたので一応。でももうあげません。」

「殺生な…。」


本気でショックを受けている様子を見ると、いつになってもこの人は私の料理が好きなんだなと思う。

おとなしくしていたら、お弁当をあげてもいいかもしれないな。


「お弁当が貰えないなら私はリシアを堪能する!!」

「お姉さま!!」


膝を枕にしようとしたお姉さまの頭に膝蹴りを入れる。

大変な道のりになりそうだ。

でも、これが幸せというのだろうな。



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