元日 その9
レベッカ視点です。
「おい、これはどういうことだ?」
「リシア…様…?」
どれほどの時間、リシアを抱いて泣いていただろうか。
聞き慣れた声に振り向けば、取っ組み合ったのだろう、ボロボロになったエドワードとカイトの二人、そしてシンシアがいた。
嗚咽で上手く話せない私に代わって、アランが対応する。
「カイト様、そしてハリス伯爵令嬢。王都から駆けつけていただいたのですか?」
「ああ。手紙をもらってすぐに発って、そこで逃げるエドワードを捕まえて来たらこんな感じだ。どうしてこんなことになっている?」
アランが事のあらましを説明する。私は聞いてしまうとそれが現実になってしまうようで、ただ耳を塞いでリシアを見つめていた。
「レベッカ様、リシア様。こんなことになるなんて…」
「レベッカ。気持ちは解るが、今はリシアを休ませてやれ?な?」
二人は私を囲み、優しくそう告げる。
どうしてそんな沈痛な面もちをしているのだろう。
「エドワード皇子殿下。あなたには必ず今回のケジメをつけさせます。タダで済むとは思わぬよう。」
「どうして…僕の選択に間違いは…そんなはずは…」
どうしてエドワードはアランから胸ぐらを掴まれながら呆然としているのだろうか?
少し疑問に思うが、今はリシアのこと以外どうでもよかった。
「ここは寒いだろう?中に入ろう。なぁ、リシア?」
「あ、ああ…そうしてやってくれ…」
困惑の表情を浮かべるカイトとシンシアの横を抜け、競技場の内部へと向かう。
私は腕の中で静かに抱かれるリシアに声を掛けながら進む。
「帰ったらリシアのカツサンドが食べたい。作ってくれるか?」
「…」
「新年だ。やらねばならないこともたくさんあるぞ?手伝ってくれるよな。」
「…」
「すまないな。臭うだろ?実は数日風呂に入れていなくてな。湯を沸かしてもらったら一緒に入らないか?」
「…」
私たちはひさびさの会話に花を咲かせる。
何気無いこんな会話がただ幸せなのだと実感できる。
控え室に残っていた寝台にリシアを寝かせると、胸を貫くリシアの剣が目に入る。
「ああ、痛かったよな?すまない。気づいてやれず。」
「…」
私は細心の注意を払い、慎重に剣を抜く。
「これで痛くないぞ、リシア。もう大丈夫だからな。」
「…」
服が破けて露わになっている胸部を隠すように持っていたハンカチをかけてやる。
「私以外に肌を見せないで欲しい。リシアはただでさえ素敵なのだからな。」
「…」
私はリシアの顔を撫でる。とても可愛らしくすてきな人だ。
思わず私はリシアの唇に口付けをする。
「…」
「人前で口付けをするな?すまない。どうしても我慢ならなかったものだから。」
二人を包む甘い雰囲気にただただ幸福を感じる。
その瞬間、肩を掴み私を引き起こすものがいる。
「なんだ、カイトとシンシアか。」
「おい、レベッカ。…疲れてんだろ、ひとまず休めよ。」
「ああ、リシア。一緒に少し寝ようか。」
「リシア様は少し身だしなみを整えてからにしましょう。レベッカ様はお先にお休みになってください。」
「わかった。じゃあリシア、また後で。」
隣の部屋に連れて行かれ、そこのソファに横になる。
リシアが来るのを待っていようと思ったが、私も疲れていたのだろう。
待ちきれずうとうとし、そのまま眠りに落ちた。




