元日 その8
レベッカ視点です。
私がリシアの腕に抱かれながら目をつぶった、その瞬間。
リシアは声を上げる。
「良いかエドワード!今から、お姉さまが勝利する。そうすればお姉さまに解毒薬を渡し、罪は私の狂言になる。そうだな!?」
「リシア様!」
リシア?何をしようとしている?
リシア!
「アランさん!私は今から賭けに出ます!もし失敗したら、エドワードから解毒薬をもぎ取り、医者へ!必ずお姉さまの命をつなぎ止めてください!」
賭け、賭けとはなんだ。
先ほど、リシアは私が勝つと、そう言っていた。それはつまり。
「お姉さま。今お助けしますね。」
「り…りし…あ?」
リシアがとびきり優しい声でそう言ったかと思うと、私の体の上に温かいものが滴る。
これは、リシア、君は。
リシアの体が私の上に倒れ込むのがわかる。更に温かいものが広がっていく。
それと共に、体から痛みや疲れが引いていき、温かいものが体内に入っていくのが解る。
私は目を開け、体を起こす。
「リシア!」
私の上には胸に剣を突き立て倒れ伏すリシアがいた。
「リシア!リシア!!おい、返事をしてくれ!」
私はリシアのか細い体を揺する。
こんなためにその剣を贈ったわけじゃないんだ。
リシアを守って欲しくて、贈った剣だ。なのに。
私はリシアの体を抱き上げ、立ち上がり走る。
リシアの体はとても軽く、重さなどないようで。
先ほどアランの声が聞こえた方へ走ると、アランもこちらへ駆け寄ってくる。
「アラン!医者だ。早く!」
「…お嬢様。」
「今は会話をしている場合ではない!急げ!」
「…リシア様は、もう息を引き取られています。」
「え?」
私は思わず腕の中のリシアを見る。
自分の胸に剣が突き立っているにも関わらず、表情はとても穏やかでやりきったような顔だ。
呼吸は。していない。心臓は。動いていない。
そんな。そんな。
「リシアは必ず目を覚ます!だから!」
「…リシア様は癒しの力の研究時に、誰か大切な人を喪わなければ発動しないのではと述べておりました。その時は荒唐無稽なことと思いましたが…こうして、お嬢様は癒しの力によって助けられ、リシア様は命を喪われた。それが事実です。」
リシア、君はいつだってそうだ。
私にくれるばかりで、何も返させてくれない。
たまには返させてくれたって、良かったじゃないか。
「リシア、私は元気になったぞ?君のおかげだ。だからまた一緒に歩もう。リシアが居ないと、私は歩けないんだ。だから、だから、返事をしてくれ。私はリシアが居なきゃどうしたらいいんだ…。」
涙が溢れ出てくる。
リシアの遺体を抱きながら、私はただ泣いた。




