元日 その5
私はエドワードから改めて説明を受ける。
お姉さまが私に決闘を挑むと決めたこと。
私を倒せば今冒されている毒の解毒薬を貰え、罪も私の狂言となること。
お姉さまが負ければ、罪人となる前に死に、名誉は守られること。
そんな話をエドワードはするが、私はそのほとんどが嘘だと解った。
事実は、お姉さまがローエンリンデの為に名誉ある死を選んだ。それだけだ。
おそらく、容疑者に仕立て上げたお姉さまが死ぬことによって、この事件を終わりとする腹積もりなのだろう。
お姉さまが被害者の私に決闘を挑み、返り討ちにあったとすれば異論も挟ませにくい。
なんなら以前の話的に、エドワードはお姉さまさえ居なくなれば私がエドワードを選ぶくらいに思っているんじゃないか。
馬鹿馬鹿しい。この事件が終結したとき、私が生きていれば、お姉さまをこんな目に合わせたことを後悔するくらいに追い込んでやる。
戦って、戦って、お姉さまに謝らせて、罪を償わせる。
◆ ◇ ◆ ◇
私は決闘の場となる旧競技場のフィールドへと案内される。
お姉さまはまだ来ていないようだ。
どうしてこんなことになっちゃったんだろうな。
エドワードルートから逃げ出そう、お姉さまの断罪・決闘イベントを起こさないでおこうと逃げようとして失敗して。
それでも、私はお姉さまと進展することに成功して、二人の道を歩んで。
たまにエドワードルートに引き戻されそうなこともあったけど、乗り越えてきた。
元日が近づいて、今回だって、乗り越えられた。そう思ってたのに。
お姉さまが競技場の端からフィールドの中央に向かって歩いてくるのが見える。
私たちは戦う必要などないのだ。癒しの力さえ発動すれば、共に手を取ってエドワードと戦い、二人の道が開ける。そうでしょう?
「さて、始めようか。用意は良いな?」
「お待ちくださいお姉さま!必ず私が今治しますから、だから…!」
「くどい。それに私が勝てば治療薬を貰える。そういう約束がされている。そうだろう?」
お姉さまは突き放すように、そう告げる。
近寄るなという風に剣をこちらに向ける。
どうして、どうしてもこうなってしまうのか。
「いつかこんな日が来ると思っていた…さぁ来い、リシア!」
「ああ、やめて、やめてください…お姉さま…」
お姉さまは剣を構える。
その立ち姿一つが美しく、それでいて張りつめて切れてしまいそうな感じを受ける。
「どうした!来ないのなら私から行くぞ!」
戦う気を見せない私に、じれたように剣を突き出してくる。
その剣捌きには並々ならぬ鋭さがあり、剣への心得を持ち合わせていることがわかる。
「お姉さま!私は戦いたくありません!お姉さま!」
対する私は剣を持つ手もおぼつかない。
二人の実力差は顕著で、今すぐにでも決着がつきそうに思える。
だが、予想に反して剣戟は続く。
私が合わせているというよりは、相手に私を殺す気が無いように見えた。
「解っておられるのでしょう!そんなことをすればお姉さまは!」
「…さぁ、何のことだろうな?」
心配ないと言うように不敵に笑いかけるお姉さま。
もう何度も見た、不器用で怖さすら感じる笑み。
なのにただただ愛おしくなるような、そんな笑顔。
嫌だ。失いたくない。私は。あなたを。
「リシア、私は、お前を…ぐっ!」
「お姉さま!」
突如として体勢を崩し、膝をつくお姉さまに私はすぐに駆け寄る。
彼女の口からは大量の赤黒い血が吐かれる。
来てしまった。この時が。あれだけ頑張って回避しようとしたこの時が。
「お姉さま!今医者を呼びます!誰か!」
「…いい、いい、…だ。わた…の、からだ…こと、はわたし…、いちば、ん、わか…て、いる。」
呼吸が荒く、発声もままならない。血の泡が口から吹き出し、ゴボゴボという音を立てる。
「馬鹿!いつもの強いお姉さまはどこへ行ったの!?」
「も…、疲れ…んだ。すま…い、リシア…」
まだか。まだかまだかまだか。なんでなんでなんでなんで。
こんな時に役に立たない力なんて。何のために。




