元日 その1
レベッカ視点です。
誰かが入ってくる物音で目覚める。
一時期は激しい痛みで長く眠れなかった私だが、少し前から痛みよりも眠気が上回り寝ている時間が増えた。
今では目覚めている時間のが短いのではないか。
どれほどの時が経ったのか解らないが、本当は状況から予測するに数日も経っていないのだろう。
頭で考えるとそうなるのだが、自分にはどうしてもそう思えないほどの時間だ。
「レベッカ、生きてるかい?」
おそらくエドワードが自分のそばに立つ。
もう、目も霞んで見えないのだ。
だが、あの声はエドワードだろう。
「ああ、もう目も見えていないのか。大変だね?」
見えずともわかる。
きっとエドワードは勝ち誇ったような目でこちらを見下ろしている。
リシアならきっと「殴ってやりたいですね!」くらいは言っているに違いない。
「もうすぐ初日の出だ。今日は君とリシアの決闘の日だよ。」
今日は元日か。
初日の出、リシアと見たかったな。
大晦日の夜は、共に時を数えながら過ごし、新年を祝い、初日の出を見に行きたかった。
来年こそ…と思ったところで、もう自分の命は幾ばくもないと言うことに思い当たり、自然と笑いが出る。
こんな状況でも、リシアとの未来を考えてしまうんだな。
「僕のアドバイス、覚えてる?リシアがレベッカを忘れて幸せに生きるには、君が悪役になればいいんだ。」
そうだな。私はもう、リシアとともには歩めない。
リシアはきっと、任されたローエンリンデを上手く建て直して自分の使命を果たした後、私を追って死ぬくらいはするだろう。
でも、私はリシアに幸せになって欲しい。
私と共に死ぬくらいなら、私を忘れて生きてくれた方がずっといい。
そんなことを痛みの中、数日考えていた。
こんな押しつけ、リシアは怒るだろうか。これも怒るだろうなあ。
怒って、嫌いになって欲しい。お姉さまなど、もう知りませんと見捨てて、他の人と幸せになってほしい。
私が嫌われて死ねばローエンリンデも残せる。リシアも幸せになる。
私の最後のわがまま、許してくれなくていい。
「さて、じゃあ一度手足を拘束させてもらうよ。それから痛み止めをあげる。恋人と会うのに動けないんじゃ寂しいだろう?」
そう言ってエドワードは私の体に拘束具をつけはじめる。
女性の体に無許可で触れるデリカシーのなさは、リシアの嫌っていたエドワード像と一致していて、らしいなと思う。
こういう人間だったのか、私の婚約者は。
自分も彼を理解するということを止めていたのだな。
たとえ相容れないとしても、理解することをやめてはいけない。
それが少し心残りだった。
「じゃあ、痛み止めの薬が効いてきた頃に迎えにくるよ。」
そう言ってエドワードは部屋を後にする。
私はこれからやるべきことを考えながら、時を待った。




