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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第七章 次は私が
112/321

王都にて

カイト視点です。

王都の街並みを馬で駆ける。

人通りは多いが、自分の馬術なら問題ない。

今はただひたすらに時間が惜しい。


「あれは、シンシアんとこの馬車か!」


少し先にハリス伯爵家の紋章の入った馬車が見える。

追いつき、併走させて、中にいるシンシアに声をかける。


「乗ってけ!どうせ急ぐんだろ!?」

「カイト様!ええ、是非!」


馬と馬車を止めると、すぐさまシンシアは乗り換え、自分の背に掴まる。


「もう行けます!」

「わかった!しっかり掴まっていろよ!」


もう幾度も馬に共に乗った仲だ。お互いの勝手は理解している。

シンシアは俺が乗りやすいよう定期的に体重移動をしてくれるし、落ちないような体勢が解っているので、全く気遣いなく馬に乗れる。一人と大差はない。


「カイト様もやはりあの書状を見て!?」

「当たり前だ!急いでもねえのにここまで飛ばす奴いねえだろ!」

「カイト様ならあり得ます!」

「うるせえ!」


シンシアも気がせいているのだろう。いつもよりどこか落ち着きがない。


今朝、我が家に書状が届いた。聞けばローエンリンデの領都からの早馬らしく、慌てて書状を開く。

そこには、エドワードがローエンリンデの領地でリシアとレベッカを襲撃、その罪を全てレベッカに被せ処罰しようとしているということが書かれていた。

そして、あのリシアからの一言。助けてほしいと。


「あのリシア嬢が助けてって言うぐらいだ!よほど事態は風雲急を告げてる可能性が高いな!」

「友人に頼られたのなら、私たちも全力でお助けするしかありませんね。」

「だな!」


俺たちはエヴァンス子爵家の邸宅へと馬を走らせた。

おそらく同じ書状がそこにも届いているはず。対応を相談して今すぐ動く必要がある。


◆ ◇ ◆ ◇


エヴァンス子爵家の邸宅前に着くと、すでに中はざわめき立っているようだ。

自分たちは中に入り用件を告げる。


「申し訳ありません!今立て込んでおりまして!」

「その件で来た!俺たちはリシア嬢の友人のカイト・ハミルトンとシンシア・ハリスだ!対応を協議したい!今すぐ子爵様に会えるか!?」

「しばしお待ちを!」


急ぎ指示を仰ぎに行った使用人はすぐに戻り、エヴァンス子爵様へと案内してくれる。


「よく来てくれた!リシアからの書状の内容は理解しているということでいいな?」

「話が早くて助かります。カイト・ハミルトンです。」

「いい、娘の友人だ。状況もある、楽に話してくれ。」

「助かる。こっちが、シンシア・ハリスだ。早速だが、今からの対応について話がしたい。」

「ああ、本題に入ろう。」


よほど養子の娘が心配なのだろう。とんとん拍子に話が進む。

ここまで出来るとは、リシアはいい養父を持ったものだ。


「今回の件、陛下が関与しているという可能性はあるのだろうか?カイトくん。」

「ありえない話ではないが、陛下の性格を考えると薄いだろうな。」

「であらば、すぐに王城にエドワード皇子殿下を止めさせる指示を出してもらうようお願いした方がいいな。」

「エヴァンス子爵家には王城の伝手は御座いますか?」

「ああ、あるとも。息子が王城に勤めていてね。今すぐ息子に馬を出そう。」


俺とシンシアとエヴァンス子爵で矢継ぎ早に話し、方向性を決めていく。


「王城からエドワードを止める指示をもらうのにどれくらいかかる?」

「早くとも明日の朝と言ったところか。それより早くはならんだろうな。」

「俺の予測とほとんど変わらないな。」

 

とはいえ、今の状況ではその1日すら手遅れになる可能性はある。

相手はあのエドワードだ。そこまで計算に入れていてもおかしくない。


「…エヴァンス子爵。俺は今からここを立とうと思う。一足先にエドワードの奴を殴りに行く。」

「待て、仮に王城からエドワード皇子殿下を止めるように指示が出なかった場合、君は間違いなく処罰されることになる。」

「構わねえよ。どちらにせよ、友達として俺はエドワードを殴ってやらなきゃならねえんだ。それに、今は一刻を争う。」

「…すまない。私は必ず王城に働きかけて指示をもぎ取ってくると約束しよう。だから、頼まれてくれるか。」

「ああ。リシア嬢もレベッカ嬢も、二人とも助けて、あいつの面を殴ってくるとするさ。任せておけ。」


そうと決まれば話は早い。

このために自分用の二日分の遠征道具を携えてきた。

このままここを立ちそのままローエンリンデ領まで馬を走らせるだけだ。

エヴァンス子爵の執務室から出て、出発しようとしたときだった。


「待ってください!…私も連れて行ってください。」

「シンシア。」


シンシアが俺を呼び止め、ジッとこちらの目を見つめる。


「やめとけ。過酷な道のりになる。」

「出来るだけ邪魔はしません。」

「遠征の用意はあるのか?二日分だ。」

「…ありません。でも今から家に帰って用意すれば…!」

「遅い。」

「それでも、私だってリシア様とレベッカ様の為に何かしたいんです!二日くらい食べたり飲んだりせずとも、何とかなります!だから、どうか!」

「あのな、シンシア。俺はお前に危ない目にあって欲しくねえ。俺の気持ちもわかるだろ?」

「それでも、リシア様とレベッカ様は私の大事な友達なんです…!」


シンシアは一歩も引かないといった顔で俺を見る。

とは言ってもだ。さすがにほとんど丸腰でついて行かせる訳にもいかない。


「では、当家でシンシア嬢の遠征道具を用意しよう。それくらいは待ってやってもいいんじゃないかい?」

「エヴァンス子爵!だが…」

「大切に愛しているのはわかる。でも、時にどうしても譲れないことがあるときは、君が守ってやれば良いんだよ。そうだろう?」

「愛しているわけじゃ…いや、そうだな。」


咄嗟に否定しようとして、嘘をついてはいけないと思った。

自分の気持ちにも、シンシアにも失礼だと思ったから。

聞いていたシンシアも、自分も、耳まで真っ赤になっている。


「シンシア嬢。リシアのことをそこまで想ってくれてありがとう。リシアを頼めるかな?」

「…はい、お任せください。」

「ありがとう。お願いするよ。」


エヴァンス子爵は今すぐ支度をさせると言って、指示を出しに執務室を後にする。

執務室にはシンシアと俺だけが残る。


「あの、カイト様?」

「なんだ?」

「先ほどの言葉ですが…。」

「この件が落ち着けば、ちゃんと伝える。だから、待っててくれ。」

「ええ。」


今はそんな状況ではない。

でも、ちゃんと伝えないといけないと思っていた。

待ってくれるんだな。シンシア。


「今から立てば、元日の昼くらいには間に合うはずだ。だが、かなり厳しい行程になる。覚悟してくれ。」

「はい。頑張ってついて行きます。でも、本当に邪魔になれば、容赦なく切り捨ててください。」


大切だから、理由をつけて断ろうとしたが、本当はちゃんとわかっていた。

きっとシンシアは邪魔になることなく、共に最後までついてくるのだと。

だから共に走ろう。あの二人の元まで。

お前となら、どこまでも行ける。







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