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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第七章 次は私が
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癒しの力

神託の聖女については謎が多い。

そもそも先代が居たのも200年ほど前のことらしい。

いつの時代にも必ず居る訳ではなく、時代の狭間にたまに存在する程度だ。

どの人も、必ず教会へ来たときに神託が下り、その場で神託の聖女と認められる。

選ばれた聖女は必ず癒しの力を持ち、その力で様々な死に瀕した人たちを救ってきた。

だがどのようにして力を発揮したかは記録に残っていない。

教会の上層部でもそれは把握していないようで、教会で修行を受けていた間も力を発揮出来ない私に頭を抱えていたみたいだ。


「つまり、教会にないのにローエンリンデの領にヒントになるような本は無いってことよね…」


山ほど堆く積まれた聖女関連の本を横目に、私はため息をつく。

どれも私が知っている情報以上のことは出て来ず、参考にはならなさそうだ。

今まで、癒しの力を発揮するために努力するのをサボり続けたことがアダになっている。


今解っていることは、この体は異様に傷病の治りが速いということだ。

恐らくそれは神託の聖女の癒しの力に関わることだろう。

それから、原作ではどのルートでも悪役令嬢の死と共に発動するということ。

コレは悪役令嬢が死んだとき、その死体を抱いた時に悪役令嬢の傷が治り発覚する。

つまりはエドワードルートではお姉さまが死なないと発動しないという条件になる。

そうは思いたくないが。


私はお姉さまから誕生日にもらった小太刀を取り出す。

一度どこか切ってみようか。傷がすぐに治るのを観察すれば何か解るかもしれない。


「何をされてるんですか!?」


自分の手首に刃を沿わせた瞬間、そばにいたアランさんに手を掴まれ止められる。


「あっ、ごめんなさい。そうですよね。」


今の行動はアランさんからすると唐突にリストカットしようとしたように写ったに違いない。

そりゃ止めるよね。


「実は、私はすごく傷の治りが速くて。癒しの力がそこに関係してたりしないかなと。」

「…それにしたって、御自身の体を気軽に傷つけるのはお止めください。お嬢様も悲しまれると思いますよ。」

「ごめんなさい。その、でしたら、上手く指先に血がぷくっと出るくらいに刺すことってアランさんなら出来ます?」

「…それくらいならいいでしょう。お任せください。」


アランさんは身長に、用意したナイフの先で私の指先を軽く刺す。

ほんの少しの痛みと共に、血がぷくりと出る。

その血を拭くと、その下に傷跡はもうなかった。


「ほら、こんな感じで。これを他人に使えたら、傷ついたお姉さまも治せるんじゃないかって。」

「なるほど。病気をされたことは?」

「思えば昔からありませんね。」

「でしたらお嬢様が冒されている毒にも効くかもしれませんね。」


私とアランさんは癒しの力への考察を議論しあう。


「お姉さまは鉱毒での不調も、私がそばにいると楽になると仰っていたんですよね。気によるものかもしれませんが。」

「いえ、事実お嬢様はここ一年で目を見張るほどによくなられました。医者から治療に10年はかかると言われたにも関わらず、です。」

「つまり私の体に常時効力があるこの力は、他人にも微弱ながら効果を及ぼしている可能性はありますね。」

「もしかすると、その力をそのまま強く他者に向けることが癒しの力の正体かもしれませんよ。」


あり得る。原作でも、悪役令嬢の死体を抱いた瞬間に治るのだ。

私の体から、他人の体にその力が流れ込んだと考えてもおかしくはない。


「では、色々試してみましょうか。」

「アランさん!?」


アランさんは手に持っていたナイフで自分の指を軽く刺す。

当然、血が出てくる。


「他人の体を治すのですから、他人の体で試してみないことには始まらないでしょう。」

「そうですね。ありがとうございます。」


私たちは怪我したアランさんの指を私が長時間握ることから始めた。

30分握れば、数日うっすら残るような傷跡も綺麗に治ることがわかった。

後はこれをどうやって強く他人に力を及ぼせるか。

色々なことを試していく。


待っててくださいね、お姉さま。必ず私が助けますから。

だから、その時まで、どうか。

信じていますよ。




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