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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第七章 次は私が
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月に願う

「何のご用事ですか。」

「事件の被害者に聞き取りにと思ってね。」

「本気で言ってます?」


今すぐビンタしてここからつまみ出してやろうか。

余裕の表情を崩さない相手にそんなことを思う。


「まぁ実際被害者は君じゃない?」

「そうですね。エドワード皇子殿下から苦痛を与えられた被害者だと思います。」

「何か証拠でも?」


お姉さまが捕らえられてはいなければ、今頃私は奴に馬乗りになってひたすら殴っているだろう。

たとえ、相手が強かろうと関係ない。


「で、雑談したくないので、本題に入ってもらっても?」

「つれないね。単刀直入に言おう。僕と結婚してくれるなら、なんとかしてレベッカを解放しよう。」

「お断りします。お姉さま以外と結婚するつもりもありませんが、あなただけは絶対にあり得ません。」

「それでレベッカが死ぬとしても?」

「そのときは、私も死にましょう。」


すでにその覚悟は決めている。一度死んでこの世界に降りたったようなものだ、今更だろう。


「そもそも、お姉さまを生きて解放するともおっしゃってませんしね。お姉さまが生きていたとて、どうやって収拾をつけるつもりですか?」

「僕にレベッカを生かして返すつもりがないと?」

「そうなのでは?」


誰がお前のその提案に引っかかるものか。

こちらはそこまで検討してここに臨んでいるんだ。


「…どうして僕の選択を受け入れない…」

「はい?」

「…いや、何もない。」


なんだこいつ。ヒステリーでも起こしているのか。

そもそも何を考えているかもわからないが。


「とにかく、私はあなたと結婚するつもりは一切ありません。ローエンリンデの女主人として、今回の事態にきっぱりと抗議をし、決着をつけ、この家に一つの安寧を招いた時、私は後を追います。提案がそれだけであればお引き取りを。」

「…レベッカにもう一度、生きて会いたくはないか?」

「ええ、まぁ、それは。」


結局、そこに行き着くのか。

答えの知っている謎解きのようなものだ。つまらない。


「元日の朝、レベッカに引き合わせる機会を作る。…恋人同士と言うのなら、最後にもう一度会う位は許してあげよう。」

「で、そちらの要求は?」

「何も。ああ、ただレベッカに失望するようなことがあれば、改めて僕との結婚を検討してほしいね?」

「はあ。そんなことはありえませんけど。条件が良すぎます。本当によろしいのですか?」


さて、引っかかった。

私は、元日の朝、何が起こるかを知っている。

それは、原作で発生するお姉さまとの決闘イベントだ。

おそらく、エドワードはここで何が行われるかを伏せた上で、何かしらの方法でお姉さまを説き伏せ決闘を行わせる。

お姉さまが自己保身で決闘を行い、私を殺そうとしたといったシナリオあたりだろうか。

それで私の気持ちをお姉さまから引き離そうとしているのだろう。

更にその決闘でお姉さまを消させれば、一石二鳥といったところだ。


だが、お姉さまは、きっと私を倒すつもりはない。そういう人だと信じている。

だから、私はそれまでに癒しの力を発現させるしかないのだ。

その力でお姉さまを癒し、生殺与奪の権を失ったエドワードを共に倒す。

私の勝ち筋はそこにある。

今はその提案に、しぶしぶ乗ってやる。


「リシアに振り向いてもらえるなら、それくらい安いものだと思ってね。」

「まぁ、私はもう一度お姉さまに会わせていただけるなら、何でもかまいませんがね。その提案、お受けしましょう。」

「では、また場所と時間を指定する使者を後ほど送ろう。」

「ええ。」


やれることはやった。後は私がどうにか力を発揮できるかにかかっている。

ひとまずその道筋への目処を一つつけた安心感で、ゆっくりソファに座り直す。


「後は何か質問は?」

「ありません。早々にお引き取りを。…いや、一つありますね。あなたは、何故私を?」

「…僕がそう選んだからだ。」

「まさか、お姉さまは周囲から選ばれ押しつけられたから受け入れないと。そう言ってます?」

「ああ。他人から選択を押しつけられただけでなく、あいつは常に僕の選んだものの上を行く。そうして、婚約を押しつけられたかと思うと、今度は僕が選んだ人を奪って、婚約破棄を押しつけた。…許せないだろう。」

「はぁ、わかりませんね。」


本当に一切気持ちが解らない。不思議なくらいに。


「あなたは他人の選択や意志に敬意を払ったことはありますか?」

「は?」

「自分に巡って来た定めを受け入れたことは?」

「受け入れて、皇子としてここにいる。」

「はぁ。それを言ったら、私だって神託の聖女になりたくなかったけど、定めだから仕方なく受け入れてます。」

「それで、何が言いたい?」

「定めを受け入れ、他人の選択や意志を尊重して、それでも譲れない何かを探して、選び取って、人は生きているんです。それが出来ない人が選択云々言ってもままごとですよ。」

「ままごととはなんだ!僕は…」

「あなたのしたことは、自分に回ってきた定めから目を反らして、他人が選んだものからも目を反らして、ただ自分は選ばせてもらえない!とワガママを言ってるだけです。おわかりでない?」

「お前にそんな説教をされる筋合いは…!」

「構いませんよ。聞きたくなければ好きにすれば。ただ、皇子として決められた婚約者を大切にするわけでもなく、じゃあ他の道を行くと決めた元婚約者を応援するわけでもない。ただ、あなたは自分で選んだ恋をしたい、だからおまえも自分を選べだ。何で自分が選ぶなら他人にも選ぶ余地があるって思わないんですか?」

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!」

「他人が選んだものを尊重しないなら、私たちもあなたの選んだものを尊重しないだけです。子供でも解る論理かと思いますが。」

「お前に僕の何が解る!」


エドワードが私につかみかかろうとした瞬間、これまで一言も発さず横に控えていたアランさんが剣を構え牽制する。


「我が主人にお触れにならないよう。次はその手を切り落としますよ?」

「ぐっ…」


ここで皇子を傷つけてしまったという事実が残ってしまうと、元日の朝がどのような結果になれど私たちに不利な理由を一つ作ってしまう。

だから、本当はそんなことはしないけど。


「とにかく。あなたが私を選んだとしても、私はあなたを選びません。…私たちは、自らのおかれた定めを受け入れ、その上でお互いを選び取り、築き上げてきた。何もしてこなかったあなたに崩せる道理などありませんよ。」


エドワードは血走った目でこちらを見た後、椅子を蹴り無言で去っていく。

少しやりすぎただろうか。でも、殴りたいという気持ちを抑えただけ頑張っただろう。

ここまでしても、決闘イベントは必ず行われる。

それは物語の強制力もあるし--自らの選択だけが正しいというエドワードの愚かさだろう。


しかし、理解できない人間の相手は筋書き通りといってもやはり疲れた。

そのまま深くソファにもたれ、少し目をつむる。

まぶたの裏には、何故だか月がぽっかり浮かんでいるように見えた。

お姉さまと見た、あの秋の月だろうか。

月よ、どうか私とお姉さまを添い遂げさせてください。

そう祈りを捧げた私は、いつの間にか少し眠っていた。


エドワードがリシアに執着したのは、リシアが入学してくる少し前からのことでした。

今までの描写通りにレベッカのことを嫌っていたエドワードは、ちょうどその時見つかった神託の聖女となら自分に相応しいとリシアを選び取りました。

だから、一人だけ入学前からその存在を知っていたんですね。

なのでわかりにくい伏線だったかなあと思うんですが、リシアが神託の聖女であると学園のクラスで紹介される前から、リシアがそうであるとエドワードは知っています。

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