馬に揺られて
クリスマスが終わり、大晦日もすぐそこに見える日。
私たちは馬小屋に居た。
「お馬さんって可愛いですねえ。」
「うちの馬たちはカイトの家の馬にも負けない名馬揃いだ。」
お姉さまが定期的に直接馬の面倒を見ているそうで、私もそれにお付き合いさせてもらった。
今はその中でも一番の愛馬というお馬さんのジョゼにブラシをかけている。
「ジョゼ。気持ちいいか?」
「ジョゼはとてもお姉さまに懐いていますね。」
お姉さまは長らく王都に居て、つい先日ひさびさに家に帰って対面したというジョゼだが、顔は忘れていないようでお姉さまにべったりだ。
「ジョゼはリシアとよく似てるなと思う。」
「私と?どういうところがですか?」
「可愛がるだけだと鬱陶しがられる。」
「ふふ、それは確かに。」
お姉さまは基本的に愛情過多のべったべたなので、可愛い可愛いでくっつかれていると嫌ではないがただ鬱陶しい。
ジョゼもそれを感じているのだろう。
「でも、人として尊敬してもらえるような態度で居ると、ちゃんと見てくれていて、尊重してくれる。」
「ああ…。格好いい時のお姉さまは素敵ですもの。」
「ジョゼもリシアも、私の事を本当によく見ていてくれるのだな。」
「では、本当によく似ていますね?」
きっと、お姉さまのそんな人となりが好きで、私とジョゼはお姉さまのそばにいる。
そんな気がする。
「明日はひさびさに遠駆けするか?ジョゼ。」
お姉さまがそう声を掛けると、ジョゼは嬉しそうにいななき震える。
体調が悪くなってから一度も馬に乗っていないと言っていたくらいだ。きっと随分と乗って貰ってなかったのだろう。
「ジョゼ、良かったですねえ。お姉さまとデートですよ?」
「良ければリシアも一緒に乗らないか。私が手綱を取るから。」
「良いんですか?」
「ジョゼ、構わないよな?」
ジョゼはまた一つ嬉しそうにいななく。
歓迎してくれているようだ。
「では、リシアも一緒に。馬上は冷えるから、暖かい格好だけ頼む。」
「ええ、わかりました。」
こうして、お姉さまが昔よく馬に乗って行ったという丘まで共に行くことになったのだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「それでは準備は良いか?」
今日は馬で遠出するということで、供回りはほとんど最低限だ。
護衛としてアランさんが来てくれるとのことで、アランさんも自分の愛馬を連れてやってきている。
「今日はよろしくお願いします。アランさん。」
「またこうしてお嬢様と馬で出掛ける機会が出来て嬉しいですね。」
エドワード様との結婚も迫っており、体調も良くなかった過去を鑑みると、そんな機会は二度と無いものと思っていたそうだ。
昔は良くアランさんを連れて遠駆けに出ていたらしい。
「なに、これからもっと機会は増えるさ。なぁ、リシア?」
「ええ、ジョゼの為にもたくさん乗りましょう。」
ジョゼも乗る前から既にもう浮かれているのが解るくらいだ。
きっとこのときを心待ちにしていたのだろう。
「それでは行こうか。」
私はお姉さまの前に乗り、後ろから抱かれる形になる。
カイト様の時にもやった体勢だが、お姉さまが後ろとなると少しドキドキする。
いきなり駆け出すことはなく、徐々にジョゼを歩かせていく。
私に気を遣って乗ってくれていることは瞭然だ。
その優しさにまた胸が少し高鳴る。
「こうして乗っているだけでも楽しいですよね。私も一人で乗れるようになろうかな?」
「乗る練習をするなら手伝うが、いつまでもこうして二人で乗っていたいとも思う。」
「乗れるようになっても、きっとこうして二人で乗っていますよ。」
お姉さまに身を任せ、ただ馬に揺られているのはとても楽しい。
恐らく一人で乗るよりずっと楽で楽しいだろう。
ただ、そんなことを思っていた。




