第8章 第12話 第2回採用試験
この度の採用試験は、何と2千人近い受験者だった。試験内容は前回とほぼ同じ。1次試験の合格者は200名とやや多く、俺が20人程素行面で落とした後は、騎士団長たちが、面接と実技で50名を選抜した。俺の方からくれぐれも、魔法の使えるものは、詳しくリストアップしてくれるよう頼んでおいたのだが、今回の試験では、エリやボア並みの魔法を使えるものはいなかったようだ。
今回も、侯爵との取り決め通り、1次合格者の内、素行不良者を除く130名は、全員クラークさんの説明を聞き、バランタイン家の騎士団への入団が決まった。何だか、バレンタイン家のための採用活動をしているような気もする。実際、最初からバランタイン家の騎士団を希望する者もいるのである。
残りの受験者は、今回も約半分が、様々な形でユファイン領への採用が決まった。これで、グランもようやく一息つけそうである。
クラークさんが、新人たちを引率して引き上げて行ってから、しばらくして、俺はバランタイン候から連絡をもらう。
手紙には、今回も優秀な人材を譲ってくれて感謝していること、今度は北の王国の領内で、多くの人が奴隷になりそうなので、彼らの身柄を、トライベッカで預かっていること、もし興味があれば、いつでも来て欲しいということ、そして、材木を安い値段で売ってもらって感謝していること、最後に追伸として、騎士団員が、もう少し欲しいことなどが書かれていた。
俺は、早速返事を出し、その日のうちに準備を整え、翌日の朝、トライベッカへ出発した。俺の横には、フミとグラン。
バランタイン侯爵の屋敷に着くと、いつもの様に侯爵は、ややオーバーアクションで出迎えてくれた。
「久しぶりです、ロディオ殿。お元気そうで何よりです」
「こちらこそ、侯爵様におかれましては、奴隷の件、感謝しています」
実は、バランタイン候は、俺の考えに賛同してくれ、新たな奴隷が出ない様、領内の気を配るだけでなく、他国の情勢まで探ってくれていた。
そして、自分でも奴隷を買い上げて好条件で働いてもらい、一定の成果で解放するという一種の慈善事業の様な事をしてくれている。領内の労働条件も、共和国の他の領地と比べて圧倒的に良いため、侯爵領内では、相変わらず人口の流入が続いている。
サンドラが公称で、人口25万、トライベッカは30万と言われているが、実は、サンドラは、25万を切っており、トライベッカは逆に35万を超えているのではないかと一部では言われている。
現在トライベッカでは、かつて俺やフミが造った運河の内側の農地をどんどん宅地に変えて人口増に対応する傍ら、バランタイン領の農民たちへは、大平原への移住が進められているそうだ。
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我がユファインは、今回の大量採用で、人口の流入に対する措置を緩和したため、すぐに1万人程増えそうである。俺は、トライベッカへ出発するにあたり、ボアにダブルウッドの基礎工事が済み次第、すぐユファインへ戻って、宅地や商業地の造成や、基礎工事をするよう、伝えておいた。
今回の奴隷になりそうだった人たちは、年齢・職業・性別、それぞればらばらで約千人。とりあえず、バランタイン候が一括して手付金を払って領内に迎え入れたのだそうだ。
俺は2週間かけて、全員と面接し、人格的に問題がなさそうな500人を引き取ることにした。手続きが済み次第、正式にスタイン家が奴隷として引き取ることとなる。無理を言ってグランに1週間ほどトライベッカに来てもらい、出せるだけの金額や人数を相談した結果、ぎりぎりの人数である。
「お館様、これ以上はさすがに無理です。確かに、観光客とラプトルの輸出が右肩上がりで、大森林の材木の輸出も始まりましたが、現状、スタイン家の収入を削りに削っての人数です」
確かに、第2回の騎士団採用試験で、我が領は、大規模採用を行ったばかり。今後も持続可能な事業にしていくためには、今回の奴隷の買い取りは、残念だがここまでとするしかない。
それでも、今回の奴隷は、バラエティーに富んでいる。面接では、それぞれ、自分が働きたい職種を俺が個別に聞き出していた。ユファインは人手不足だから、ほとんどの希望がかなえられそうだ。逆に、今回は、性格に難がある人や、犯罪者以外でも、働けない人や労働意欲の低い人までは、買い取ることが出来なかった。俺もさすがに無い袖は振れない。
「ああ……。ついに奴隷として『竜の庭』に連れていかれるのだな」などと言って絶望している人もいたので、俺もできる限り説明したのだが、なかなか信じてもらえない。確かに誰だって、社会の底辺に落ちた先に、ホワイトな働き方があるなんて、想像できないだろう。
奴隷の中には、騎士団や商会で働きたいという者もいたので、それぞれサラやソフィたちに預かってもらう。雑用からスタートして出来ることをさせてやって欲しいし、逆に務まらないなら、俺の下に返してくれてもいいことを伝えている。何とか皆が納得して働ける領地にしていきたい。
多分、これが俺がこの世界に呼ばれた理由だとも思うのだ。




