第5章 第6話 エルフの掟
エルとロイが俺に話してくれたことには、3女以下のエルフ女性は、成人するとその強制的に自分の生まれた里の外へ出されるらしい。これは、エルフの純血種であるハイエルフも、他の種族とのハーフやクォーターである一般的なエルフや山エルフといわれるダークエルフも同様である。
彼女たちが里の外に出される一番の目的は、結婚をして子供を授かること。そうでもしないとエルフは人口の減少に歯止めがかからないらしい。
しかも、少しでも魔力の強い子孫を残すため、夫には自分以上の魔力の持ち主が好まれる。
ドワーフやホビットは、例え魔力があっても身長の問題もあり、エルフからあまり好まれない。この世界の女子も、自分よりも背の高い男性を好む傾向があるようだ。
結局、人気が集中するのは、数少ないエルフの男性と、これまた数少ない魔力の多い人間の男性。
彼らを射止めて見事自分の里に凱旋してこそ、立派なエルフ女性として、一族から認められるらしい。
なら、エルフの里の鎖国制度をさっさと改めればいいと思うのだが、そこは、古くからのしきたりを守ろうという考えを持った勢力が強く、伝統文化の保持のため、他種族の流入は長きにわたってタブーとされてきた。そんな中、ハウスホールドは、『賢王』ダグリュークが即位してから、開国路線に舵が切られようとしている。
エルとロイは若く見えるが、2人とも既婚者で、それぞれ魔法学院出身の優秀な人間の魔導士を旦那にしているらしい。ちなみに2人の実年齢は誰からも触れられておらず、現状不明である。外見年齢は20代半ばなので、俺もそういうことにしている。
彼女らはそれぞれ旦那を連れて故郷に錦を飾ったらしいが、そんな例は少ない。大抵が、たとえ結婚して男を里に連れて帰ったとしても、魔力量が少ない人が多く、大半のエルフ女性は肩身の狭い思いをしているらしい。
「ですから、必死に頑張るララノアを、とても他人とは思えないのです。私たちも婚活していた時は、ちょうどあんな風でしたので」
ララノアが俺なんかを恋愛対象としてロックオンしてくれているのは光栄だし、何しろ彼女には、他の女子と違ってフミに対して一歩も引かない意志がある。
俺としては、美少女エルフのララノアに対して好意以外持ちようがなく、何とかして彼女の役に立ちたいと思うくらいである。
ただし……だからと言って、絶対にフミには相談できない。
かつて俺がララノアのことを「そんなに悪い子じゃないんじゃないかな」と、気軽に発言したところ、フミはいきなり怒髪天を突き、鬼のような形相でいつもの決め台詞を俺に投げつけてきたからだ。
「もし、ロディオ様に何か間違いでもあれば、フミは、亡き奥様や旦那様に何と申し開きをしたらいいか!」
実は、ロディオは『女たらし』なんて言われていたものの、フミの奮闘のせいで一度も間違いなんてなかったらしい。フミからそのことを聞いて、俺は初めて元のロディオを許せる気になったものだ。
◆
俺は仕方なく、こっそりとグランに相談する。
「うーん。そうですねえ……。とにかく、そういうことでしたらお館様はララノア様にもう少し優しくするべきだと思います」
「今までララノア様は、お館様の力になろうと頑張って来られたと聞いています。そのお気持ちに報いるべきかと」
こいつはララノアの回し者か? もしくは、ララノアが好きなのか? よくよく考えれば、グランは父親や叔父に似ず、かなり魔力量が多い。
何しろ、この世界で珍しい黒目黒髪の持ち主である。魔法は家庭教師から学んだそうで、初級魔法は全て使え、生活魔法はお手の物。本人は護身術程度ですと謙遜するが、攻撃魔法もかなりできるはずだと俺はにらんでいる。
なら……ごくり。
「今度、俺に付き合う様に」
俺は訝しがるグランにそう告げたのだった。




