第5章 第3話 故郷
トーチを出発した俺たち一行は、そこから4日で、サンドラに到着。運河に水を満々と満たし、工事が無事完了した。思い返せば、ここサンドラは、俺がこの世界で過ごした最初の街でもある。
サンドラに到着すると、クリークさんが出迎えてくれた。共和国との事務的な手続きを任せて、バランタイン邸へ。その日は、『アイアンハンマー』の皆さんと一緒にゆっくりくつろぐことになった。
「今回の仕事は、ごちそうや豪華な部屋に温泉と、何だか申し訳ねえなあ」
「いやいや、今回も丁寧な仕事ぶりに頭が下がる思いでした。ところで、皆さんは、普段農業をされているんでしたよね。具体的にはどんなことをされているんですか?」
俺の言葉に少し表情を曇らせる5人。どうやら、彼らの故郷は、最近、農作物の出来が悪いらしい。近年稀にみる不作だそうだ。そんなこともあり、今回の依頼を引き受けたのだとか。
「いっそのこと、専門の冒険者になられたらいかがですか?」
「わしらは土と共に生きる者。農業から完全に離れた生活は考えられんよ」
「それなら、ウチに来ていただくのはどうですか?」
「え?」
「ユファインへか!」
「そうです。今、ユファインでは、大規模な農地を開拓中です。そこで是非、農業の専門的な知識を持つ人材が欲しいのです。私は、あの土地の動植物の大きさを見るにつけ、もし、ここで農業をしたら、どれほどのものが出来るのだろうかと考えていました。皆さん是非、お願いします」
「いや、いや、そんなに急にお願いされてもなあ……」
「ユファインで働いてもらうのは、後で考えてもらってもいいですよ。懐かしい場所で久しぶりにくつろいでもらって、ついでに農業についてのアドバイスを頂ければありがたいのですが……」
「……よし、わかった! どうせ、ハープンの顔を久しぶりに見たかったところだ。ユファインの農地がどんなものか、一度見るだけならみんなで行ってもいいか?」
こうして、俺たちの帰郷に、『アイアンハンマー』の皆さんも同行することとなった。
◆
次の日、俺とフミは二人で街を散策。ギルドに売却したかつての屋敷や、2人で来たカフェなんかを巡って過ごした。
「何か、ここで生活していたことが遠い昔みたいだな」
「はい」
笑顔でうなずくフミは、サンドラ生まれのサンドラ育ち。高熱を出す以前の記憶がない俺とは違って、一際、思い入れのある街に違いない。
俺たちがここを出て、まだそれほどたっていないのに、街には亜人が増え人口や活気も以前より増している。
その一方で、顔見知りの街の人は、俺やフミを見ると、相変わらず気さくに話しかけてくれる。
「あ、ロディオ様~。お久しぶりです♡」
「久しぶりだね。元気してた?」
「もう、ロディオ様!」
痛たたたた……。
「よう、フミちゃん、元気してたか!」
「はい。見てのとおりですよ。おじさんも相変わらずですね。串肉二本ください」
「フミちゃんかわいいから、一本おまけね~」
もう、口がうまいんだから~♪
こんな調子で、俺はフミと腕を組んで……。というか、正確には組まれて、街をのんびりと散策したのだった。
「本当に良い街だな」
俺の言葉に笑顔で頷くフミ。
「私もこの街が大好きです」
「ユファインは、ここ以上の街にしような」
「はい」
あの日、初めて腕を組んでサンドラの街を歩いた時と同じ様に、俺たちは石畳をゆっくりと歩いた。
そして、翌日、できたばかりの運河に浮かんだ船に乗り込み、俺たちはユファインに向けて出発したのだった。




