第4章 第4話 論功行賞 その2
「次に冒険者についてですが……まずはレイン」
「はっ」
「使節団で索敵を担い、更にラプトルの群れを制圧。その肉や素材は我が領内を潤してくれました。ハープンと共によく護衛の任務を全うし、ハウスホールドの運河造りではハープンの代理を見事、務め上げてくれました」
「貴殿には、我がバランタイン家筆頭お抱え魔導士兼冒険者として、新たに仕えて欲しいのですがどうでしょうか?」
「……はい、謹んでお受けいたします」
「そなたから、仕えるにあたって何か要望はありますか?」
「私は魔法の研究をしております。願わくば、私が魔法の研究に割ける時間と環境を頂きたいのですが」
「うむ。それに関しては、ロディオの時から始めた研修制度を拡充しましょう。毎月基本給や必要経費は支給しますが、大きな仕事のない時はトライベッカなど、我が領で自由にしてもらってもかまいません。必要に応じて呼び出すという形ではどうですか?」
「ははっ、有り難き幸せです」
「レインも無位無官では今後やりづらいでしょう。ロディオとハープンの後任なのですから、男爵の爵位はどうですか?」
「失礼ながら、私はあまり爵位には興味がないのですが」
「そう言うと思っていました。しかし、商都には、男爵以上の貴族しか立ち入ることの許されていない宝物庫がありますよ。貴重な古書も多いと聞きます。私を含め、ほとんどの貴族には無用の長物なのですが、古今の魔導書を集めているそなたからすれば、男爵の爵位は魅力的だと思うのですが」
「そ、それは真でしょうか。男爵の爵位、有り難く受けとうございます」
あの冷静なレインが珍しく、顔を上気させて声を上ずらせている。
「まあ、男爵になるにあたり、装束など物入りでしょうが、その辺の所は、後で連絡します。本業以外の仕事も少しは有るかと思いますが、そこは了解してください。とにかく悪いようにはしませんので、細かいことは私に一任を。レインにも1億アールを与えます」
何だか後半、やけに早口で歯切れが悪かったが、レインとしては好条件だったらしく、目を輝かせている。
伯爵、絶対、レインを売り出そうとしているな。似顔絵などが入ったグッズをはじめ、様々な商品に『レイン男爵御用達』のキャッチコピーを添えて、売り出すつもりに違いない。
「次は、『サラマンダー』」
「「「「はい!!!!」」」」
「そなたらは、今回の活躍で、A級パーティーへの昇格が認められることとなりました。個人としても全員がA級の冒険者に認められるでしょう。皆、騎士爵位をもらってください。そして支度金として一人頭1千万アールで、我がバランタイン家のお抱え冒険者になって欲しいのですが、いかがでしょうか」
「サラとマリアの2人には、ディラノの討伐もあることですから、500万アール上乗せしましょう。ディラノについては、勝手な独断行動という事で、表向きには、評価できませんが」
「……はい、我ら『サラマンダー』一同、謹んでお受けいたします」
しかし、ここに予定調和のごとく流れるような空気に、一石を投じる一人の女がいた。
「ちょーっと待ったー!」
「何ですかマリア。伯爵様、いえ侯爵様の御前で失礼ですよ」
サラにたしなめられ、セレンとセリアにマントを引っ張られるも、マリアは引かない。2人を引きずって一歩前に進み出る。
「ご無礼をお許しください侯爵様。不躾ながらこの、ティア・マリア=マリージュは、すでに騎士爵位であります」
「そうでしたね。失礼しました。そなたには準男爵がふさわしいのでしょうか?」
「いいえ、私には爵位など必要ありません」
「ほう、ならば何が望みですか?」
「私の、私の褒美は……レイン様がいいです」
◆
マリアの強い気持ちは、その場にいた者に強い衝撃を与えた。その真っ直ぐな想いに、ある者は何故か感動してうっすらと涙を浮かべ、ある者はドン引きし、またある者は非常に面白がった。そしてこの場で一番面白がっていたのは他でもないバランタイン侯爵である。
「わかりました。それでは、マリアには準男爵の爵位とA級冒険者への推薦、そしてサラ同様、支度金を500万アール上乗せして、レインの補佐として、改めて当家に仕えてもらいます。もちろん、『サラマンダー』からは脱退せず、二足の草鞋となりますが、構いませんか?」
「はい、喜んで」
「レインも構いませんね?」
伯爵が言うやいなや、レインの周りを『サラマンダー』のメンバーが取り囲んだ。
「レイン殿、いつまでも逃げ回ってないで、覚悟を決められよ」
「そうです、乙女の純情を無下にしないでください」
「マリアちゃんはきっといい子なので、幸せになって欲しいのです、です」
「私も同じ気持ちです。マリアは、何故か、他人のような気がしません」
何故かフミまで『サラマンダー』陣営に加わっている。
「……みんな、ありがとう」
目に涙をいっぱいにためて、お礼を言うマリア。まるで、これから結婚する新婦みたいだ。勝手に盛り上がる女性たちとそれを面白がる領主……どうすんだ?
異様な雰囲気になった。女の子たちは、完全に仕事とプライベートを混同している。ここでレインがOKすれば、それは例え職務上の事でも、ここにいる女性たちからは、マリアはレインの『嫁』認定されることになるだろう。
大体、マリアをはじめ『サラマンダー』の女の子たちも、逆の立場で自分が興味のない男から好かれたら、いくら熱烈に言い寄られても、平気で袖にするだろうに……。
当のレインはやや俯いて……。
「わかりました。お館様、私は、その条件でお受けいたします」
「きゃーっ!」
目に涙をいっぱい貯め、『サラマンダー』の皆と抱き合うマリア。なぜかフミまでもらい泣きしている。
その日は、皆で夜更けまで飲んで食っての大騒ぎ。バランタイン家の使用人の皆さんももれなく合流してもらい、追加の料理を何度もレストランから取り寄せてもらうこととなった。
ちなみにマリアをはじめ、『サラマンダー』の4人は、サラの鶴の一声で、来週から、秘密特訓に入るらしい。バランタイン家への正式雇用は、その後になるそうだ。




