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オフィーリアと一緒の観劇は今までにない高揚を私にもたらせた。
自分が自分でない世界に旅立ったように新鮮な気持ちになれた。
そして、私は考える。
今のまま、お父様とお母様が言う通りに勉強だけして、皇太子妃になってもいいものなのか、と。
私は本当にそれでいいのかと自問自答をする。
「エレノアっ!あなた、今日、皇太子妃教育を放り出して遊びに行ったそうね!あなたは一体なにを考えているの!?皇太子妃選定までもう間もないと言うのに!!ここで、他の候補者たちと差をつけないとダメではないの!!」
自分の今後について一人自室で考え込んでいるとノックもなしにお母様が部屋に怒鳴り込んできた。
金切声で口早に捲し立てるお母様の言葉に私は身をすくめた。
「いくら、可愛いオフィーリアがあなたを誘ったとしても、あなたはちゃんとに断らないといけないわ!オフィーリアとの観劇だったら私がいくらでも時間を作って行くというのに。なにもエレノアを誘わなくても……。エレノアもエレノアよ。なぜ、断らないの!あなたには次期皇太子妃になる自覚がないのかしら!?」
「……お母様。お言葉ですが、先日のお茶会ではソフィーナ様もアリス様も皇太子妃教育だけではなく、様々な趣味をお持ちでした。その趣味を皇太子妃としてどう活かしていけるかを模索しておりました。本当に皇太子妃教育だけが正しいのでしょうか?」
お母様に逆らったことなどない。いつもお母様の言う通りに、お父様に敷かれたレールをただ突き進んでいた。
お母様に反抗するのも勇気がいったが、ここでまたお母様の言いなりになってしまったら、私はもう変われない気がした。
震えながらもお母様に問いかければお母様は一瞬面食らった顔をした。
だが、すぐに気を取り直したのか、目を吊り上げる。
「あなたは私の言うとおりにすればいいの!余計なことなど考える必要はないわ!!」
「いいえ。お母様。ソフィーナ様もアリス様も活き活きとしておりました。私もそうなりたいのです。自らの道を自分で選択したいのです。」
パシッ!!
そこまで言うとお母様からの平手打ちが飛んできた。
私はお母様の力に負けて、その場にバランスを崩して倒れてしまった。
「なぜ、あなたはそんなに我が儘を言うのですかっ!!いいですか、あなたが皇太子妃になることはあなたが産まれた時から決まっているのです!!あなたがなにを望んだとしてもあなたが皇太子妃になることは決定事項なのよ!!」
「……皇太子妃にならなければならないことはわかっております。ですが!皇太子妃教育だけでなく、外に出て直接世間を見ることも大事なのではないでしょうか!」
「それで?観劇に行きたいとあなたはオフィーリアに我が儘を言ったのね?そういうことね?」
「外の世界を見てみたかったのです!」
ここで、オフィーリアに強引に観劇に連れ出されたとは言えない。もし、言ったところでお母様は私の言葉など信じないのだから。
どうせ言ったところで私がオフィーリアを誘ったと言うのに違いないのだから。
「外の世界など見なくても結構!あなたは皇太子妃になることだけを考えていれば良いのです!!」
「勉強だけしていれば正しい皇太子妃になれるとは思いません!」
だんだんとヒートアップしていく私とお母様の喧嘩。そこに、お父様がやってきた。
「エレノア!おまえはまた我が儘を言っているのか!!」
お父様も怒り心頭のようで私に近づくなり胸倉をつかんでくる。あまりの迫力に私はぎゅっと目を瞑った。
「お父さまっ!お母さまっ!!エレノアお姉さまに何をしているのですかっ!?」
そこに、騒ぎを聞きつけたオフィーリアもやってきた。
お父様とお母様はオフィーリアの声を確認すると、一瞬だけオフィーリアの方に視線を向けた。けれど、その視線はすぐに私に戻される。
「エレノアが我が儘ばかり言って私たちを困らせるのが悪い!!皇太子妃教育にどれだけ金がかかっていると思っているんだっ!!」
「私は外出用のドレスを一着しか持っていませんっ!!」
確かに教育にはお金をかけてもらっているのだろう。
でも、オフィーリアのように潤沢に与えられるお小遣いも、外出用のドレスも私には与えられていない。
「それがなんだっ!おまえは外にでないから外出用のドレスなんぞ一着もあれば十分だろう!!我が儘を言うなっ!!」
「お茶会に毎回同じドレスで行くのは相手に失礼だと聞きました。それに、同じドレスばかり着ているのは侯爵家が資金繰りに困っていると噂される要因となります。せめて何着か外出用のドレスを……。」
「ええいっ!!うるさい!!おまえは、皇太子妃になるんだから皇太子妃になったら税金で贅沢をすれば良いではないかっ!!」
私が何を言ってもお父様とお母様には伝わらないようです。
そして最後には、
「もういい!おまえがそんなに我が儘ばかりを言うのならばこの家から出ていけっ!!おまえは侯爵家の人間ではないわっ!!」
と、お父様に啖呵を切られました。




